恐怖!迫りくる巨大観覧車!

サカムケJB

本編一話のみ(注意:津波の描写が含まれます)

あり得るのか、そんなことが。


ゴゴゴゴと大きな音を立ててこちらに回転してくる観覧車を見て、宮本は言葉を失った。

〇〇市の人気デートスポットであるこの遊園地「ディスリーランド」には大きな、それは大きな観覧車があった。少し離れた港から見ても、その観覧車が存在感を失うことはない。そんなディスリーランド名物の巨大観覧車がいまこちらに向かって転がってきている。


原因は老朽化だった。管理者側の慢心が、傲慢が、あの太い中心の支柱から観覧車が外れることはないという根拠のない安心感が、この事態を招いてしまった。いや、あるいはランドの名前を著作権すれすれにした天罰が下ったのかもしれない。

もしこれが天罰なのだとしたら、あの地獄車に巻き込まれるのはランドの運営者サイドであるべきでは?既に数人があれにより真っ赤なペースト状となっているわけだが、それはどれもランドの利用者たちだ。「高いところは怖いから観覧車はむりぃ~」と言っていた犬系黒マッシュ男子も、低みでお陀仏状態だ。マジどんまい。


とにかく逃げなければいけない。とにかく逃げたい宮本。だが、人間不思議なものでこういう時身体がなかなかいうことを聞かない。

過去のトラウマにより感情を失い、会社で「サイボーグ」「ルンバ」そう呼ばれていた宮本が、なんとか感情を取り戻したい。そう思い立って訪れたディスリーランドで芽生えた感情は、過去のトラウマがしょうもなく思えるほどの圧倒的な恐怖だった。


今もなお地鳴りのような音を立ててこちらへ転がってくるランド名物の殺戮兵器。すでに何人巻き込まれただろうか。ちなみにそれの進行ルートに、これまたランド名物の「勇者にしか抜けない剣」があり、その剣を抜いた者は過去だれ一人として存在しなかった。その記念すべき一人目に選ばれたのは、観覧車だった。

てこの原理とかいうやつでスコーンと抜け、剣は天高く飛び立っていった。

勇者でありながらも、傍若無人の大量殺人兵器でもある。そんな現代RPG主人公へのアンチテーゼの要素すらも身にまとい、観覧車は転がり続けていた。


もうだめだ。逃げるには時間がない。まあちょうど自分の人生に諦めを感じていたところだ。一思いに介錯してもらおう。No time GG。


そう宮本が諦念を抱き、自らの死を覚悟した。

数秒後だった。


止まった。


宮本の心臓の話ではない。観覧車の話だ。止まったというより何かに引っかかりバランスを崩し、ぐわんと海に倒れていった。そう表現するほうが自然だろう。

いったい何が観覧車の暴走を止めたのか。


ここ〇〇市は海に面しているため、過去に津波による甚大な被害を被った。大樹は倒され、家々は流され、多くの思い出が失われた。しかしそんな大津波にも負けずにそこに立ち続けたものがあったのだ。

地蔵だ。一般的なものと比べて少し大きめの、複数体の地蔵群。それだけは何があっても失われることがなかった。


ランドの開発・建設に伴い、市は地蔵を撤去しようとしたが当然のごとく地元民の猛反発に会い、とてつもない違和感を放つことにはなるけれどもランド内に残されることとなった。そんな地蔵たちが、観覧車の暴走を食い止めたのだった。それがぶつかってなのか地蔵群に引っかかって止まったのかは定かではないが、もはやそんなことはどうでもよかった。


こうして、宮本を含むランド内の人間たちは救われたのだった。


後日、ランド運営者サイドは責任を問われた。SNS等を通じて多くのバッシング誹謗中傷も受けた。中には自殺を選んだ幹部も存在したほどだった。あそこで観覧車に巻き込まれたほうが幸せだったのかもしれない。

宮本はというと、相変わらず自身にトラウマを植え付けた上司からパワハラを受け続けていたが、死の淵を経験した宮本にとっては実にかわいらしいものだった。子猫がにゃんにゃか鳴き喚いている。そんなかわいらしさだ。

宮本にパワハラを加える上司はもう一人いたのだが、その者が亡くなったという事実を宮本は知らされた。聞いた話によると、誠に信じがたい話ではあるが、なにやら空から剣が降ってきてその上司の頭に突き刺さったというのだ。即死だ。会心の一撃だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

恐怖!迫りくる巨大観覧車! サカムケJB @sakamukejb

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