THE FIRST FREEDOM 〜猫鳴山・二ッ箭山・月山〜
早里 懐
第1話
私を山登りの沼に引き摺り込んだのは山登りを趣味としていない友人だ。
この山登りを趣味としていない友人と昨年の5月に福島県いわき市に鎮座する二ッ箭山に登った。
私が登山を始めることになったきっかけがこの体験だ。
そんな山登りを趣味としていない友人と約1年半ぶりに再度、二ッ箭山に登った。
報せは突然だった。
二ッ箭山で山登りのイベントをやるみたいだから一緒に登らない?と連絡があったのだ。
私は山登りを趣味としていない友人からの珍しいお誘いを二つ返事で承諾した。
繰り返すが、その友人は山登りを趣味としていない。
従って分厚いダウンジャケットとジーパンという久利生公平スタイルで待ち合わせ場所に現れたのだ。
このスタイルのハイカーを私はまだ見たことがなかった。
フリーダムとはこの友人のためにある言葉なのだろうと私はこの時に思った。
駐車場は小川市民運動場だ。
すでに多くの車が停まっていた。
私たちはシャトルバスに乗り込みスタート地点の茱萸平まで移動した。
登り始めると山登りを趣味としていない友人がおもむろにザックの中からパック入りの飲むヨーグルトを取り出して飲み始めた。
山でパック入りの飲むヨーグルトを飲むという感覚が私にはなかった。
フリーダムとはこの友人のためにある言葉なのだろうと私はこの時に思った。
暫くすると分厚いダウンジャケットが効果を発揮したようだ。
山登りを趣味としていない友人が暑いと言い出して分厚いダウンジャケットを脱いだ。
速乾の対義語として存在するような生地のロングTシャツが汗でびしょ濡れになっていた。
しかもよく見ると肩甲骨あたりにポケットが付いているではないか。
要するに前後が逆なのだ。
私は山登りを趣味としていない友人に対してロングTシャツが前後逆である事を指摘した。
すると山登りを趣味としていない友人は笑いながら「本当だ」と言った。
…。
…。
…。
直そうとしない。
山登りを趣味としていない友人は私の指摘でロングTシャツが前後逆である事を認識したのにもかかわらず直そうとしないのだ。
フリーダムとはこの友人のためにある言葉なのだろうと私はこの時に思った。
この山登りを趣味としない友人とは小学校低学年からの付き合いだ。
なんでも話せる仲というのはとても貴重だ。
会話が弾みあっという間に尾根に辿り着いた。
ここからは猫鳴山まで平坦な縦走路になる。
イベントということもあり多くのハイカーが山登りを楽しんでいた。
この山には何度も登っているが、ここまで多くの人たちに出会うというのは経験がない。
とても面白い空間だ。
猫鳴山にはすぐに辿り着いた。
あいにくの天気もあって少し肌寒くなってきた。
山登りを趣味としていない友人は分厚いダウンジャケットをザックから取り出して羽織った。
そして両手を挙げて舌を出すという独特のポージングを行った。
写真を撮る事を要求してきたため私は独特なポージングをする山登りを趣味としていない友人を激写した。
フリーダムとはこの友人のためにある言葉なのだろうと私はこの時に思った。
次に私たちは二ッ箭山を目指した。
しばらくは平坦な縦走路だ。
巨大な鉄塔と出会ったところで少し小雨が降ってきた。
鉄塔の下で雨宿りをしながら行動食を摂り、再び歩き出した。
旧知の仲だ。
とても会話が弾む。
子供のこと、趣味のこと、最近の出来事、仕事のこと。
話題は尽きない。
あっという間に二ッ箭山への取り付きまで辿り着いた。
ここからはしばらく急登が続く。
ペースを落としてゆっくりと進んだ。
二ッ箭山の山頂でも記念撮影を行い私たちは下山した。
下山するとイベント参加者に対して甘酒が振る舞われた。
柚子の砂糖漬けを勧められたため甘酒の中に入れてもらった。
とても身体が温まった。
今回のイベントを振り返ると至る所にチェックポイントが設けられており氏名と番号の確認が行われていた。
安全対策を万全に行っている証拠だ。
このような楽しいイベントを開催してくれた山岳会に感謝だ。
また、このような楽しいイベントに誘ってくれた山登りを趣味としていない友人にも感謝したい。
私はこのフリーダムな友人と次に山に登るのはいつになるのかなと考えながら甘酒を飲み干した。
THE FIRST FREEDOM 〜猫鳴山・二ッ箭山・月山〜 早里 懐 @hayasato
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