和菓子屋シノハラ編 第三話 ハムコ
ある日のこと、玄関の戸を叩く音で目を覚ました。
荷物を頼んでいた記憶はなかったが、ローブをまとって外に出てみると、配達屋さんは一通の手紙を届けてくれたようだ。
朝食代わりのクッキーを食べながら封を切ると、差出人は幼なじみのクロウからだった。
【親愛なるハムコへ。今度、俺の住む街で新しくオープンする菓子屋で働くことになった。そこで、商品価値を高め、独自性を強めるために、あんたのバフ魔法の力を借りたい。来てくれるなら衣食住と安定した賃金は約束する。どうせまだ実家で貯金を食いつぶしながらのんびりしてんだろ? 暇つぶし程度には楽しめるだろうから、その気になったら準備して来い。
クロウ】
……天井を仰ぎ、ため息をつく。あのいけ好かない幼なじみは、相変わらず甘い物好き……いや、迷宮に潜っているらしい。彼女が死んで、結構経つのに、まだ引きずっているようだ。
まぁそんなことはどうでもいい。新しい菓子屋。安定した賃金と衣食住。学生時代に適当に稼いだお金がそろそろ底をつきそうになり、親にもくっちゃねしてだらだらしてるからそんな太ももになるんだと言われるようになってしまった今こそ、自分で動くべき時だ。
読みかけの魔導書と最低限の着替え、スペアの杖をカバンにしまい込み、身だしなみを整えて、家を出る。
家の外では両親が畑仕事をしていたので、
「今からクロウの所行って、働いてくるね。多分、しばらく帰ってこないかも」
と伝えておく。両親は、やっとかと言う顔で手を振り、いってらっしゃいと送り出してくれた。
伝統に則ってほうきに足をかけ、とんと踏み切って空に浮び上がる。みんなはお淑やかに座るが、ほうきは立ち乗りの方がスピードが出るし、楽だ。
地図とコンパスを頼りに方角を決め、一気に加速した。自分の仕事が、どんなものかを楽しみに。
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