和菓子屋シノハラ編 第二話 クロウ
エンドレス グリード。この世界にいくつかあるダンジョンの総称。遥かな昔、ある聡明な錬金術師と魔術師。そして、いつのまにか姿を消した神という存在によって作られた迷宮は、人間が求めるものをリソースの限り生み出して、吐き出し続けている。
巨万の富を求めたものには宝石を。麗しい女を求めたものにはそっくりの人形を。腹がはちきれんばかりの食い物を求めるものには古今東西の美食を作り出すその迷宮に挑む男が一人、タバコを片手に休んでいた。
その男はぱんぱんに膨れたバックパックに大鎌を立てかけて、これからのことを考えていた。
男の名前はクロウ。国の王都から離れた田舎の迷宮で探索を続ける冒険者。今は、訳あって知り合ったある菓子職人の男のために、迷宮で材料集めをしていた。
が、今日は調子が良く、普段降りることのない階まで来てしまい、このまま進むか引き返すかで迷っていた。
迷宮は奥に進むほどに、より良いものが出現するようになる。それに比例して敵の強さや数も倍増しになって行き、ある程度のところまで行くと一人での探索は基本不可能となる。
といっても、この男は最奥の一歩手前まではソロで行けるので、そこは問題ない。問題なのは、バックパックの容量だ。
ここまで集めてきた材料を捨ててまで、リスクをとる必要は無い。が、あの職人が作る菓子は絶品だ。それ故に迷い、頭をひねり……
結局、いつも通りあの大鎌にこれからを決めてもらうことにした。
目を瞑り、当時を思い出す。自分を振り回し、好き勝手していたあの女を。その結果、油断して足を滑らせ怪物に食われ、誰の手に渡るか分からない迷宮の宝の材料となった彼女のことを。
生き残り、形見の大鎌を未練がましく持つ男は、その鎌をぽいっと放り投げた。
迷宮の高い天井すれすれに迫った鎌は落下で勢いを増しながら回転し、そのまま地面に突き刺さる。これは、引き返せの合図だ。
男はタバコを踏みにじり、バックパックを背負い直す。この材料で、またあの職人に菓子を作らせよう。甘いものは、いつ食べても、裏切らないものだから。
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