第2話  そして親友になる

「……なんか、北山くん、よく見られてるね」


 美波は、おれが煙たがられる視線を受けてるのに気づいた。


「……あまり仲良くしない方がいいとか、言われたこともあった。……なんで?」


 首をかしげる美波。おれはこの時黙ってようかと思った。他の奴らみたいに、拒絶させるのが怖かったから。


 だが、そんな希望は書き消される。


「美波ぃ~そいつの兄貴極悪人らしいぞ」


 ある日一人の生徒がチクりやがった。それを聞いた周りの生徒も……


「そ~そ~。ママが言ってた。北山とはあそぶなって」

「悪い影響がでるだとかも言ってた」

「逮捕されたこともある悪人の弟らしいよ」


 逮捕まではされてねえよ。兄貴の噂はどんどん悪い方に強まってた。酷い時は人殺しなんて噂もたったこともある。


 ああ。ダメだ。仲良くなれたのに、また嫌われる。拒絶されると、おれは嘆いた。


 そして兄貴を恨んだ。

 あいつのせいでおれはこんな目にあってるんだ……いつかぶっ飛ばして、


「……へえ。そうなんだ」


 美波はその事実を聞いてもキョトンとしてた。


「何で変な目で見られてたのかと思ったけど、それだけか」


 あいつの表情に、拒絶は感じなかった。

 実際その日も、おれと普通に会話してくれていたし。

 



 ♢




 おれは後日、美波に聞いた。

 根も葉もない噂もあったが、それだけの悪人の弟なのに、何で普通に友達でいてくれるのかと。


 すると美波はまたもキョトンとして、答える。


「だって、北山くんが悪いわけじゃないし。悪いのはお兄さんでしょ?」


 ――おれが一番言ってほしかった言葉だった。

 悪いのは兄貴、おれは関係ない。おれ個人を見ろ!

