第7話 おじさんデート大作戦 後編


薄暗い鬱そうとした森の中、その館はあった。

窓は割れ、壁にもひび割れが生じ、草木が生い茂っている。


「ねぇ、ちょっとリアルすぎない。」


女の子がおどおどと言う。

怪しげな雰囲気には似つかわしくない美少女と兎がとぼとぼと道を進む。

道は雑草が蔓延り、道を覆い尽くしている。


「いや、怖いよ。みんな~。」


目は潤み、声は若干震えている。


「大丈夫だよミロちゃん。俺がいるから!」

「はぁ?俺もいるんだが?」

「そんなこと言ってて、ビビってない?俺がいるぞ。ミロおじ!」


髭面うさぎは俺だ俺だと揉み合うのを見て、慌てて新増は

「みんな~、仲良く、仲良くだよ!」

と仲裁に入る。

髭面うさぎは手のように握りしめていた耳を緩め、

「まぁ、ミロちゃんが言うなら?今日はこの辺しといてやるよ。」

「お、まだやんの?俺は大人だから、そんな挑発には乗らないんだけどな。」

と若干、争いの火種は鳴りを潜めながらも、水面下でバチバチと音を立てている。


「ほーら、みんな、お手々つなごう?」


「はーい」と手の代わりに耳を差し出してきている辺り、

ミロップという生物に完全に馴染んでいるリスナー。


もう。とため息交じりに手をつなぐ。

ふと、これから入る館を改めて見る新増。


ここはゴロゴロクエストの暑気払いイベント扱われていた場所である。

現在は残暑が長引いており、ユーザーが自由に扱えるフリースペースとして解放されている。

「今日はみんなが予約してくれたんだっけ?ありがとうね。」


「良いよ!ミロおじ!!俺たちも楽しみにしてたからね!」

「プライベートワールドだからね、誰にも迷惑かけないから気楽だよ。」

「それな!」


「それにしても残暑長引くよね。熱いなぁ」

と胸元を引っ張りながら、手で仰ぐ。


「ちょっとミロちゃん、それは大胆すぎますよ!」


「へ?」

新増が自分の格好を顧みるとワンピースの胸元を引っ張ったことで、大分着崩れている。

女性の嗜みを忘れるからである。


「えええええええええええええ」

状況を認識した新増は慌てて着直すと、

「あはは、暑さは罪だねぇ。昔だったら九月終わりには涼しくなっていたんだけどなぁ。本当、昔はよかったよね。」

と誤魔化す。


「ほんま」

「それな」

「うんうん」

「それにしてもミロおじと話しているとおじさん同士の話になるんよな」

「ほんまそれな、いつの間にか同世代の話になるんだよね。」

「あぁ、ミロおじ。またおじさん出しちゃったね。」

「ミロちゃんは本当に設定を徹底してるね。大したもんだ。」

「これだから昔語りの懐古厨おじさんは」


「ああああああああ!!」

声を出し、地団駄を踏む新増。


と和気藹々な空気が流れる。


ちなみにプライベートワールドとはオリジナルをコピーした非公開のワールドである。

基本的には公共の場としてのオープンワールドがある。


和やかな空気が漂う中で不敵な笑みを溢すハニカミ兎おじがちらほらと散見される。


新増から離れたミロップはこそこそ話をし始める。

「ぐふふ、今日はあれの後にこれをして。楽しみだな。」

「おいおい、顔に出すなよ。バレたら元も子もないないぞ。」

「仕方ない奴だな。あと、知ってるか?オリジナルで噂があるらしいぞ。」

「どんな?」

「出るんだってな。」

「何が?」

「いやな。寝室に血塗れた女が出たり、女性が啜り泣いてるらしいぞ。」

「またぁ、誰がそんなことを言ってたんだ。」

「メイちゃんがさ、言ってたんだ。」


すると、

「えー何の話してんの」

新増がやってきた。


「いや、メイちゃんがさ、寝室に血塗れた女性がでるって。」

「えー本当かな?ね?皆で一緒に見に行こっか?」

「え、行くの?ほ、ほーん。良いじゃん。行こうよ。」


その道中で曲がり角を曲がろうとしたらひんやりとした何かにぶつかった新増が悲鳴をあげて、髭面ラビットに抱きついたり。

白装束の衣装を着た2人の女性がうなり声をあげて、追ってきたり。

大きな猫の影がこちらを手招きしていたり。

