第七話 結晶戦争

第七話 


エレナの口から結晶戦争の詳細について語られる。彼女はルウの手首に血液を採取するためのチューブを刺し、改めて咳払いをした後、語り始める。


「この戦争はね、文字通り『結晶』を巡る戦争よ。結晶は聞いたことがあるはず。何千年も前にオーバーテンの各所に落ちてきたものよ」


ルウが頷きながら答える。


「はい。結晶は知ってますよ。オーバーテンのどこかに10個落ちてきたって。でも、結晶は伝説上のものではなかったんですか?」


ルウは結晶は伝説上のものだと思っていた。しかし、戦争の話を聞いてから結晶が存在することを知った。


「ルウくんは結晶のこと教えられてないのか。結晶はね、伝説上のものじゃなくて本当に見つかってしまったの。今までは何も無かったところから突然見つかったんだって」

「え!マジか!それってものすごい大発見じゃないか!」


ルウは驚きを隠せない。神話が現実になるなんて、なんてロマンが溢れる話なのだろうか。エレナは話を続ける。


「そうなの。結晶は超高密度のオーバー粒子の塊。この世界の粒子は結晶から出てるのよ。それで、戦争は結晶が見つかってから何年後かに始まったの。私たちマルタ王国もある『ワンディア大陸』は西と東で敵に分かれたよ」

「なんで戦争が始まったんだ?」

「オーバーパワーを使った悪質な犯罪、強いオーバーパワーを持つ者の権力の独占、オーバーパワーがあることによって起こるあらゆる不平等、治安の悪化を結晶を壊して止めたいと考えるのが私たち西側。で、結晶を保有して、強力なオーバーパワーを使って権力を安定させて、クーデターとか暴動が起こらないようにしたいと考えてるのが東側。まぁ、あっちはいわゆる保守派ってとこね」

「なるほどな。考え方とかはよく分からんけど俺たちは結晶を壊したいって思ってる人たちなのか」

「そういうことね」

「……なるほど。……ん??結晶を壊すなんてことして大丈夫なのか!?そこから粒子出てるなら能力使えなくなるじゃねぇか!」

「そうよ。結晶を壊したらワンディアの人間は能力を使えなくなるでしょうね」

「それって……色々大丈夫なのか?」


エレナはんーと考えるような素振りを見せてから適当な感じで答えた。


「たぶんね。最近は能力を後付けできる缶ジュースみたいなのが開発されたっていうし」

「…あっ!インスタントオーバーパワーか!」


ルウが自身の腰につけた缶を見ながら言った。


「あ、その腰にぶら下げてるやつか!いや〜便利な時代になったねぇ」

「エレナさんってたまにおばあちゃんっぽいこと言うよな…」


エレナの口調に軽く突っこむルウ。しかし、今までの話を聞いてとある疑問が浮かんだ。インスタントオーバーパワーは本当に俺のために開発されたのか?『ルウにオーバーパワーを使わせる』ことが開発の表向きの理由なのだと仮定したら本当の理由は?今までの話を聞いてなんとなく思い浮かぶ答えがある。


「エレナさん、インスタントオーバーパワーってワンディアから能力が消えた後の世界に流通させようとしてるんですかね?それとも軍事利用とか…」

「それはあるかもねー。インスタントオーバーパワーってまだこの国の人だとルウくんしか飲んでないっていうし、お城の中の人しか存在知らないもん」

「やっぱりその線はあるんですね。というか、エレナさん妙に色々詳しいですよね?」

「メルさんから色々教えてもらうんだよ。あとは私の能力のおかげかな」

「どんな能力なんですか?」

「私の能力は『地獄耳』。これ見て」


と言うと、エレナは髪を耳にかけた。思わず口が開く。黒く尖った形はまるで悪魔の耳のようだ。この耳で様々な噂話を入手していたらしい。


「盗聴してるの内緒だからね?私とルウくんの秘密!ふふっ」


可愛らしい小悪魔のようなエレナの笑顔と発言と耳のギャップに少々戸惑いながらもルウは笑顔で答えた。


「わかった。2人の秘密な」

「あ、そろそろ血液検査終わり!あとはCTで脳のスキャンするから準備よろしく!」

「まだ終わんないのか?」


エレナは口を膨らませて言う。


「もー、せっかちだなぁ。じゃあ能力発動の仕組みを教えれば納得いくかな?」

「…まぁ、難しそうだけど興味はあるので聞きます」


ルウが眉間に皺を寄せながら答えた。


「まぁいいや、話したげるね!オーバー粒子は呼びかけをした後、自然と脳に吸収されるの!それで、各々の脳に刻まれたオーバーパワーが発動するのよ!あとね、オーバーパワーの能力名とか技名をいちいち叫ぶと脳が能力をイメージしやすくなって、強い攻撃ができるってわけ!」

「あれ、普通に有益な情報だし脳検査する意味も分かったよ。ありがとう!」

「エレナさんに任せなさいってこった!」


準備ができたルウは検査台に寝転がる。寝転がったルウは疲れていたためすぐに寝落ちしてしまった。ルウは夢を見る。うとうとしつつ起きると、そこは見覚えがある場所だった。しかし、もう2度と戻って来たくないと思っていた場所でもあった。真っ暗な闇の中。不気味なアイツが目をギラギラさせながら立っている。


「また来ましたね、ルウくん♪」


シャラライトがまたもやルウの夢の中に現れた。

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Over Ten 第一部 〜終わった世界と始まりの朝〜 クスリユビ @kusuriyubi_over_ten

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