おれの大事な友達

メガゴールド

第1話  友になってくれた

『あの子と遊んじゃダメよ!』 

『あいつの兄ちゃん悪い奴なんだって。母ちゃん言ってた』

『育ちが悪いんだって~』

『なんか盗まれるってさ。ドロボー!』


 オッス。おれは北山きたやまみだれ

 今日はおれの昔話をするぜ。


 確か、小学三年か、四年くらいの頃だったかな?

 当時のおれは、住んでる学区内じゃ有名になるほど、ろくでもねえ不良の兄貴のせいで周りから煙たがられてた。


 兄貴は隣町に繰り出しては喧嘩とか恐喝繰り返して、警察に補導される事はしょっちゅうだった。

 今にして思えば、少年院によく入れられなかったもんだと思うぜ。


 仲間もいない一匹狼だからこそ、余計に悪目立ちして、おれら家族は悪い意味で注目の的だった。

 家では毎日のように両親と兄貴の喧嘩を見てた。

 もっと幼い時は怖くて、耳塞いでたもんだったが、そん頃にはどっちにも呆れて無視してた。

 まあ下のちび達は震えてたけどな。

 でもそんときのおれはひねくれてたから、ちび達を励ますとか、耳塞いでやるとかなんてことしなかった。ビビっててダセエ。……なんて、みっともねえ事思ってた。

 

 小学校では教師に無視され、同級生には悪党呼ばわりでからかわれる毎日。

 何かクラスで物がなくなれば、だいたいおれが疑われた。

 悪い奴の弟だから万引きとかの常習犯だ~なんて、したこともねえのに言われてた。


 みんな嫌いだった。どいつもこいつも消えてなくなれ! そうひねくれた毎日を過ごしてた。

 

「え~? 美波くん、ガチャモン同じの二つ持ってるの?」


 クラス替えしたばかりの頃だったか、近くの席で話してる奴らの声が耳にはいった。


「……うん。伯母さんが妹の分と一緒にってさ。すでに同じバージョン買ってもらってたから……」


 金持ちか? ムカつく。確かその時は思った。

 うちの家は兄弟が多くて、あんまり裕福じゃなかった。

 流行りのガチャモンのゲームソフトなんて買ってもらえなかった。

 なぜかゲーム機本体だけはあったけどな。


 ガチャモンは当時流行ったばかりのゲームで、小学生にはめちゃくちゃ人気があった。

 男女問わず、持ってない奴いないくらいに。


 おれも好きだった。始まったばかりのアニメに食い入るように見てたし。

 ゲームは持ってなかったけど、好きで仕方なかった。

 いつか、ゲームやりたいってずっと思ってた。


 

 ♢



 そしてある日、理科の実験か何かの授業だったかな? 適当に決められた班で実験をすることになった。

 おれと同じ班になった女子連中の嫌そうな顔、今でも覚えてるぜ。

 一方、男子はというと……


(こいつ、さっき話してた奴だ)


 ガチャモンの同じバージョンを二つ持ってると言ってた、美波って男だった。

 美波みなみ神邏しんら。男のおれから見てもよくわかるほど、あまりにも顔の良すぎる少年だった。

 とても、普通の学校にいるような面した少年じゃねえ。そう思っちまうほど、芸能人とかアイドルとか顔負けの男だった。

 

 同班の女どもはきゃあきゃあ言って顔赤くしてやがったな。

 当人の美波は、そんな連中の態度に気づいた様子もない、鈍い奴だった。


 そんな美波がおれを見てふと、声を出した。


「……あ」


 なんだよ。おれに言いたい事あんのかよとイライラした。

 どうせお前も同じだろ? 兄貴と一緒と思ってるんだろ?

 

 そうひねくれた態度が顔に出てたと思う。


 ――しかし、美波の視線はおれではないことに気づいた。

 あいつの目線の先には、おれの筆記用具。それらは全部ガチャモンのデザインの物だった。

 おれの視線に気づき、不審に思われてると思った美波は口を開く。


「……ガチャモン、好きなの?」


 美波は初めて話すおれに対し、緊張してか、少しはにかんだ笑みを見せ聞いてきた。

 班の女共は釘付けになってた。

 不覚にも、おれもかわいいと思っちまったしな。


 普通に話しかけられた事におれは驚き……


「な、す、好きならナンダヨ!」


 テンパり、声が裏返ってたのを覚えてる。だせえ。

 同級生とまともに話したことないからって、そりゃねえよな。


「あ、ごめん。……グッズ持ってるくらい、ガチャモン好きな子と班一緒なら……仲良くできるかもって、思っただけで……め、迷惑かな?」


 迷惑なわけがなかった。

 おれもガチャモンについて語れる友達がほしかったから……

 ひねくれて、みんな消えちまえとは思ってたけど、ただただ寂しかっただけなんだと、その時思った。


 おれは全力で首を振った。すると美波は言う。


 「ガチャモン、誰が好き?」


 授業を受けつつ、おれと美波は語りあった。他人とそんなに話すことなかったから、少ししどろもどろだったかもしれねえ。


 その日は、本当に楽しかった。

 今まで苦痛だった白黒な学校生活に色がついたような感覚だった……


 美波も、クラス替えで仲の良い友達と別れてしまい、少し不安だったらしい。だからこそ、共通の話題のある友人が欲しかったのかも。

 ガチャモンは人気だったし、他にも好きな奴はいくらでもいただろうに……

 美波は人見知りで、あまり自分から他の奴に声をかけづらかったのかもな。

 おれにはガチャモンが好きという証拠のグッズがあった。だからこそ話しかけやすかったのかもしれねえ。


 それから、おれ達はよく話すようになってた。

 友達……少なくともおれはそう思えた。嬉しかった。

 ――でも。

 

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