第1-2話

剣の開いた裂け目に飛び込んだは良いものの、

眼前に広がる光景は黒い闇で包まれていた。


(なんも見えん、暗すぎる!)


閉じていく裂け目に飛び込んだ幸太は足元すら見えない暗闇に包まれていた。先程の森と異なり、光源となる植物も存在しない空間は宇宙のようで、

上も下も分からない。

しかし、彼の背負う剣の刀身から放たれている光は

かすかに周りを照らす。


(これは…剣が俺を導いてるって事にしとこう!)


これを頼りにしなければ足元すら見えなかった。


「………おっ!出口だ!」


光は先程の裂け目から見えていた神殿跡を照らしていた。

周りを見渡すと完全に閉じられた空間で、先程入って来た入口すら無かった。


(あれっ…さっきの入口無くなってるし…まぁ剣で同じ様に次元を切断すりゃいいか!)


剣に導かれ終点へと降りていく。辿り着いた神殿の最下層は異質なものだった。これまでと空気が一変していた。確かな力を感じるその空間は禁足地、

或いは神域と形容されるものだろう。光が天から

指すその中心には一人の女が囚われていた。


「………」


血の様な紅い髪に青ざめた肌をした人ならざる

美しい姿だった。しかし、四肢を鎖と枷で拘束され、胸に杭が突き立てられている。血が乾く事無く滴り赤く染まっている。


「ひでぇことしやがる…」


ぼそりと呟くと、動く筈のない体が動き出した。

顔を上げ、光を失った黒き目でこちらを見る。


「……あぁ…夢…では無いようね…?」


(生き返った!?…)


確実な死から蘇り言葉を口にする。

胸に杭など刺されば生物は死ぬものだ。だが、

目の前の女は痛みすら無いような表情である。


幸太は最初こそ驚愕する様子をみせた…が…


(……!? 大事な所が見えそうになってる!?)


杭の刺された胸の横は着ている衣が破けていて、

肌が露出している状態であり、異様な状況よりも

そちらに気を取られてしまう。


(落ち着け!落ち着け俺!自然体で助けよう!!

俺は何も見ていない!目を見て話そう!)


顔が真っ赤になりそうなのを隠して石の様に表情を固めた彼に虜囚は尋ねた。


「アンタ…誰?私みたいに封印されたの?」


「い…いや、違うけど…とりあえずその拘束は

解いた方がいいんじゃ…」


「…不可能よ…この封印は不死の私と一体化して、いくら破壊しても元に戻るだろうから…そんな事の為に来たの?」


彼女は脱出を既に諦めている様子だ。


「えーと…俺はここらへんの道を知らなくてね…

歩いてたらここに辿り着いたんだ。」


「…………?????」


明らかに思考が止まった様子で驚愕する顔をした。


「な、何を言って…そもそもこの封印にただ歩いて

入って来れる訳無いでしょ!?神を閉じ込める封印なのよ!?何なのアンタは…意味が分からない…!」


幸太は彼女の反応から、自分が異常者だと判断されるだけの事をやらかした様だ。


「ほ、ほら…この剣をスパっとやったら入って

来れたよ?だから脱出も出来ると思う…」


重い剣を精一杯の力で鞘から抜き、彼女に見せる。


「その剣は…!それを持ち出せるなら…

この封印に無理矢理入って来れる訳だわ…」


「うん…!、鎖に付いてた鍵が壊れてたんで簡単に

開けたよ…相変わらず重いぃ…!」


………彼女は絶句して言葉を失っていた…


「……ひとまず感謝するわ…私は……その剣が最後の心残りだったから。」


「そうか…」


「…この封印を解く方法とか無いのか?」


「……不可能よ…その剣があっても…

私の不死の力を依り代にこの封印は展開されてるのよ。これがある限り私永遠に出られないの…まあ

世界が終わる事があればこの停滞も終わってくれるかもしれないけどね…」


「何だそりゃ…」


「まぁ…久しぶりに人と話せたのは悪く無かった…でも私は何も出来ないのよ…もうこれ以上の苦痛を

抱える事なんてしたくないの…分かる?

私は苦しみ以外に何も無いのだから…」


俯く彼女は僅かに涙が零れていた。


「…」


「早く帰って…何もかもどうでもいいの…!

