5話 清水病院のカルテ 担当:桜木大輔
「この度は心からお悔やみ申し上げます。本当に残念でなりません。」
寺島愛花(テラシマ マナカ)17歳。
先日、学校からの帰り道でひき逃げに遇い緊急搬送されたが3日後に死亡。
17年前私が医者になって3年目のこと。愛花ちゃんはこの清水病院で誕生した。彼女は生まれつき心臓が弱い子だった。そのため幼い頃から入院が多く担当になった私も自然に仲良くなりよくお喋りをしたものだ。体が弱かったにも関わらず性格は前向きで明るく、笑顔が絶えない子でたくさんの患者や看護師たちに好かれていた。
彼女が小学3年生になる頃には他の子たちと一緒に遊べるくらい元気になった。その後も定期検診で会っては学校の話など、時には気になっている男の子の話で盛り上がった。中学校を卒業してからは病院に来る回数も減り見かけなくなった。そして時が経ち事故の一カ月ほど前駅で彼女を見かけた。相変わらず元気で「大輔先生ひさしぶり!」と笑顔で挨拶してくれた。頭が良かった彼女は都内の看護学校に受験するのだと楽しそうに話し将来は先生みたいに優しい看護師になりたいと言ってくれた。
私は15年前に結婚したが子供ができずずっと妻と2人だった。図々しい話だけどそんな中いつも笑いかけてくれるあの子を自分の娘のように思っていた。そして不自由のない体で成長してくれたことが心から嬉しかった。事故で搬送されてきたときには頭部へのダメージが酷くおそらく死ぬと悟った。遺体を棺に入れる際彼女の身体は異様に軽く感じ、無性に涙が込み上げてきた。こころに穴が空いたようで胸が痛かった。
愛花ちゃんに父親はおらずお母様1人で育てたそうだ。大切に育てた1人娘がこんな形でいなくなるのは想像を絶するほど辛く、悲しかっただろう。
「桜木先生、今まで娘のめんどうを見てくださりありがとうございました。こんなことになるなんて思っても見なかったので今は本当に言葉が出て来ません。愛花は桜木先生の事が本当に大好きで進路を決める時も私は大輔先生みたいに困っている人を助けられる人になりたいんだって口癖のように言っていました。生まれてからずっとお世話になっていたからとても感謝していたんだと思います。愛花が笑って過ごせたのも先生の影響が大きいと思います。私自身もシングルマザーで心細かった時優しく寄り添ってくださって感謝してもしきれません。最初から最後まで大変お世話になりました。」
涙目でお礼を言ってきたお母様はだいぶやつれていた。ひき逃げ犯は未だ捕まらず、怒りはおさまらなかった。なんで愛花ちゃんは死んだのに殺したやつは生きているんだ、できる事ならこの手で殺してやりたい。いろんな感情が込み上げてきて涙が溢れてきた。くやしくてたまらない。
医院長の清水先生もこの病院を12年ほど前に継いで愛花ちゃんの事を気にかけている様子だった。よほど思い入れが‘あるのか死亡についての手続きや書類は全て医院長自ら行っていた。早く成仏させてあげようと言って火葬も早めに行われた。
愛花ちゃん、君はとても優しい子だったからきっと天国に行けるだろう。犯人への恨みや生前の未練などは断ち切って幸せな気持ちで逝ってほしい。こちらこそ僕に生きがいをくれてどうもありがとう。 どうか安らかに眠ってください。
2024年4月3日 記録;桜木大輔
関わると死ぬという家の話 天音 @2006-ay-novel
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