第3話 『ローデルの村』

 ――『ローデルの村』は特に魔物による被害の報告の多い村であった。

 農作物だけに限らず、人が襲われる被害まで増えているという。

 村の若者による自警団の結成にまで至ったが、成果は思わしくない。

 魔物と戦うとなれば、素人で対応できるレベルにも限界がある、ということだ。


「魔物が村にやってくる理由を考えると、早い話が餌を求めているということになりますが……」

「こ、この辺りは森に近いですが、餌が不足しているとは思えませんよ?」


 ロコリィの言葉にリリーゼが答えた。

 確かにその通りで――おそらくは村を襲うより、森で生活した方が魔物達にとっても本来は暮らしやすいはずなのだ。

 つまり、村の方までわざわざやってくる理由がない。

 無論、中には村をあえて狙ってくるような魔物もいるが、そういう個体は森で食料を確保できなくなった、苦渋の選択をしたものに限られる。

 今回、村までやってきている魔物は、それこそ森においても追い出されるような立場にはないはずの個体ばかりだった。

 そこまで想定すれば、自ずと答えは出てくる――


「より強い魔物がこの近辺の森を支配している――『ブラック・ベア』の一件もそうでしょうね」


 ロコリィは思わず、舌打ちをした。

『ブラック・ベア』はこの近隣において、食物連鎖では『上』に位置している魔物だ。

 本来であれば、人里に近づいてくるようなタイプではない。

 それが姿を見せたのなら、理由は単純――森に暮らせない理由があるからだ。

 そして、追い詰められた魔物が人里に降りてきて、それらが強力であるが故に――生半可な兵士では対応できていない。

 討伐隊を編成し、森の中を調査すべき案件だ。

 だが、あくまで過程の話である上に、『ブラック・ベア』すら討伐隊が必要とされる魔物。

 その上をいく存在が相手だとすれば。


「い、いかがいたしますか? 近くの町の傭兵組合に連絡をすれば、多少なりとも人員の確保はできるかと思いますが」


 リリーゼの提案も悪い話じゃない。

 傭兵組合――命知らずの傭兵が多く登録しており、金さえ払えば依頼を受ける、という者もいる。

 ただし、それはあくまで金額に見合えば、という話だ。

 現在、『ミゼルダ領』の財政状況は決して思わしくはない。

 昨今の魔物被害の増加に加え、それに対応するための私兵を増やし――けれど、私兵も怪我を追って対応が追い付いていない。

 この現状で、傭兵を雇うとなれば――かなりの金額が必要となるだろう。

 魔物の討伐をするために、一体いくら金をつぎ込むのか――そんな風に、ロコリィは評価される。

 ロコリィはこの地の領主に相応しくはない、と。

 これが領民に裁定されることであれば、甘んじて受け入れることもできるだろう。

 だが、現実は違う――領地を任せるかどうか決めるのは、王都にいる貴族や国を治める王族だ。


「傭兵を雇うかどうかの前に、森の調査をします。まずは、私の見立てが正しいかどうか」

「! ま、まさか……森に入るおつもりですか!?」

「そうするほかないでしょう。私自ら足を運んだ理由でもあります」

「危険すぎます! 何を考えているのですか!?」


 リリーゼは声を荒げた。

 だが、ロコリィは小さく溜め息を吐くと、


「そうやって、危険だからと現地の調査に赴くのが遅れたのが現状を招いたのは事実です」

「そ、それは……ですが、領主の役目では――」

「いいえ、父もそうやって討伐隊を自ら指揮していました」

「で、ですから、その結果が――あっ」


 リリーゼはそこまで言って、押し黙る。

 ロコリィは静かに森の方へと歩き出した。


「ついてくるかどうかは、あなたの判断に任せます」

「お、お待ちください、ロコリィ様!」


 焦った様子で、リリーゼはその後ろを追いかけた。

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槍斧使いの少女、辺境領主に拾われる 笹塔五郎 @sasacibe

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