転移した貧乏孤児院の料理人、スキルでほのぼの人生を守る〜領主様と料理対決!?〜
マルジン
転移した貧乏孤児院の料理人、スキルでほのぼの人生を守る〜領主様と料理対決!?〜
「熱ッ」
バリンッ――。
「キャサリン!大丈夫か!?」
「……ご、ごめんなさい」
床にこぼれたシチューと、粉々になったパイ生地、割れてしまった容器が、湯気でかすむ。
「残り15分!」
監視員の言葉に、俺たちは呆然と立ち尽くしていた。
◇◇◇
40手前、バツイチ子なしのおじさんである俺は、学校給食の調理場でぶっ倒れて、なぜかこの世界に転移した。
それから数日。
領主様からの手紙を見てため息をついていた。
「どうしたんですかジュンさん」
この孤児院で暮らす、御年10歳のキャサリンが心配そうに声をかけてきた。
「この前領主様に手紙を送ったんだよ。そしたら、この返事が返ってきた」
キャサリンに手紙を手渡すと、わずか数行の文面を一気に読み終えて、苦い顔をしている。
無理もない、手紙にはこう書かれていたのだから。
『孤児院を支援する余裕はないため、貴公の提案は却下する。ただし、当家が抱える料理番と料理対決をして勝てたのならば、支援を検討する』
断るだけではなく、なぜか対決と来た。
しかも、殴り合いとか、魔法の試合とか、そんなのではなくて料理対決。
俺を狙い撃ちしているのは明々白々で、狙われる理由はたぶんスキルのせいだと思う。
ここ最近は、自重せずにスキルを使ってたから、目をつけられてしまったのかもしれない。
この世界では貴重な、香辛料やら調味料を使って、道端の孤児たちに料理をふるまった。
この世界にはないであろう、チョコレートや乾麺やシーチキンを使って。冒険者たちに感謝の意を表した。
そんな噂を聞きつけた領主は、是が非でも我が物にしたいとか考えているんだろう。
今も食うに困っている孤児をだしにして、俺が断り辛い提案をしてきよった。
「どうするんですかジュンさん。料理対決するんです?」
キャサリンは心配してくれてるようだ。
まあそうだよな。相手は領主なんだし……。
断ったら断ったで、粘着してきそうだしなあ。
対決して負けたらどうなるかな。
孤児院を支援してほしかったら、俺のもとで働くのだ!とか、言われそうだな。
せっかく、ほのぼの暮らせる安住の地を見つけたと思ったのに……。
「仕方ない。やるしかないな。手伝ってくれキャサリン」
「もちろん!任せてください!」
まあでもやるしかないだろう。
給食のおじさんが、貴族様のお抱え料理番と対決なんて、敗戦色濃厚すぎるんだけども。
可愛い子供たちの未来を守るために、おじさん、頑張るぜ!
それから俺たちは、特訓に特訓を重ね……的なことはしていない。
領主へ、対決してやるぜ!と返事を書いてからは、何を作ろーかなーとぼんやり考えつつ、のんびりと一日一日を過ごした。
学校給食のおじさんは今、貧乏孤児院の料理人。
この世界はとにかく食材が少なくて、貧乏ともなればなおさら食べられるものは限られてくる。
そんな中、育ち盛りのキャサリンのために、栄養バランスを考えつつ、イチャイチャさせてもろてます。
「プリン美味しいですね!」
「ええーそうかなー。ありがとねー今度はババロア作るねー」
「ジュンさんの料理はいつも美味しいです!」
「うーん、ありがとねー。キャサリンだけだよーいつも褒めてくれるのはー」
鼻の下伸びまくりなのは、仕方のないことだ。
給食作ったってさ、面と向かってありがとうと言われるわけでもないし、美味い!と言ってくれるわけでもないし、残飯も毎日出るし。
なーんか大事なこと忘れちゃうんだよな。
料理って結局、
美味しそうな食べてくれる人のためなら、いくらでも作ってあげたくなるし、どんな作業も全く苦にならない。
そういうことなんだよなー。
いい子だーキャサリンは。
毎日トコトコやって来て「お手伝いします!」って言ってくれるしさー。
目に見えて料理の腕が上達してるんだー。
こないだなんか、桂むきしてたからね?