 心の中で、ずっと思い続けてた事を、美波は肯定してくれた。

 それが無性に嬉しかった。


「聞いた話じゃ、そのお兄さんとは近寄りたくないけど、北山くんは良い子だし、友達辞める理由にならないよ」

「でも、本当にいいのか? 兄貴みたいに悪い奴かもしれないぞ?」


 せっかく肯定してくれたのに、ひねくれてたおれは余計な事を言ってしまう。


「北山くん個人が悪い奴じゃないくらい、もうわかってる。それに、」

「それに?」

「変な個人の友達がすでにいるし、身内が変なのいるくらいわけないよ」


 変な友達? そう思った時、


「シ~ン」


 美波を呼ぶ声がする。


「ちょうど良い、変な友達紹介するよ。こっち!」


 美波は、三人の少年少女を手招きした。

 一目見た時点で変な奴らだとわかった。


 一人の少女は金髪ロングで、目にアイシャドーのメイクした目付きの悪い子。

 鎖を手に巻いてブンブン振り回しながら、ガムを膨らませてる。

 完全にヤンキーそのもの。


 もう一人の少女は、目に大きな隈があり、幽霊でもとりついてるのかと思えるくらい、陰気な雰囲気。

 にへらと笑みを浮かべ、腕のちぎれたボロボロの熊のぬいぐるみを抱き抱えて話しかけてる。


 最後の少年はどこか挙動不審で、ノートパソコンを持ち歩いてる短髪の子だった。

 ……前二人に比べるとだいぶ普通。


「シン、そいつかよ。新しい友達って」


 ヤンキー少女が、ガムをクチャクチャしながら問う。

 美波は頷くと、


「そうだよ、なっちゃん。北山くん」


 なっちゃん!? とその時思った。ヤンキーにあだ名ちゃん付け!? と。

 少女は夏目なつめ円香まどか。美波の幼なじみらしかった。


「なんか~冴えない子だよね~波ちゃん。クマサンもそう言ってるよ~」

「叶羽ちゃん、そういう事は言わない方がいいよ」


 陰気女子は美波を波ちゃんと呼び、熊のぬいぐるみばかり見てた。

 こいつもまた幼なじみらしく、皆木みなき叶羽かなうというらしい。


「ぼ、ぼぼ、僕は友達増えるの……賛成」

「ありがと中神くん」


 挙動不審な子は中神なかがみ奏也そうや。彼はわりと最近友達になったらしい。 

 自分と立場が同じなのかもと、おれは親近感をもった。


 こんな個性的というか、近寄りがたい連中と友達やれてるのだから、個人としては普通のおれと友達になるなんてわけはない。そう美波は言いたかったのかもしれない。


「どう? 北山くん。……むしろこんな個性的な子達と友達してる俺と、仲良くできる?」


 誰もが敬遠しそうな奴とも気にせず仲良くする。そんな自分のがよっぽど変な奴だ。むしろ自分と友達でいいのか? と、言いたかったのかも。


 おれの答えは決まってた。


「友達で……いたい!」


 この時、おれは泣いてたかもしんねえ……


「はは。……北山くんも変わってるね。もちろんいいよ」

「おいシン、個性的ってなんだよ」


 夏目が美波に引っ付く。


「……ごめんごめん。北山くんを安心させたくて……むしろ俺が変だって話だよ。なっちゃんはかわいいもんね」

「――!? あ、当たり前だ!」


 天然ってのは恐ろしいもんだとそんとき思った。無口な奴だけど、美波は人たらしなのかもと理解した。

 現におれもたらしこまれた側。

 この三人もそうなのかも。


「叶羽さんは~?」

「かわいいかわいい」


 和気あいあいとしてる。変人だらけの中で。

 おれもはいって良いんだこの中に。……そう思うと、嬉しくてたまらなかった。


「そうだ。これあげるよ北山くん」


 美波はなにかを思いだし、ポケットからなにかを取り出す。

 ――それは……


「が、ガチャモンのソフト?」

「うん。ダブっちゃったやつ。ソフトも遊んでもらったほうが良いだろうし……」

「あ、ありがとう……」


 ほしくてほしくて仕方なかったガチャモンのソフトまでもらってしまった。この時のおれは人生の絶頂期なのかもしれないと、その時ばかりは思った。


 それからはこの四人でガチャモンして遊んだ。

 この日から、おれのひねくれた性格は改善していった。

 なにかを恨む事をやめ、友達と遊び、友達のために一日一日を過ごした。

 仲間がいる。それだけで、周りの嫌な声は聞こえなくなってた。


 兄貴は兄貴、おれはおれと、ちゃんと見てくれる奴らができたから。


 それからさらに友達は増えていった。新たな友達はおれみたいに友人のいないもの達もいた。

 今度はおれが美波みたいに、そんな奴らと友達になって救ってやるんだ。おれみたいに悩んでる奴らがいるはずだから……

 

 ちなみに、もらったガチャモンのソフトは今もおれの宝物だぜ。



 ♢

 


 ――そして現在、高校生のおれたち。


「――ってな事がおれと美波の間にあったわけよ!」


 おれは教室で友人達を集めて、当時の話をみんなに聞かせていた。

 当人の美波はめちゃくちゃ恥ずかしそうにしてた。


「へえー! そんなことあったんですか! 神邏くんやさし~♡」

 

 友人の女子がニコニコしながら美波にひっつき、褒める。

 美波は照れくさそうに頭を振る。


「マジ、やめてくれ……普通こういうのって話づらいもんじゃないのか?」

「助けられた側が嬉々として言うもんじゃねえかね? でも嬉しかったからよ!」

「嬉しかったのなら幸いだが……そんな恩人みたいに言うな。大したことしてないからな。俺は」


 ほんと謙遜する奴だよな美波は。明るくなったおれと違い、無口なままというか、クール度がむしろ美波はあがってるよな~


「そんなこともあったな。そういや」


 胸のデカイヤンキー女が、アメなめながらにやつく。

 夏目円香だ。

 そうだよ。こいつは当時いたもんな。知ってるか……嫌な奴に覚えられてるもんだな。

 こいつとはなんだかんだそり合わず喧嘩よくすんだよな。

 でも美波が取り持ってるから、こうして共にはいれるけどよ。


「じゃあわたしらに感謝してジュースでも買ってこいよ」

「あ!? てめえに助けられた覚えはねえよ夏目!」

「ぶっ殺すぞ北山!」


 一触即発、前からこうだったりするんだよな~


「……やめろって」


 こうやっていつも美波は間に入ってくれる。


「友達なんだから俺達は。下らない事で喧嘩するなよ」


 友達……良い言葉だと常々思う。

 でもよ、違うぜ美波。

 


「友達じゃなくて、?」


 そうおれが言うと、美波はくすりと笑う。


「……そうだな」


 すると夏目の奴がチッと口にしてから、


「おい、シンの一番の親友はわたしだぞ」

「夏目にその役はもったいねえ」

「あ?」

「だからやめろって……」


 これからも、こうして親友達と駄弁れる毎日送れるといいな……

 切に願うぜ。



 ――完。


 

 


 






 


 

 

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