知りたくも見たくも無いの…!…もう何もかも…

無駄なのだから…私一人が我慢すればいいのよ…」


(…この子は自分をこうした奴に恨み言も吐かず、一人で背負うとしているのか…ひとまず

今やるべき事は単純だ。この封印を破壊して

やればいい。その後はムカつく元凶の顔面に

一発ぶちかましてやる!)


「…一体何を…」


(やり方は何となくだけど…剣の封印と同じ様に

ボロくなってる箇所をぶっ壊して本体も

ぶち壊してやればいいんだろう!)


彼女の杭に触れると、内側に何かが蠢いていた。


「解除なんてもう無理なのよ…」


剣を使い綻びの切断を試みる、今まで、重かった剣は光を強め、自分に合わせて動く。


「絶対にできらァ!!」


杭は切断したが、瞬間に再生して元の姿を取り戻す。

 

「もう私の事は放っておいてよ…!」


「断る!」


切断した杭は血で赤く染まっていた…が、僅かに

血で染まる事の無い箇所が蠢いている。

もう一度杭を斬り裂いて、蠢く何かを掴んで

引きずり出す。


「なっ!?なにが起きて…」


引きずり出した異物は白いミミズのような

気味の悪い姿の怪物だ。


「こいつをブチのめせばいいんだなぁ?」


「これは…!逃げて!アンタまで封印されるわよ!?」


封印の杭が維持出来ずに形が揺らぎ始めた。

封印を維持する為か、彼女の杭に向かう怪物に

剣を振り下ろして妨害する。


「いいや!君の封印が解けるまでとことんコイツの邪魔をしてやるぜ…!」


こちらを敵と認識したのか、怪物は襲いかかって

来る。

大口を開けて噛みついて来るが…戦闘に不慣れな

幸太は自分の足によろけて当たらなかった。


「ッ!危ねえ…!」

凄まじい速さで動くため、目で捉える事が限界で、

剣で防ぐのがようやくといった所だ。


(死ななかったのはラッキーだ…しかしあんなに速いんじゃ剣が当たらねえじゃねぇか…!あいつに…確実に当てるには…)


「来たなッ!」 


攻撃を防ぐ事無く、壁に叩きつけられる。

そして怪物は右足に牙を突き立て、喰い破り始める…しかし。


「…ッ…!よォし…!見つけたぞ…!」


噛みついた獲物に狙いを定め、剣を振り下ろし、

力任せに何度も叩き切る。

肉を踏み潰して引き千切り、頭を刎ねられても、

怪物は動き続ける。


「しぶてぇなぁ…!…けどよぉ…どんな生き物でも死ぬまで殺し続ければ必ず死ぬんだよ!

挽き肉にしてやるぞ…!この蛆虫野郎がァ!」



………原型を失い、ペースト状になるまで怪物は

斬り刻まれ遂には動かなくなった。


「ハァ…ハァ……!…まだまだ決着はついてねぇぞ…!」


動かないそれを何度も何度も斬る。そして…


「!?これは…封印が…!」


彼女を封じる全てが光となって崩れていく。

どうやら決着がついたらしい。


「……ッシャアァァァ!!!!ザマァみやがれ!

蛆虫野郎!ギャハハハハ!」


「…本当に…私自由に…!?」


「外に出りゃあ分かるさ!よし!こんな場所から

とっとと脱出だ!」


剣で裂け目を開き、暗き森へと向かう。


「ああ…本当に…もう一度外に出れるなんて…!

…ありがとう…」


「別にいいんだよ!大した事では……!?」


突如として、負傷した足にズキリと痛みが走る。


「痛っでえ"ェ"!!ぬ"あ"あ"あ"ァ"!」


消えた痛みが蘇り、先程の勇姿からは想像も

付かない情けない声を上げ、足を抱えて転がる姿は

何とも間抜けだった。


「ぷ…ふふふ…アハハハハ!」


彼女は、初めて見た笑顔はとてもいい笑顔だった。


「アハハハハ!だっさ〜!アハハハハ!

エヒヒ…!!」


「ちょっと!?笑わないで!?マジ痛いよ!? 」


「アハハハハ!ハーッ…!だってこんな馬鹿げた

やり方をする奴なんて初めてよ!?アハハハ!

お腹痛い…!ふへへ…!」


「ひどい!?…プフっ…ハハハ!」



釣られて自分も笑い転げる。

いつぶりだろうか…

こんなにも心から笑った日は…




続くます




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未練無く天に昇っていたが、転生してしまったので邪神と生き甲斐を探す。 @kurukku-poppo

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