子どもの成長は恐ろしいよ。
それにさ、日本にいた頃は、スーパーで買った惣菜を一人さみしく食べてたのに、この世界に来たら、美味しい美味しいと言ってくれる子どもと、三食食べれるんだよ。
ただの天使だよ。
変な男が近づいたら、三徳包丁のサビにしてやろ。
と、のんびりほのぼの過ごしてたら、領主から手紙が来た。
『明日の昼、料理対決を行う!テーマは、一品で大満足のホカホカ料理だ!』
◇◇◇
「さてキャサリンよ」
「はいジュンさん」
調理台を前に、俺たちは神妙に突っ立っていた。
「ギリギリ用意できたけども、もう経験値の余力がない」
「予備はないということですね?」
「はいおっしゃる通りで」
孤児たちの未来がかかった大一番。
スキルを惜しげもなく使おうと考えた矢先、経験値が足りないことに気づいた。
俺のスキルは、経験値を消費することで食材を調達することができるのだが……。
ミスった。
キャサリンがあんまりにも可愛いもんだから、対決のことなんて度外視で経験値を使いまくってしまった。
幸いにも、テーマ通り一品分の食材は調達できたけれども、予備は出せないので一発勝負になる。
だったら、スキルを使わずに現地調達しなよって話だけども。
正直言うと、この世界の食材ってあんまり美味しくないんだよね。
しかも貧乏なうちの孤児院で買えるのは、玉ねぎと全粒粉の茶色いパンとチーズぐらい。
つまり、それ以外の材料はスキルだ頼りとも言える。
はあ。
四十路目前にして、キャサリンが可愛いからって経験値使いまくって、ここぞという時にすっからかんですって、孫をかわいがりすぎて破産しかける爺さんじゃないんだからさ。
「ジュンさんなら大丈夫です!私も頑張ります!」
白目で虚空を眺めていたら、キャサリンが励ましてくれた。
そしたらなぜだろう、なんかイケる気がしてくるんだ。
ほんと不思議だよなー。
「よしっ、気合入れていくぞ!」
「おー!」
拳を突き上げた俺たちは、数時間後に迫った対決に備えて準備を始めた。
◇◇◇
ガラガラと車列がやって来た。
その威圧感たるや、生半可なものではない。
馬車の周囲には騎士が配備され、連なる馬車は後続が見えないほど先まで続いてる。
通り沿いに住む方々には、大きな迷惑だろう。
明らかに一般人じゃない方々が、なぜか急にやって来たのだから。
俺たちは孤児院の前で、その車列を眺めつつ、直立不動で佇んでいた。
初めて会う本物の領主に、ちょっとだけビビっていた。
先頭の馬車が、俺たちの前でゆっくりと止まり、騎士が扉を開ける。
すると中から、ぽっこりと腹の出た悪人ヅラの、典型的な方がやってきた。
「準備はできておるか」
「あ、ああはい。お初にお目に――」
「審査員を紹介してやろう」
俺の言葉を当たり前のように遮り、領主様は背後に視線を向けた。
一人目は、俺よりも年上っぽい騎士の方で、獰猛な目が数々の武勇伝を物語る、騎士団長さん。
二人目は、好々爺然とした白髪のおじいさんで、領主邸の家令らしい。
三人目は、ニコニコした青年で、この国では5本の指に入る大商会の御曹司だとか。
「そして当然ながら、吾輩も審査に加わる。質問はあるか?」
「え、あーと、そうです――」
「ないようだから始めるぞ。ああ、お前たちが毒を入れんとも限らんから、一人監視員をつける。常に目が光っているから、余計なことはせぬように」
「はいあのー質問が――」
「制限時間は90分でいいだろう。始めろ」
まったく質問させてもらえず、料理対決は突然始まった。
ぷるぷるしたコラーゲンたっぷりの領主の顎が腹立つけど、ここでうだうだ言っても仕方ない。
気持ちを切り替えて、さっさと調理場へと向かった。
「ジュンさん、火をつけますね」
調理場につくや、キャサリンは頭巾を巻き付けて、窯の前に立っていた。
すでに薪は組んであるから、あとは着火するだけ。
「よろしく!」
彼女は頷くと、手のひらで薪に照準を合わせて、呪文を唱えた。
『
ゴオオオオオオ!
