精霊の価値観

たての おさむ

精霊の価値観


 森にある泉の近く。そこで、俺は考え事をしている。


 好きな同学年の女子である、堀内にどう告白をしようか悩んでいるのである。


なぜこんなところにいるのかと言うと、悩んでいる様子を人に見られたくないからだ。


 ああでもないい、こうでもない。悩みには決着がつかぬまま、ウロウロする。


 そのときだ。ピカーッと泉が光り出した。


「な、何だ?」


 泉の方を見ると、羽衣を着た女性が泉の上に立っていた。


「は?」


 目をゴシゴシしても、そこに女性は立っている。幻覚ではないのか。

 頬をつねってもみる。痛い。夢でもないようだ。


 そんなことをしていると、女性が話しかけてくる。


「少年よ。先ほどから鬱陶しいです。一体何なのですか?」


「う、鬱陶しかったですか……?」


 確かに、この辺りをウロウロしていた。それを見ていたのであれば、そう感じたのも仕方ないか。


 正直に話すのは少し恥ずかしいが、まるで普段の自分には関係ない相手だ。相談相手になってもらおうかな。


「実は、堀内さんという好きな人がいるんです。告白しようか悩んでいるんですけど、天使のような一面もあれば、悪魔のような一面もあって……正直、悩んでいるんです」


「なるほど。それでは--」


 女性は、考え込むように手を顎に当てる。少ししてから、手を伸ばす。


 なにか、頭の中から抜けていく感覚があったかと思うと、女性の両隣に、堀内さんが現れた。


「え、堀内さんが二人……?」


「ここに、天使のような堀内さんと、悪魔のような堀内さんがいます。どちらを選びますか?」


 一瞬、何をいわれているのか分からなかった。だが、これは、泉の精霊が俺の話を曲解している! そのことにすぐに気付いた。


「あ、いえ。そういう話ではないんです。二面性があるからこそ、堀内さんは堀内さんな訳で。そこは否定したくないんです。否定したくないから、告白するかを悩んでいるんです」


「ふむ」


 再び、手をこちらに向けた。またもや、頭の中からなにかが抜けていく感覚がある。

 そして、女性は言う。


「正直なのですね。それでは、天使のような堀内さんも、悪魔のような堀内さんも差し上げましょう」


「え」


 泉の女性は、そのまま二人の堀内さんを残して、泉の中に消えていった。

 残った二人は、「藤崎くん……」「藤崎、アンタ……」と俺の名を呼んでいる。


「……だから、そういうことじゃないんです」


 価値観の違いに、思わず白旗を上げた。

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精霊の価値観 たての おさむ @tateno_101

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