第15話
「おぬしは男をコロコロ変えすぎじゃのー」
「えっ」
その場にいる全員が、(当たってる)と思った。
「生き方を改めんと、今後もずっと刹那的な交際しかできぬじゃろ。独身、子なし。以上」
「やだああああ」
ミヤミヤがばしゃんと湯に顔を打ち付けた。かと思うと、ざばっと顔を上げてアカリを見る。
「生き方を改めればいーの?」
「そうじゃな。大きく変えるのは難しくとも、己の心がけで未来は少しずつ変わっていく」
アカリは、次に月子と千里眼石とを交互に見た。
「おぬしのことを認めて受け入れてくれる、落ち着いた男と結婚するのう。子供は一人。平穏な人生になりそうじゃな」
「やだああああ」
今度は月子が湯に顔を打ち付けた。
「嫌なの?!普通に幸せそうじゃん」
「私は太く短く生きたいの!もっとドラマチックな人生がいいー!」
「文句の多い連中じゃの…」
アカリは葵に目をやったが、彼女はさっと手を振った。
「わたしは遠慮しておきます。占いを気にしてしまいそうだから」
「ふむ、そうか。自分をよく知る、賢い女子じゃの」
何度か頷くと、アカリは七央の方に体を向けた。
「おぬしは…、好きな男とは上手くいかないのう。違う男と結婚して子供は三人。三人目の出産で命を落とすことになりそうじゃ。もったいないのう、若いのに」
世間話のような口調で、突然の死亡宣告。ミヤミヤが「げえ」と声を漏らした。
「好きな人とは上手くいかないんですか?」
「気になるのそこ?!死ぬって言われてんだよ?!」
ミヤミヤに突っ込まれても、七央は真剣な顔つきでアカリだけを見ている。
「今のままじゃとな。さっきも言うたろ、己の心がけで未来は変わっていくと」
「とんでもないこと言う婆さんだったね」
「若かったわよ、見た目は」
「見た目はね?!あれ絶対二百年くらい生きてるっしょ?!」
脱衣所で着替えながらミヤミヤと月子はヤイヤイ言っていたが、七央は上の空であった。葵が心配して、七央の顔をチラチラと見ている。
七央のことは月子も気になっていた。既に七央のいない人生など想像できなくなっている月子である。
(あの占いの通りになったとして、七央が死んでしまっても、私はその頃結婚して子供も一人いて、安定した暮らしを続けていくのかしら。それが人生っていうものかしら…)
それは、なんだか寂しいような気がした。
「気にすることないわよ。未来は変えられるってあの人言ってたじゃない」
言いながら、葵は七央を椅子に座らせ、髪を拭いてやっている。
「つかさ、高山ちゃんって実際どうなってるわけ?紫炎くんと」
七央の目に動揺が走った。
「なななななんで、ししし」
「いやさ、隠してるつもりなのかもしんないけど、バレバレだから。少なくともここにいるメンツはもう知ってるから…」
ミヤミヤの言葉に、月子もうなずいた。はっきり言って七央は分かりやすい。紫炎に気があることは、当の紫炎だって気付いているだろう。
七央はがくりと項垂れた。
「振られた…」
「えっ」
「しかも、さっき。振られたて」
さっきって、もしかして庭でしょんぼりしていた時だろうか。
「やっぱり何も言わなければ良かった。これからどんな顔して会えばいいのか分からないよ…」
さめざめと泣きだしてしまう七央。
「高山ちゃんを振る男がこの世に存在したの?!ホモ?不能?!」
ミヤミヤは驚愕している。
その後は、七央をみんなでなだめすかしてどうにか落ち着かせてから、部屋に戻った。
「気に入らないわ」
布団が敷かれた大部屋で、月子は言った。
七央と葵は後から来ることになっている。七央は大勢でわいわいやるような気分ではないだろうが、「人がいた方が気が紛れるかもしれないから、連れていく」と葵は言っていた。
「気に入らないって、なにが?」
「七央よ。あんなメソメソしおしおした女を倒しても、何も楽しくないじゃない!」
「あー…」
ミヤミヤはお茶を一口飲んで、うなずいた。
「高山ちゃんに元気になって欲しいってことね。ほーんと、三条ちゃんってさあ…、」
「だまらっしゃい!!私は私のために言っているの!」
月子は憮然として枕を抱きしめた。
「…決めた。明日紫炎くんに決闘を申し込むわ」
「はえ?何の決闘?囲碁とか?」
「殴り合いよ!」
「えええ??」
ミヤミヤが目を白黒させている。
「アカリさんのところに行ってくる!」
「なんでアカリさん…、部屋分かるの?!」
「私たちの他は二室しかないんだから、どちらかでしょ!」
その少し前。
ロビーで氷を貰って部屋に戻るところだった紫炎と恭介は、廊下で知らない女に呼び止められた。
「なんじゃ、おぬしらは!風呂に来なかったではないか」
二人は女たちがいる露天を避け、内風呂の男湯にだけ入ったのだった。
「いや誰?」
「三条が言ってた占いの女じゃないか?」
「そうじゃ、わしじゃ!アカリちゃんじゃ!」
アカリは懐から琥珀色の玉を取り出した。
「まーったく、これで全員の顔を見ることができた。どれ、ついでにおぬしたちも占ってやるか」
恭介がさっと耳を塞ぐ。
「結構です。自分の未来なんて知りたくない」
「ほう、黒琵琶の娘と一緒か…。よいよい」
アカリは鷹揚にうなずいた。
「じゃ、おぬしの方は占わせてもらうぞ」
「はあ…。お好きにどうぞ」
紫炎はだるそうに答えた。どうでもいい、と顔に書いてある。
「どんなジャンルにする?恋愛運とか健康運とか色々あるが」
「ジャンル…。じゃあ仕事運とか?」
アカリは玉を覗き込んだ。
「…おぬし自身の仕事の出来は問題ない。優秀なようじゃなー。ただ、今のままじゃと仕事どころではなくなるのう」
「なんで?」
「女難の相が出ておる」
「はあ?」
「おぬしのことを慕ってくれている娘のことはキープしておいて、それはそれとしてまだ気ままに遊んでいたい、というその性格のせいで厄介なことになりそうじゃ」
アカリはもう一度玉を覗くと、おっと、と呟いて玉を懐に戻した。
「客が来るようじゃ。わしは部屋に戻る」
紫炎と恭介は、急に呼び止めてきて急に去っていった女を怪訝そうに見送った。
「なんだあの女、適当言いやがって」
「ずいぶんと具体的な占いだったな…。あるんじゃないのか、心当たりが」
「…ねーよ!」
紫炎は恭介の頭を叩きながら返した。
ライバルのつえー女を蹴落としたい! さめ太郎 @tori-mesi
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