第六話 マルタ王国の頭脳たち
第六話
「こんにちは!私の名前は『メタリア・フレイン』よ!この国でNo.1の天才少女!あなたがドグくんっていうの?よろしくね!」
孤独だったドグの前に一筋の光が差し込んだ。面会室の壁を隔てた向こうからでも彼女の魅力は伝わってきた。ほとんど女子と関わらずに生きてきたドグにとってこれは新鮮な出会いであった。
自分で国内No.1の頭脳を名乗ってしまう程自己肯定感が限界突破しているこの女の子は『メタリア・フレイン』というらしい。自分よりは年下に見える。目は綺麗な二重をしており、瞳は透き通るように青い。唇の血色が化粧でもしたかのように良い。髪の毛は肩より下まで伸びており、美しい金色をしている。しかし、頭部の右上と左上に謎の円盤が突き刺さっているように見える。ヘアアクセサリーだろうか?またはオーバーパワーだろうか?色々考えるが、とりあえず質問しなければならないことがある。
「…どうして僕のところに来たんですか?」
「んー、お父さんが王様やっててー、それでお前くらい頭いいドグって子がいるから会ってみろーって言われた。だから暇つぶししに来たのよー。」
「……王様!?お父さんが王様なの!?この国の!?」
「そ。キョウっていうんだよ。デカくて、お顔が怖くて、髭が立派でー、あとはー……おならがクサい!はははは!」
「そんなこと言ってるのバレたら怒られちゃうよ……。」
「だいじょうぶ!お父さんは私たち子どもにはすごく甘々なんだよ!怒ったりしない!お母さんはちょっと怖い時あるけどね。ははは。」
「……そっか。お父さんとお母さん、優しくていいね。」
ここでメタリアは自身の発言の過ちに気づき、思わずハッとする。
「……あっ、ごめんね、家族の話……。」
メタリアはここが孤児院だということを忘れていた。自分の発現を子供なりに反省し、後悔する。喉の筋肉が硬直し、これ以上の言葉が出てこない。
「………ううん、いいんだ。もう散々悲しんだし。あと、僕にはたくさんの大人の人が色んなことを教えてくれる。直接ではないけどね。だからもう、だいぶ気分は落ち着いてきたんだ。」
すると、メタリアがハッとした顔をする。
「あっ、大人の人で思い出した!お父さんにドグくんお城に連れてこいって言われたんだった!さ、早く準備して!めんどくさい手続きは終わってるんだって!」
「えっ、え?どういうことなの?わけわかんないよ!僕、外に出たら危ないし、色んな人に迷惑かけちゃうよ!」
唐突なメタリアの発言に動揺を隠さないドグ。なぜ危険なオーバーパワーを持つ自分が城内に行くことになっているのだろうか?外に出たら、自分の周りの人々は大丈夫なのだろうか?様々な不安がドグの頭の中を駆け巡るが、そんな不安はすぐに一蹴された。
「だいじょーぶい!これを見て!かっこいいでしょ!試作品だけどねー。」
「………これは?」
「メタルンスーツ仮号機!と、名付けました!私が作ったんだよ?すごいでしょ!さささ、そっちのお部屋に入れるから早く着てね!」
メタリアはスーツを面会室に入れてもらい、ドグが着替えるまで待った。
「着替えたよ。」
「似合ってるよ!ささ、早く出てきなさい!」
「で、でも、僕の体からは毒が出てて……。」
「その毒を周りの人に吸わせないためのスーツなの!それは!私が作ったスーツを疑うつもり!?」
「違う違う!そういうことじゃないよ!わかった、すぐに出る。」
彼らは職員に見守られながら孤児院を後にした。ドグは何度も孤児院を見返す。何気に孤児院の全貌を見るのは初めてかもしれない。入った時の記憶はほぼ無いからだ。
(意外と立派なとこに住んでたんだな……。あれ、屋根の左右に金色のお魚が2匹乗ってる。なんだろうあれ。)
新鮮な外の風景を楽しみながら彼らは城に向かって歩みを進めている。ここでドグがあることに気づく。
