ほのぼの後日談ー2
「はい。おはぎを作ったのです。あやかしの調理器具では失敗してしまうことが多かったのですが、ようやくまともに作ることができました」
煉魁はその場に胡坐をかき、風呂敷を広げた。中には重箱があり、蓋を開けると美味しそうなおはぎが並べられていた。
「おぉ、美味そうだ!」
煉魁の目が輝く。
「食べていいか?」
「はい。お口に合えばいいのですが……」
謙遜する琴禰だが、料理の腕前は、あやかしの料理人も唸るほどのものだ。一口頬張ると、上品な餡子の甘味と柔らかなもち米の風味が絶品だった。
「うん、さすがだな!」
煉魁は声を張り上げて言った。
「ああ、良かったです」
琴禰もほっと安堵した。
「こんな美味しい差し入れを持ってきてくれる嫁がいる俺は幸せ者だなぁ」
煉魁はしみじみと呟く。
(こんな美しい夫を持つ私も幸せ者です)
琴禰は心の中で拝むように言った。煉魁の美しさは、まさに人外の美しさ。神々しすぎて拝んでしまう。
琴禰も煉魁の隣にちょこんと腰を下ろした。
「今日はどのくらいで帰ってこられますか?」
「訓練が終わったら帰れるぞ。それとも、もう切り上げて一緒に帰るか?」
「いいえ、稽古を教える煉魁様の姿があまりにも美しかったので、もう少し見学していってもいいですか? 邪魔にならない所にいますので」
煉魁はおはぎを頬張りながら、まばたきを繰り返した。
「もちろん、いいぞ。そうか、かっこよかったか……」
少し照れ臭そうな顔をして、煉魁は呟いた。俄然、やる気になったのは言うまでもない。
琴禰は突然、煉魁の肩に頭を乗せた。
控えめに甘えるような仕草に、煉魁の胸の心拍数が上がる。
「煉魁様は、誰よりもかっこいいです」
偽りのない本音だった。
毎日一緒にいるのに胸の高ぶりを感じる。遠くから見ても見惚れてしまう。夫婦なのに、こんなにときめくのはおかしいのではないかと思うくらい、好きな気持ちで溢れていた。
それはもちろん、煉魁も同じことで、毎夜抱いているのに、肩に頭を乗せられたくらいで胸が高鳴ってしまう。
今すぐ寝殿に連れ込んで組み敷きたい欲求と戦っているほどだ。
「さて、残りはあとで頂くとする。琴禰にかっこいい姿を見せねばいけないからな」
煉魁は重箱の蓋を閉め、風呂敷で巻いた。
琴禰は鍛錬の続きを見られるので、目を輝かせた。
「と、その前に」
煉魁は立ち上がる前に、琴禰に口付けをした。軽い口付けかと思いきや、思いのほか長いので、琴禰は終わらせようと身を引いた。
すると、煉魁は琴禰を抱き寄せて、舌で無理やり唇を開かせ、咥内に侵入してきた。
まさか練兵場の片隅でそんなに激しい口付けをされると思っていなかったので、驚いて離れようとするも煉魁はさらに激しさを増す。
衛兵達からは見えない物陰にいるとはいえ、さすがに激しすぎる。
琴禰の体を知り尽くしている煉魁は、一気に琴禰の体温を上昇させる。
頬が高揚し、潤んだ瞳で煉魁を責めるように見つめる琴禰の色っぽさに、背筋がぞくりとする快感を覚える。
「それでは、いってくる」
唇についた琴禰の口紅を親指で拭いながら、満足気に立ち上がる。
腰がくだけるように、力が入らなくなった琴禰を置いて、煉魁は何事もなかったかのように衛兵達の元へ戻っていった。
(煉魁様ったら……)
少しだけはだけた着物の衿を直して、恨みがましく煉魁の後ろ姿を見やる。
しかし、たまに見せる少しいたずらっ気を秘めた瞳の煉魁もたまらなく好きなのだ。
ご機嫌で気合の入った煉魁は、剣を持つと一際大きく空に舞った。
まるで白竜のように中空にくねらせた体を遊ばせ、流星のように剣光をたなびかせる。
その姿は誰にも真似できない唯一無二の美しさだった。
【完】
あやかし王は虐げられた花嫁を溺愛する 及川 桜 @hrt5014
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