嘘つきさん

学生作家志望

最低な人

笑ってたなー、今日も。今あの人は何を思ってあんなに笑ってんだろう。僕にはさっぱりだ。


あの人を見たら僕はすぐに廊下の角を曲がるのに。あの人はなんですぐ僕の隣に歩いてる友達に話しかけてくるの?


ほんとにわからなくて、怖い。


そして、ずっと怒ってる自分がいる。



今まで色んな人に嘘をつかれてきた。ちっぽけな嘘もあれば本当に人を傷つけてしまうような嘘まで色々あった。


でもそんな「嘘」もつかれる相手によってはだいぶ意味合いが変わってくる。


例えばその「嘘」が「冗談」として捉えられるようなそれくらいの友達だったらいくら嘘をつかれようとも傷ついたり深く考えてしまったりはしないだろう。


でもそれが自分の好きな人であったり、自分の憧れのような存在であったらどうだろう。


僕は、自分の好きな人に最低な「嘘」をずっとつかれていたんだ。それが判明にしたのは夏の始まりを感じ始める6月中旬のこと。



「好きな人とかいんのー?誰?教えてくれよ!」



授業中、男子が集まって恋バナをし始めたところに僕も少し混ざっているとそんな質問を急に近くの男子に投げかけられた。



「………え、と」



僕が困った表情をするとその男子が後で教えてと僕に耳打ちをしてきた。


そしてその授業を終えた後、自分の好きな人をその子に伝えた。もちろん、「絶対に誰にも言わないで!」と釘をつけて。



それから1時間後。掃除の時間が始まっていつものようにホウキでゴミを集めているとなんと好きな子から「放課後に相談あるからきて!」と呼ばれた。


自分は喜んでいいのかなんなのかよくわからない状態で放課後その子のことを待った。



「聞いたよ!私のこと好きなんだってね!」



あまりに急のことだったために僕は当たり前のようにそれを聞き流してしまってその子にもう一度そのことを言ってもらった。



「え、なんで知って………」



「⚪︎⚪︎から聞いた笑」



嘘だろ。そう、がっつり言われていた。釘をさしたあいつにだ。周りの男子に言いふらす程度なら想定していたが、まさかそれを直接本人に言うとは、僕も考えていなかった。


まさかの展開に僕はかなり戸惑って焦る。そんな僕にこんな言葉をその子はかけた。



「よろしくお願いします!」



「え、え、!いいの!!」



喜び、戸惑い、色んな感情でぐちゃぐちゃになりつつもとりあえずは安心した。


こんな形で初めての彼女が僕にできた。ありえない過程を踏んで。


それからは毎日のようにメッセージのやりとりを何時間もやって、寝落ち通話もした。もちろん、放課後にどこかに遊びに行ったりもした、一緒に帰るのも。



本当に好き。好きすぎてどうにかなっちゃうような気持ちでいっぱいだった。


ずっと一緒にいたい、そんな気持ちが頂点に辿り着いた時だった。



「お前の彼女、元カレと帰ってるけどいいの?」



その日の朝のことだった。「今日も一緒に帰れないごめん!」何か訳があるのかは説明されていなかったが二日連続で、一緒に帰れないと言われてしまって理由を自分で考えていた。



そして出てきた結論が、今クラスで起きている数人の喧嘩に巻き込まれているため、その対処じゃないか、ということ。


しかし喧嘩と言っても一緒に帰れなくなるほどのことなのだろうか、そう思っていた。するとその日、彼女からこんなことを説明された。


「〇〇にね、元カレに嘘つかれたから、それを弁明してくる。」

〇〇とは当時、喧嘩状態にあった女子で、

別に何も聞いていないのに突然言われたその言葉をなんとなく僕は聞き流していた。



その日は結局彼女と帰ることを諦めようとしたが、悩んでしまって別の友達と約束を作って学校に待機することにした。


喧嘩が治っていないのに黙って帰れるわけがないと僕はそう思って待っていた。



しかし1時間以上経っても校舎からは出てこず、帰る前に少しだけ話したいと思って校舎へと入った。


まだトラブル解決してないから会えないよね、と半分諦めていたが数人で話している彼女が廊下に居た。


そしてバイバイとだけ言おうと思ったが、何か焦った様子で「ごめん今日は帰って」と言ってきた。



僕はなんだか突き放されたような感じがして落ち込んだまま校舎をあとにした。



そして友達とコンビニに寄ったあと、1人で帰っていると………



「お前の彼女、元カレと帰ってるけどいいの?」



別の男友達に言われて、初めて彼女が元カレと帰っていることを知ることになる。



「え、何も言われてないよ。」



「おっとー?これはー!」



だ。僕は不安な気持ちで頭がおかしくなりながら、なんとか家まで歩いて帰宅した。


歩きスマホはしたくなかったから、帰ってから連絡をした。その連絡の内容こそ、友達から言われたことの確認。



「………って、言われたけど本当?」



「他の男子含めて3人で帰ったから大丈夫だよ」



大丈夫、なんて言われてもまったく安心はしなかった。その理由は、インスタグラムでの2人のハイライトが彼女のアカウントから消えていたこと。そして、ノートでは「アイス買ってくれてありがとう!」という文字。



