第15話 【再会】


 ポポさんは、鼻を地面にこすりつけながらも、風にあらがい続けた。


「わたろうさん、あたしも、きっとだいじょうぶ……」


 ポポさんは、風上に向かって、そう叫んだ。



 ふいにポポさんの頭の上で、ムクドリの大群が一斉に羽音を打ち鳴らし、空を覆(おお)った。


 それを見ると、ポポさんは、高らかに、歌を歌い始めた。


 風に吹かれて、鍵盤のように揺れているゆきやなぎの下に這いつくばって、思いのままに。その歌は、いつかわたろうさんと一緒に、爆弾のような糞を大勢で落としてゆくムクドリたちに、抗議するために作った歌だった。



たそがれどきの

お空には


泣きべそムクドリ

きんぴかぴん


木立つきぬけ

若葉を散らし


ホタルブクロを

つむじで巻いて


あぶくまみれの

空気てっぽう


屋根の上まで

いちもくさんさ


ああ

あかねゆうやけ

ジンジンジン



 ポポさんは、空を見上げて、歌い続けた。


 何故かわたろうさんが、いつかの時みたいに、嬉しそうにマシュマロみたいな頭を振っているような気がした。


 そして、そよ風が頬を撫でるように、ふいと、わたろうさんのあの時の目が、雲を透かして見ているようなあの目が、ポポさんの胸から、全身へあふれるように蘇ってきた。



 ポポさんは、今度は【お日さまの歌】を歌った。



飛んでゆこうよ

てんてこ てまり


はねてゆこうよ

てんてこ てまり


明日は こっちへ

来るんだよ


きらきら燃えて

来るんだよ


お日さん お日さん

お疲れさん


たんと眠って

またおいで!



 と、その時、ポポさんの頭の上から、一本の綿毛がふわふわと、ゆっくり舞い降りてきた。


 そしてポポさんの顔の前で、しばらくゆらりゆらりと、のんびりたゆたっている。

 

 ポポさんは目をみはって、それをじっと眺めていた。


 綿毛は、どうやらくるりくるりと、小さな輪を描いているようだ。



 懐かしかった。

 なんだか……とても。


 綿毛の上に、一滴(ひとしずく)の涙がこぼれた。


 すると、綿毛は急速に足元に落ちていった。



 ポポさんは、そっと、かがみこんだ。


「おかえりなさい。また、いっぷくでも、いかがです? 」



 あかねにふちどられた、真っ黒なムクドリの群が、音をたて続けていた。

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ポポさんと、わたろうさん 夢ノ命 @yumenoto

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