手のひらが火炎放射器のようになってるのを見たのは、この世界に来てすぐのことだった。
ビビりすぎて、10歳のキャサリンをキャサリンさんと呼んだのは懐かしい思い出だ。
「もろもろの下処理よろしく。ホワイトソース作ってくる!」
「はい!」
フライパンに、切ったばかりの玉ねぎとバターを入れて、ちりちりと燃える薪の火を当てる。
バターがとろけて玉ねぎがしんなりしてきたら、小麦粉を加えて、木べらでかき混ぜつつ、焦げ付かない様に細心の注意を払う。
小麦粉がバターと混ざり、玉ねぎに絡みついて茶色っぽくなってきたら、牛乳を注ぎ入れてダマにならない様にかき混ぜ続ける。
この時、一気に牛乳を入れないのがポイントで3回ぐらいに分けるといいだろう。
牛乳の水分が飛んで、木べらが重くなり始めたら、軽く塩胡椒してホワイトソースは完成だ。
「キャサリンちゃん――」
「はいどうぞ!」
「ありがとう!」
キャサリンから、鶏肉、人参、じゃがいも、しめじの入ったフライパンをもらい、こちらも炒めていく。
人参とじゃがいもは、なかなか火が通りずらい厄介者だ。
でも炒めてやることで、煮崩れしにくくなるし、うま味を閉じ込められる。
さて、ここで味付けと煮込みを一気に行っていこう。
水、白ワインとコンソメを加え、塩コショウで味付けしてと。
待機……。
フライパンをもったまま、焦げ付かない様にかき混ぜつつ、火から離したりして大体15分ぐらいだろうか。
「オッケー。ホワイトソースお願い」
「はい!」
あらかじめ作っておいたホワイトソースを木べらで流しいれて、薪から離しながら弱火の状態でかき混ぜて、一応味見。
これで問題なければ、シチューの出来上がり!なのだが、これでは終わらない。
秘策があるのだよ、秘策がねえ!
作ったばかりのシチューを、4つのスープボウルに均等に入れたら、キャサリンの出番だ。
『
キャサリンの両手から、コォォォッと冷風が吐き出され、熱々のシチューが冷めていく。
常温ぐらいになったら、秘策の出番だ。
「これを、被せるんですか?」
「そうそう。こんな感じ」
あらかじめ作っておいたパイ生地を、シチューポットを塞ぐように被せて、卵黄をパイ生地の表面に塗りたくっていく。卵黄を塗るのは焼き色をつけるための、大事な作業だ。
お次は竈の中に入ってる薪を両端に避けて、シチューポットを置く空間を確保して、セット!
5分ぐらいしたら、シチューの蒸気がパイ生地を膨らませて、いい感じのドーム状になる。
あとは焼色がつけば、終わりだ。
「おお、いい感じ」
竈に目をやると、生地がうまい具合に膨らんで、香ばしい色づきになっていた。
シチューポットパイの完成だ!
「よし、取り出そうか。濡れ布巾もらっていい?」
「どうぞ」
この竈に限らず、竈はめちゃくちゃ熱い。
家庭用オーブンの蓋が全開の状態で、熱波を放ってると思えば、いかに熱いかが分かるだろう。
当然、ポットも熱いわけで、濡れ布巾がなかったら完全に指が終わる。
「アチチチ」
ゴトリ――。
よーし、あと1個。
水桶に指を浸して、布巾に水を染み込ませて、万全の状態で竈に向かい合った時だった。
「熱ッ」
バリンッ――。
調理台の方から、嫌な音がした。
視線を向けると、キャサリンが手の甲を押さえて呆然としている。
「キャサリン!大丈夫か!?」
「……ご、ごめんなさい」
火傷したかもしれない。
俺は濡れ布巾をもって、キャサリンのもとへ駆け寄った。
割れてしまったシチューポット、溢れたシチューに、飛び散ったパイ生地を飛び越えて、彼女の手を見てみる。
「軽く火傷してるみたいだ。これで冷やしといて」
うっすら水ぶくれになっていたけれど、この程度でよかった。
シチューを被ってたら、とんでもないことになってからな。
この状況から推測すると、シチューポットにキャサリンな手が触れて、熱さのあまり落としてしまったのだろう。
さて、提供するはずのシチューポットパイが一つ、なくなってしまった。
三つのシチューポットパイを四人の審査員で、分けてもらう?