僕はもう終わったと考えた。大丈夫なんて簡単に言ってくるところも、最悪だ。



しかししばらく落ち着いて考えたら確かに彼女は元カレに弁明をすると言っていた。

それに気づいて僕はすぐに誤解だったと謝るメッセージを送った。



ハイライトもノートも気にしないことにしてこれで解決したと思っていたが、いつもあっちから誘ってくる寝落ち通話もその日はあっちから出来ないと言われた。



ただただ、不信感だけが残る。でもそれでも自分が本気で好きになった相手を信じたかった。信じなきゃいけない気もした。


でもこの時、まだ大きな疑問が残っていた。それは元カレのことを前まではストーカー扱いをしていたことだ。本当に1日前くらいまでは僕に対して元カレのことをまるで犯罪者かのように語っていた。



じゃあなんでそんな元カレにわざわざ弁明なんかをしに行く必要があったのか。



僕はもう気付いていた。全部嘘だ。



僕の頭に最悪のシナリオが思い浮かんできた。それは、全てが元カレと復縁するための時間稼ぎ。すなわちキープとして利用されていたということ。



でもこの最悪のシナリオが現実だったと僕が気付くのに、そこまで時間はかからなかった。



次の朝学校で、直接僕は何度も謝った。



「ごめんね昨日。」



「うん、いいよ」



すごく小さな声で彼女はそう言った。めんどくさそうな元気がなさそうな。


ノートには「アイスありがとう!」なんて書いてた癖に、元気がないわけがなかった。



その日の会話はそれっきり、僕が話しかけようとしても女子数人で固まって他の男子のところへ走って逃げていく。これの繰り返し。



廊下ですれ違う時に、先生に何か相談している声が聞こえてきて、こんなことを話していた。



「何もうまくいかなくて、彼氏とも喧嘩中でー」



「え、」



驚いてつい声が出てしまった。あんなに謝ったのに、なんだよそれ。わけがわからない。僕は喧嘩だと思ってあの会話をしたわけじゃない、好きだから言ったのに。



なんで勝手に喧嘩なんて言ってるんだよ。避けてんのはそっちじゃんか………



限界だ………



 ◆

19時ごろ、1人でご飯を食べていた時だった。気持ちがやっと落ち着いてご飯が食べれるくらいに回復していた。



「昨日は食べれなかったから今日はちゃんと食べないとね。」



そうやってまた独り言。昨日一口も食べれなかったおかずを見て。そんな時だった。スマホがなって開くと彼女からのメッセージがあった。



「今ちょっといい?」



「うん」



この時点で何を言われるかはわかっていた。

きっと「別れよう」って言われる。はぁ、短かったな。



「ねえ、そもそも私たちってカレカノなんだっけ?」



別れ話が始まったのはその一言からだった。


カレカノとは彼氏彼女の関係をさす言葉。つまりこの場合、彼女が言っているのは「そもそも付き合ってたっけ?」ということ。



彼女が言うにはどちらとも告白をしていないから付き合っていなかった、カップルではなかったらしい。



返信の仕方に困って僕はそれから何を言われても「うん」としか返せなかった。だけど本当は言わなかった本音があった。



「よろしくお願いします!」とあっちから言ってきたんだ。それを今更付き合ってないことにされる。まるで僕が1人で舞い上がってたかのようにされる。そんなの無責任すぎないか?


それに、手を繋いできたのもあっちからハグをしてきたのもあっちから、最終的にはキスだって要求してきた。



それを、付き合ってない2人がやるんだろうか?付き合ってないと思っていたなら少なくとも絶対にやってはいけない行動だ。



怒りと悲しみが同時に大爆発を起こして、僕は何度も涙を流した。



あの一言から始まった別れ話とも言えないような謎の会話は、元カノのこの言葉で締めくくられた。



「またいろんな相談のってね!」



僕はその後、その日の夜ご飯も結果的には残してしまい、いつも仲良くしてくれている友達やお世話になっていた先輩にこのことを全て話した。



いろんな人が僕を優しく慰めてくれ、少しずつ相手に対する気持ちも解けていった。



こんなことをされてもまだ「好き」という感情を残してしまっていた自分のことが大嫌いで、だから早く消してしまいたかった。



そして数時間後のことだった。



「ねえね、きいて。」



目を閉じてもずっと眠れなかった深夜に、元カノから急に連絡が来た。



早速、相談をしてきたのだ。しかも前まで受けていた相談とはまったく違くて、他の男子が優しいと何度もその中で繰り返していた。



「そうだね、優しい。」



僕に嫉妬をしてほしいのか、なんなんだろう。本当になんなんだろう。そっちがあんな意味わからないことを言ってきたのになんで僕を未だにいいように利用しようとしてるの?



僕はその会話をなるべく早めに終わらせて、スマホの電源を消した。



元カノはその二日後、元カレと復縁を果たした。



後々、僕に話していた全ての話が嘘だったと判明した。

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嘘つきさん 学生作家志望 @kokoa555

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