「……なんか、人少ないね。」
「今は戦争中でこの国にいる人は少ないのよ!でも、孤児院は国の技術がふんだんに使われてるから安全なシェルターとしても使われてるのよ!あの立派な見た目はハリボテで本当はあなたたちが住んでたのは地下深い場所なのよ!」
「へぇ、そうだったんだね。どおりで窓が無くて外の音もしない静かなとこだったわけだ。」
「ちなみに私は頭がいいからこの国の科学部隊と諜報部隊、あとは司令室のお仕事を任されてるのよ!」
「すごっ!?何かすごい能力でもあるの?」
「私の能力は『超頭脳』!ただでさえ頭が良い私なのにさらに頭が良くなる能力がついたのよ!だから私はこの国で1番頭がいいのよ!」
「すごいなぁ……。能力があるとはいえ、そこまで頼られるのはメタリアさんの努力の証だよ。」
「なんか照れるのよ!あ、あと私のことは『メタルン』って呼んでくれてもいいわ!」
「じゃあ、メタルンさん、これからよろしくお願いします。」
「タメ語でいいのよ!あ、お城が見えたよ!」
立派な城塞が見えた。マルタ王国の全ての重要機能が詰まったマルタ城である。
「すごい……。なんて立派なんだ。」
彼らは門を開け、中に入ったのち、王の間まで歩いていった。
5分くらい歩いて、大きな広間が現れた。
「あ!お父さん!」
メタリアが大柄で鋭い目つきをし、立派な髭を蓄えた男性の元へ駆け寄る。
「メタリア。戻ってきたか。あ、君がドグくんか。はじめまして。私はこの国の王である『キョウ・フレイン』だ。よろしく。
「よろしくお願いします!僕はドグです!勉強が好きです!あとは、あとは……」
「はっはっは。色んな学者から君のことは聞いているからそんなに焦って自己紹介せんでもよいぞ。今日は君に頼みたいことがあって呼んだのだ。」
「頼みたいこととは…?」
「この国の科学部隊で『オーバーパワーを使えない人間でも使えるようになるアイテム』を作って欲しいのだ。」
「能力が使えない人がいるんですか?」
「……ああ。私の息子は今9歳だが能力を使うことができない。だから能力を使わなくても良いような安全な所に住ませているんだ。平和になったら息子に外の世界を見せてやりたい。そのために君の力も借りようと考えたんだ。あとは、一部の人間にのみ許された複数のオーバーパワーの保有も実現したい。協力してくれるかな?」
ドグはキョウ王の息子に親近感を覚えた。彼も隔離されて過ごした過去がある。ぜひとも役に立ってあげたい。加えて、複数の能力の保有は自分自身の『猛毒』の抑制にも使えるかもしれない。それに、自分の頭脳がどれだけ国で通用するのかも確かめたい。彼は決意した。
「ひゃいっ!ん、んん、はいっ!分かりました!がんばります!」
久しぶりに声を出したため、声が裏返ってしまった。恥ずかしさで顔が赤くなるも、キョウ王は軽く笑い飛ばす。
「はっはっは。良い返事だ。これから科学部隊でよろしく頼むぞ。」
こうして、ドグの科学部隊での生活が始まった。彼はインスタントオーバーパワーを含めて様々な道具を作り上げた。この国を維持するために欠かせない様々な道具を。自分のスーツもメタリアとの共同開発によってどんどんアップグレードしていった。メタリアのロボ好きの趣味が少々多めにはなったが。そして、科学部隊に入って彼が23歳の時、それはついに完成した。
「できた……!名付けてインスタントオーバーパワーだ……!これがあればキョウ王の息子を救えるだけでなく、一部の人間しかできないようにオーバーパワーを複数使うことができるようになる……!世紀の大発明だ!」
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ドグはバゼルとルウに転がされながら、過去のことを思い出していた。インスタントオーバーパワーを作った時のことは今でも忘れられない。能力を抑えるスーツを一緒に作ってくれたメタリアのことも同時に思い出す。すると、向こうから細身の女性が歩いてきた。