子どもじゃないんだから、分け合ってね!なんて言えるわけない。
どうしたものかと悩んでいると、とても活き活きとした声が、調理場に響いた。
「残り15分!」
今まで無言だったくせに……。
まずいなあ、どうしよう。
すると何を思ったのか、キャサリンは布巾を調理台に置いて、しゃがみ込んだ。
ちょうど、溢れたシチューの辺りに。
「ひ、拾います!」
そう言うと、素手でシチューを掬い上げようとしたので、慌てて止めた。
「いやストップ!キャサリンちゃん、これは後でいいよ。冷めてから片付けよう」
「で、でも、これ……使えば、4人分になりますよ」
今にも泣き出しそうな顔で、俺の顔を見上げている。
その表情を見て俺は、大きな失敗に気づいてしまった。
まだ10歳の彼女の気持ちを、置き去りにしていたのだ。
まったく、四十路目前にしてなにをしてんだか。
調理台濡れ布巾を拾い上げて、キャサリンの手に当てた。
「落ちたものは捨てる。こんなもの人に出せないでしょ」
「で、でも」
「大丈夫だって、時間はあるし新しい料理を作り直してみせるよ」
「……ごめんなさい」
「もう謝らないで!給食のおじさんが、なんとかするよ!」
と言って調理台の上を眺めてみるけれど。
食材はほぼ使い切った。
残ってるのは、バターと小麦粉……。
玉ねぎとチーズと茶色いパンなら、明日のお昼ごはん用に買ってあるから、それも使えるし、さあ何を作る。
シチューポットパイに引けを取らない見た目、一品で大満足のホカホカ料理というテーマに沿うような、料理か。
あ、ちょうどいいのがあるじゃん!
シチューアレンジといえば、アレがいいよ。
「キャサリン、パンの中身をくり抜いてくれる?」
「パン、くり抜く?」
「そうそう、急いで急いで!」
「は、はい!」
シチューを流用できて、なおかつ見た目もインパクトがあって、そして美味いやつ!
あるよ、作れるよここにある具材で。
◇◇◇
孤児院前の通りは騎士によって封鎖されていた。日本でもあるよね、総理とか偉い人のための交通規制。
それが目の前の通りで起きてました。
どこから持ってきたのか、でっかい長テーブルが道の真ん中に置かれていて、4人の審査員の方々は、楽しそうに歓談をしていた。
けれど、ピタリと会話を止まり、4人の視線が俺の手元に一気に集まる。
料理を持って孤児院から出た俺は、テーブルへと慎重に歩く。
「パン?」
ゴトリ――。
領主様の胡乱な目に俺は答えた。
「中をご覧になってください。ただのパンではありません」
4人の男たちは立ち上がって、その中身を覗き込んだ。
「おお、なんだこれはソースか?」
「チーズの香りがしますね。いい焼き色だ」
「パンを器代わりにしたということですか」
「美味そうだ!」
そもそも白いシチューは、日本発祥で日本独特な食べ物だったりする。
だから、この世界でも珍しがってウケるかなーと思ってシチューポットパイを作ったんだけど、ゴタゴタがあって料理を変更した。
三つになったシチューポットパイのパイ部分は取り外し、シチューにチーズと小麦粉、バターでとろみをつける。
それを、中身をくり抜いたパンに流し入れ、オーブンで加熱。
パンの外側がある程度パリパリになったら取り出す。
中身をくり抜く時に出たパンくずをかき集め、熱々のシチューへと振り掛けて、さらにチーズも削って振りかけて。
キャサリンの魔法で焼き色を付けたら完成だ。
「こちら、グラタンです」
「ほお。して、どうやって食べるのだ」
「はい。では、よそいますね」
キャサリンが持ってきた、木の平皿にグラタンをよそう。
それからくり抜いたパンと、容器代わりになってたパンを切り分けて……。
「はいどうぞ」
「……うむ、ではいただこう」
正直、皿に取り分けると見た目は悪くなる。
というか取り分ける皿も、棚の奥から引っ張り出したもので、おしゃれとは言い難い。
けど……。
「ふーむ」
グラタンを一口食べた領主様は、息を漏らした。
「鼻から抜ける香ばしさと、とろっとする舌触り。悪くない」
領主の感想が出たところで、他の審査員たちもグラタンを口に運びだした。
パンとグラタンを合わせて食べた騎士団長さんは、獰猛な目つきを捨てて、柔らかい笑みを浮かべた。
「茶色のパンがこんなに美味くなるとは。やるな」
「ボソボソしているので、その分クリーミーな何かと合わせやすいかと思いまして。お口にあって良かったです」
家令さんは、グラタンを一口食べたあと、皿に顔を近づけて、驚いていた。
「バターのような優しい甘みと、ポトフのような旨味が渾然一体となり、得も言われぬ香りを醸していますな」
「……ありがとうございます。そこまで言っていただけて光栄です」
大商会の御曹司さんは、掬い上げた鶏肉やしめじをまじまじと見つめ、ニヤリと笑みを浮かべた。
「これはまた高そうな食材ですね。牛乳もそれなりに高価ですが、一体どこから?」
「まあ、今日のために、色々なツテを使いましたね」
「そうですか」
御曹司さんは頷いたあと、特に追求してくることもなく、皿の中身を全て平らげた。
領主様も他の方々もみんな、器のパンまでしっかりと完食してくれた。
それは嬉しいのだが、領主邸料理番の料理が入らないんじゃないか?
