第1-1話

…蜘蛛の糸に導かれ、目覚めた場所は木の内側を

くり抜いたような空間の中だった

光先は太陽の光なき森だった。


「暗…」


空は木々によって覆い隠され朝か夜かすら判断できない。しかし地面には光る植物が生えている為、

視界は確保できそうだ。


「何で記憶残ってるかなぁ…」


生への未練も生き甲斐のゲームや漫画も無くなった

彼は全てが抜け落ちてしまったようであった。


「…はぁ…仕方ないか…」


重い腰を上げて起き上がると自分の身体に植物が腹から生えていた事に気が付く。

それはまるで赤子のへその緒であり、役目を果たしたのか枯れていた。


(木の中で産まれたって事?一体どういう生態してるんだよ…)


一度自分の身体を確認してみた所、転生前よりは

体格が小さくなったが、産まれたばかりの人間にしては少年程の体格に発達していた。


「うーん…耳が変な感じだな…」


そして耳に触れるといつもより耳が長く、聴覚も鋭く感じられた。

これらの特徴から何となく自分が何に生まれかわったのか察しがついた。


「俺はエルフになったのかぁ…」


森と共に生きる長命な弓の使い手、エルフである。


「エルフなら木の中から産まれてもまあおかしくはない…のか?」


疑問はあるがひとまず身体の確認を続ける。


(体が縮んで耳が変化した以外に異常はないか…

俺のマンモスも元気だし…)


……………


「スッポンポンじゃねーか!?」


今の自分は一糸まとわぬ姿で森をうろつく露出狂と化していた。


「まずい…!もし人が来てしまったら弁明のしようがない!どうしよぉー!……ん?」


未練が無くとも恥の概念はまだ持ち合わせていた

幸太は視界に見覚えのある物が映る。


「こっ…こいつは…お気に入りのダボダボパーカーだ!…下着まで!?しかも汚れ一つ無い!なんでこんな所に綺麗に畳んで整頓された状態で!?…まあいいか…」


自分が転生する前に来ていた服には糸を編む蜘蛛の紋様が小さく象られていた。


「俺のパーカーこんな高級感あったかな…」


衣服は上質な肌触りであり、身体の大きさが変わったとは思えない程に身体に馴染んだ。



「そういやあの蜘蛛さんが転生する時に何か言ってたな…」


恐らく自分に対してアラクネが作成したのだろう。



(あの蜘蛛さん何で助けてくれたんだろ…

施しを受けた以上、生きる他無いねぇ…)



森は暗く、足元が少し見える程度だ。その上、自然

豊かな森でありながら生物の気配一つ無い不気味な空間に足音だけが響く。

完全な孤独の状態だったが…彼は気にならない理由があった。


(ちくしょう…!何でファンタジーなエルフに転生したのに何でこんな身体能力低いんだよ…明日絶対筋肉痛だよ!)


これまでの運動不足が転生後の肉体にも影響したのか、はたまたエルフの身体が貧弱なのか………

とにかく疲労


「ハァ…ハァ…!…広いし!暗いよ!

この森はよ…!…ハァ…!」


同じような森の風景に愚痴を吐く。

彼にとって何ヶ月分にも相当する運動を続けた探索の末にようやく変化が訪れる。


「やっと…人工物にたどり着いたぞ…!」


彼が見つけたのはとても広い空間に建てられていた

小さな神殿らしき建造物だ。

神殿内部は人の痕跡は足跡一つ無く、どれだけ放置されたかすら分からない。


「……そら人は居ねぇよな……」


一方で、中央にはあからさまに危険な何かが未だに残されいた。


「…こりゃあ触れちゃいかんタイプのヤツだな…」

それは歪んだの鎖を厳重巻かれて封をされた浮遊する長方形の物体だった。


蓋や鍵穴すら見当たらないが、わずかに内側から赤い光が放たれている。

この何も無いこの森で異様な存在感を放っていた。


「見るからに危なそ〜、でも気になるな…」


ゲームをする時の様な感覚で危機感すら抱かず、

物体に近づく。


(やはり開く場所は無いな…封印っぽく見えるけど実はセーブポイントとかが解放されるんじゃ…

やっぱ直接触るしかないかぁ!)


鎖に付けられたボロボロの錠に触れてみる。

ガチャリと錠の開く音がする。経年劣化で既に

壊れていたのだろうか…中央の封印が鎖から解放

された次の瞬間、本体にヒビが入り始め、音を立てて崩れ始めた。


「ああっ!!畜生!やっぱりヤバいもんかよ!?」


赤黒い光が轟音と共に内側から溢れ、視界を包む。 

ようやく光が収まり、目を開き、自分には何も被害が無い事を確認する。


「ん…あれ?生きてた!何で?」


目の前には自分の体より大きく、ずっしりと重い剣が落ちていた。鞘の内から赤い光が溢れている。そして剣は儀礼的な処刑を行う為に作られたであろう断頭剣だった。しかしそんな知識は幸太に備わっていなかった。


(これ意思のある剣に選ばれたというヤツか?)


まるで特撮ヒーローのおもちゃに触れた少年のようだったが…


「重たっ!うおぉ…」



剣を持ち上げるので精一杯で、鞘から抜く事すら困難だった。

しかし、封じられていた武器という一点に惹かれ、彼は無謀にも剣の試し斬りを始めた。


「こりゃあイケてるな」


飾り気のない無骨な剣は黒い刃に赤い光を僅かに

纏っていた。

ゲームの様な武器を手に入れた様な高揚感に、

包まれ、格好つけて剣を振る。


しかし身の丈に合わぬ武器を感覚だけで振り回すとバランスを崩して逆に剣に振り回されてしまう。


「いでぇ!」


情けない格好で地面に突っ込んでいく。しかし

その最中に、剣が赤黒い軌跡を描いて、斬り裂いた空間に爪痕を残していた。


「いてて…ん?ウォオォ!最高だぜこいつ!」


切り開かれた爪痕の中に見えた物がある。


ここよりも更に朽ち果てている神殿跡だ。

そこら中にヒビが入っていて、崩れていない状態で残っている事が奇跡的だろう。


(………ヤバそうだし後で準備してから来るか。)


そんな甘い考えに対し、裂け目は彼を急かす様に

縮小し初めた。


「ハァ…もっかい行けるか分かんねえし…

もしかしたら時間限定イベントかもしれないし…

行くっきゃねぇ!」


鞘に収めた剣をズルズルと引きずって裂け目の内に飛び込んだ。


続きます

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