部屋のモノが地響きのように揺れ出し、女の啜り泣く声が聞こえたり。


◆◆◆


女の啜り泣く声を聞いた一行は一目散に逃げ出し、新増と別れてしまった髭面ラビット。


「おい、あんなの聞いてないぞ」

「どうすんだよ、ミロちゃんと逸れちゃったぞ」

「仕方ない。近くにゴールの寝室だ。もしかしたらいるかもしれない。行ってみよう。」

「そう・・だな・・そうするしかないよな。」


寝室につくと暗がりで辺りがよく見えない。

とりあえずと、部屋の中を探索するために中に入る。

奥に進み、ベットの近くまで進む。

すると、小さなランプが付き、白いワンピースの女性が見えた。

「お、ミロおじ!!おーー・・・い・・?」


声をかけて現れた女性のワンピースは血塗られていた。

「おい、ミロおじ。だいじょぶか・・・?」


「み・・ん・・な・・・何で・・置いていったの・・?」

「いつも一緒って・・いったじゃない・・」


明らかに様子が可笑しい新増に髭面うさぎ一同は血の気の引いた青い顔で言う。

「おい、本物が出たんじゃ無いか?さっきの奴、話聞いてないだろ?」

「マジかよ・・そんなことある?」

「ミロちゃん。俺だよ。目を覚ましてくれ。頼むよ。」

「そうだよ、愛の力で目を覚ましてくれミロちゃん。」


辿々しい足取りで近づいてくる新増。

ベットまで追い詰められるミロップ。


「頼む目を覚ましてくれミロおじ!!」


すると、ベットに押し倒される髭面ラビット。


「頼む目を覚まさないでくれミロおじ!!」


手のひらドリルぶりを遺憾なく発揮する髭面うさぎ。


「ねぇ、ず・・っと、ずっ・・と一緒・・だよね。」

「約束・・・して・・・ね?お願い。」


目から光は消え、感情の起伏がない顔。

白いワンピースも色っぽくはだけ、迫ってくる新増。


覚悟を決めたのか髭面うさぎおじさんは

「約束する。するよ。」

と、いつになく真剣な面持ちで応える。


「ありが・・とう・・」

新増が抱きつく。


「約束の・・・印・・・」

といって、髭面うさぎおじさんの耳を甘噛みする。


「あぁ、我が人生に悔い無し。」

「ああ、もう良い。これで終わっても良いんだ。」

人生の終わりを受け止め出す髭面ラビット。


「ふ」

急に笑い声がかすかに聞こえた。


「へ?」

とアホな顔をして反応するミロップ。


「あはははははは。みんなー。騙されてやんのー」

と、人差し指をクルクルとしながら誇らしげに語る新増。


「は?」


すると、ズササササと2人の黒子が入ってくる。


「ドッキリ大成功ーー!!」

と書かれた紙を見せつける。


「お、おい。謀ったなメイちゃん!!」


「ごめんねぇ、みんなぁ。面白そうだったから!きゃははは。」


ここで、自分達が逆ドッキリにかけられたことを悟るピョンピョコおじさんず。


「じゃあ、あの啜り泣く女もメイちゃんだったのか?」とミロップが問いただす。



「え、何それ知らないんだけど。」


「え?」

ミロップはもちろん、新増も驚く。

「あれってメイちゃんの仕掛けじゃ無かったの?てっきり・・」


すると、急に寝室が揺れ出して、啜り泣く女性の声が聞こえだした。


「これだよ。これぇ」

と騒ぎ出す新増とミロップ。


「ご、ごめん。分かんない。怖いんだけどぉ。」


さらに揺れが強くなり、啜り泣きながら

「でてぇけぇ・・・でてぇけぇ・・・!!」


一同が悲鳴を上げながら逃げ去る。


逃げている途中でポチ君がメイちゃんに問いかける。

「いやでもあれ、メイさん準備してましたよね?」


すると、振り向いて、片目を閉じて、ポーズを取り、

「テヘッ☆」


「メイさんあなたって人はあああああ!!!!」

と驚愕するポチ君。

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【休載(24/12/14から復帰予定)】全てに絶望したおじさんがV美肉化した件について 黒乃バツ @kurono-batu

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