現在のそれ

「第三次大戦」を巻き起こしたJF党は雲散霧消し、現在ではドラマの題材と紙の上だけの存在として生き残っていた。


 漫画や小説、そして、教科書。


 もちろん街の歴史を記した書にも残ってはいるが、とりわけ重要なのは教科書だっただろう。

 子どもたちに学ばせるべき存在として存在するのが教科書であり、既にJF党は歴史の一部として刻み込まれていたのだ。


 以下、その文の一部を記載する(無論転載許可を得ている)。




※※※※※※

 JF党は自分たちが唱える政策が絶対に正しいと思い、この町の中でもその政策にそぐわぬ存在を排除しようとした。

 彼女たちはまずこの町の中で低所得者層に当たる層への支持を取り付けるべくそれらの層に対しての賃金優遇政策を打ち出し、多くの支持を得た。


 だが支持を得て第一党となったJF党は支持者たちへ向けた政策をなかった事にし、次々と自分たちの考える政策を実行し始めた。

 それらの政策は「第二次大戦」と呼ばれるこの町を創設するためのそれに必要であった政策を否定するものであり、グラフ1(レイプ犯の数を表したグラフ、略)の結果を全く評価していない政策であった。女性だけの町が作られたのは女性たちの安全を守るためであり、性犯罪はその最も大きな問題であった。

 婦婦と言う言葉があるように女性同士の結婚・恋愛はこの町において悪い事ではない。だがそれは女性同士お互いを好き合うと言う感情を抱くと言う事であり、この点からしてJF党の政策は現実を無視したそれであった。


 またさらにこの町の外では男女の恋愛、男子同士の恋愛が存在するように恋愛の形態は自由である。

 無論外の世界のオトコたちは女性を物にせんと目を輝かせているのは事実であるし、そのオトコたちを釣る事を目的とするような派手派手しく人の目を引くそれが良くない事はよくご存じのはずだろう。だが自分勝手かもしれないが、よその女性がそのような格好をしていようがことさらにとがめる必要はない。それはそういうリスクがある事を承知でやっているからであり、同じ人間である我々が干渉する事ではない。

 私たち女性だけの町の住民は外の世界の人間と同じ人間であり、格差はない。平等なのだ。

 JF党の政策は自分たちが外の世界の人間より優れていると言う思い込みに満ちたそれであり、その事を受け入れられないと言うわがままによりあのような事件を起こしたのである。

※※※※※※




 中学生相応に言葉はやや噛み砕かれているが、それでもJF党に対する極めて辛辣な評価が連ねられている。

 マニフェストを唱えながらその政策の実行を反故にしたのは単純に悪質だし、それどころかJF党壊滅後に本部から入手できたらしい資料によればいわゆるおとり広告であり実際にやる気などびた一文なかったとも言う。

 だいたい行政とか政治とかが何を決めるかと言えば、いかにたくさん金を集め、いかに正しく振り分けるか。その二点である。JF党の政策は後者にばかり視点が行き、前者の視点が全然なかった。

 平たく言えば、理想論の塊だった。そしてそれは良く言えば創始者たちが忘れた世界征服とでも言うべき遠大な志であり、全ての理想の先の世界だった。だがそれが叶わぬと見たからこそ女性だけの町を作ったのであり、外の世界の潮流があまりにも悪すぎた。


「私は正義のため、子どものため、世の中のため!何よりも彼自身のため!これは、これは我々全てのためであり、人類のためなのです!」


 法廷ですらそんな事を叫び回った存在が一挙に代表格となり、世間的に「第一次大戦」ではなく「犯人名事件」と呼ばれている事からしても、再び同じ流れを持つ存在が表に出るには相当な時間がかかるだろう。いや、二十年以上経ってなおこんな事件を起こしてしまった以上、潮流はもはや止まらないのかもしれない。



「精神階層社会」



 そう現代を規定する学者もいる。

 あらゆる存在を受け入れられる「心の広い」存在が幸福を、それも精神的なそれではなく物質的な財貨を手に入れられるケースが多いと言うデータから、そういう用語が生まれたらしい。

 女性だけの町の人間は例外なく外の世界のそれ、取り分けゲームやアニメなどを嫌うだろうからその意味で階層は低いだろうとか言われる事があるが、個人的にはそうは感じない。


 彼女たちは、自分たちの生活に満足している。決して必要以上を求めようとせず、文字通り安定した生活を楽しんでいる。

 幾たびも取材を続け上は町長及び精神治安管理社の幹部から下はレストランのウェイトレスまで声を集めて来たが、生活に不満を感じる住民の数は少ない。

 たまにいた場合、民権党と言うどちらかというと温和で内向的な政党が政権を取っているのが気に入らないと言う党派性としか思えない不満の持ち主が三分の一近くおり、残る半数は高所得者層になれない・人間関係が厄介・とか言う外の世界でもありふれた悩みで、残る六分の一が町が狭く息が詰まるとか外の世界を知りたいとか言う物だった。それもまた、ある意味外の世界の住民と変わらない悩みだ。私だって…とか言うのは横に置いておくとして、いずれにしても彼女らの大半はその精神階層とか言う軸で行けばかなりの上流階級であると言える事になるだろう。そしてJF党の党員は、おそらく下層階級であっただろう。


 かつての女性だけの町の創始者たちと同じく。

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2024年12月25日 19:00
2024年12月26日 19:00
2024年12月27日 19:00

「女性だけの町」の外側から @wizard-T

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