と思ってたら、領主様が突然立ち上がり、なぜか近づいてくる。
そして手を差し出した。
「すまなかったな無理を言って」
「え?」
「大変美味であった。感動したぞ」
「は、はあ」
何が起きているのか分からず、とりあえず領主様の手を掴んだ。
すると今度は、大商会の御曹司さんが近づいてきた。
「ウチの商会が孤児院を支援しましょう」
「え?」
「今日の会食は領主様自ら、商会に提案されたものでして、あなたの実力が噂に違わぬならば、ウチが経済的支援をすると約束したんです」
「あ、あの言ってる意味がよく分からないんですけど」
ニコニコしてるけど、話のほとんどが理解不能だった。
だって、領主様は子どもに救いの手を差し伸べない悪徳領主で、俺のスキルを我が物にしようと画策してる………んじゃないの?
ていうか会食って、料理対決はどこにいったんだ。
「当家に金がないのは本当だ。だから孤児院を支援することはまかりならんが、支援を得る機会ぐらいは作れる。今日はそのための会食だったのだ」
「……対決は」
「お主に、余計な勘ぐりをさせて、実力を隠されても困るからな。己の要求を賭けた戦いならな、本気で取り組むだろう?」
「……要するに、俺に本気を出させるために対決の形をとった。その理由は、大商会さんの支援を引き出すためと」
「そういうことだ」
あんなに憎々しい顔だったのに、今はなぜか愛嬌のある憎めない顔に見える。
ぷるぷるの顎も、コラーゲンたっぷりで健康的でいいじゃないとさえ思える。
「もちろん、タダで支援するわけではありませんよ?色々とお話し合いをして決めましょう」
御曹司さんは、爽やかな笑みで手を差し出した。
大商会とどんな話し合いをするのか、いささか不安ではあるけれど、領主様がお膳立てした案件でむちゃくちゃするはずもないだろう。
「よろしくお願いします」
がっちりと握手を交わし、料理対決と見せかけた、ただの審査会は無事に終了となった。
◇◇◇
領主様が帰った後、またいつもの時間が戻ってきた、はずだったが、そうもいかないよね。
俺もなんだかんだ緊張していたし、料理中はハプニングもあったし、結局領主様はいい人っぽかったし。
大混乱だよホントさ。
キャサリンは床に落ちたシチューを、掃除していた。
まだちょっと落ち込んでいるようにも見えるな。
料理なんて、失敗してなんぼなんだけどなあ。
失敗して改善して、美味いと思えたらまた作りたくなって。
失敗して改善して、誰かに美味しいと言われたら、もっと作りたくなって。
失敗はつきものなんだよ。
でもまあ、大一番での失敗だったから、こたえるよな。
「キャサリンちゃん、おやつ食べる?」
「……だ、大丈夫です。掃除します」
真面目で器量が良くて人懐こいキャサリンだけど、まだ10歳の子どもだ。
変に気を使うのも、真面目だからこそ。
「プリン作るから一緒に食べよう?おじさん一人しゃあ、さみしいからさー。お願い」
「……いやでも」
「お願い!作るのも手伝って!」
「……掃除が終わってからでいいですか?」
「うんいいよ。ありがとね」
「……こちらこそ、ありがとうございます」
はあ、良い子だなー。
失敗なんかで落ち込まずに、どんどん料理の楽しさを知ってほしいな。
「よーし、プリン作るぞ!」
「……おー!」
キャサリンちゃんがいる限り、これからも、この孤児院で働こう。
第二の人生、ホント最高だなあ。
――――作者より――――
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転移した貧乏孤児院の料理人、スキルでほのぼの人生を守る〜領主様と料理対決!?〜 マルジン @marujinn
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