「……あっ!メタリアさん!」
「あ!ドグ!なにもうスーツ丸くしちゃったの!?……てか、ルウあんたなんでこの辺うろついてんのよ!」
「ぐ、いいだろ、インスタントだけど能力使えるっちゃ使えるし。姉ちゃんこそ何してんだそこで。」
「父さんに頼まれてあんたの検査しに来たのよ!変な能力が発現してるかもしれないって言われたからね。だからあんたの部屋いこうとしてたのー。」
「変な能力?」
「………確かに、ルウと戦う時変だった。………呼びかけ無しで火力出るし、……昨日の夜も効果が切れたインスタントの能力使えてたし。」
「ほらやっぱあんたクロよクロ!早く医務室で能力検査に必要な血液とかその他諸々採取してきなさい!」
「……まぁ、いいけど。」
「ルウくん、ここまで運んでくれてありがとう。検査結果は私にも見せてくださいよ。楽しみだ。」
球体の中からへへっ、へへっという笑い声が聞こえる。バゼルがめんどくさそうに球体を転がしていった。
「じゃ、私は司令室に用事あるからここまでね。医務室くらい自分で行きなさいよ。」
「…はーい。」
ルウは考える。戦っている時は妙に体が軽かった。まるで今までずっと能力を使ってきた人間かのように戦術のアイデアが次々と浮かんできていた。しかし、バゼルとの特訓のあとすぐに戦ったため、身体が思うように動かせてはいなかった。思えば昨日の夜もだ。なぜ効果が切れたインスタントオーバーパワーの『水流』が使えたのだろうか。マツ先生の能力も使えていた。なぜか呼びかけで発動したが。やはり周囲や自分が気づいていないだけで謎の能力が自分には備わっているのだろうか。もしくは、知らないうちに第三者から与えられたのか……。そんなわけはないか。
「なぁ、俺って一体なんなんだろうな。」
ルウは自問自答する。あれこれ考えているうちに医務室に着いた。すると、エレナが待っていた。ルウを見るなり微笑みを浮かべる。相変わらず綺麗だ。
「あ、ルウくんだ。バゼルさんとの特訓お疲れ様。話は聞いてるよ。能力検査のための血液採取やあれやこれやだってね。メル先生は戦争関係でいないけど任せて!」
「ありがとうエレナさん。ここ、座らせてもらうね。」
「はーい!あ、そこら辺のお菓子食べといてね、ちょっとでも体力つけてからじゃないと血液採取で倒れちゃうかもだからね。」
「ありがとう。ではいただきまふ。」
「あーっ!また半分食べてる!でも元気でいいね!食べなさい食べなさい!」
彼女が準備をしている間、ルウはテーブルのクッキーを頬張る。そういえば肝心なことをルウはまだ知らないことに気づく。バゼルには聞いたがよく分からないと言われた。エレナさんなら知ってるかも。ルウは『結晶戦争』のことについて聞くことにしてみた。
「準備おっけー!ささ、手首を拝見いたしますよ、どれどれ……。」
「なぁ、エレナさん。気分が乗らないなら教えてくれなくてもいいけど……。」
「ん?どしたー?」
「………俺は今とか今までの戦争のことよく知らないんだ。何を争ってるのか教えてくれないか?嫌なこととか、思い出さない範囲でいいから。」
兵士たちの怪我の治療をしてきたであろうエレナにルウは恐る恐る聞いてみる。彼女に嫌な思いをさせるのはなんとなく嫌だ。とにかく嫌われたくない、そんな事を思っていた。
「……分かった。ルウくんは最近戦争のこと知ったって聞いてる。完璧には説明できないけど、私が分かることを教えてあげるね。」
エレナの口から、『結晶戦争』について語られる。
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