理想と現実と
JF(ジャスティス・フェミニズム)党の思想は、女性だけの町の人間からしてみればかなり過激なそれだった。
だが、外の世界の人間からすると「ああ、やっぱりな」だった。
男女平等とかではなく、徹底的な女性優位主義。
と言うより、自分が気に入らない存在を全て排除する事を望む排他的支配体制の確立—————。
いやそこまで過激だった人間はそんなに多くなかったはずだし、あるいは自分が気に入らない存在をほんのちょっと懲らしめてやりたいだけとか言うレベルだった存在もいたはずだ。
その人間たちが集まって組織され、「外の世界」に対してリアクションを起こしたのが「第一次大戦」である。その戦いは見た所ゆっくりながら順調に進み、彼女らの望む世界が近付いていたはずだった。
だがそこで漫画家襲撃事件が発生し、世の中の中立勢力は一挙に傾いた事は周知の事実だ。
自分たちの望む世界を遠ざけた戦犯を正義のために殺そうとした彼女の存在は流れを一挙にせき止めてしまい、支持者の中で中核層に遠い存在が次々と離反するか沈黙してしまい、さらに日和見層が彼女たちに殺人テロ組織と言うイメージを持ち出してしまったせいで味方をしなくなり、戦争は一気に逆転、敗北に至ったのである。
その中で敗残兵と言うか今までのやり方に利あらずと見た存在が作ったのが女性だけの町であるが、その元敗残兵が女性だけの町を作るのに集中した結果彼女たちに抑えつけられていた存在が蘇った。
そう、反動の様に過激化したのが外の世界の創作と、同時に第一次大戦終盤の苦戦や敗戦をきっかけにおとなしくしていた人間たちの事だ。
そして前者が後者の感情をさらに逆なでし、より一層過激化した。過激化したゆえに危険思想の烙印を押され、どんどん肩身が狭くなった。
実際、第一次大戦を起こした存在の残党と見なされた女性が職場から危険視されて左遷されたり退職を勧められたりした事に対しての訴訟問題が幾度か発生し、原告は勝ったり負けたりした。
その勝敗の分かれ目はほぼ他者に思想を強制したかどうかであり、その結果テロ事件を起こせば第一次大戦の二の舞を演じたと考えた彼女たちはアングラ化し、より一層過激化した上に秘かに活動を進めていた。
現代の女性だけの町だって外の世界のいかにも萌えキャラめいた漫画や同人誌などを買いそのイラストを流用して暴力行為を行うアングラ施設に卸したり全年齢対象の代物を18歳未満閲覧お断りのそれとして売り出したり、挙句の果てに使うだけ使い捨てると焼却炉に捨てるとか言う相当な事をやっているが、それらは完全なビジネスだった。もちろん勝手に著作権物を模写して売り出すのは厳密に言えば著作権法違反だが、それらの著作権者や企業なども半ば目をつぶっていると言うのが事実だ。
ガス抜きとしてそれらのキャラをいけにえに捧げているとか言ういささか口さがない話も存在するが、だいたい間違ってはいないだろう。女性だけの町の住人の性を完全に否定したやり方は人間と言うより生物そのものを凌駕したそれであり、極めて危ないバランスの上に成り立っているであろう前代未聞の国家だった。また単純にそうやってやってくれている方が外部にそれ以上の迷惑もかけずにいてくれるだろうと言う大人の都合もあり、一部の社内では「税金」とか「上納金」とか言われていると言う話もある。一部ではヤクザのみかじめ料ではないかとも言われているが、そんな事を気にするような人間はいないらしい。正直、漫画本の三冊や四冊などで済むなら安いからだ。
だが、これらの政策をJF党は全面否定した。
生理を解消するための警察組織の解体をも目論見、内外問わず徹底的に「自分たちにとって害悪になる存在」を排除して行く先兵になるようにした。もちろんアングラ施設は廃止、「エロ本」たちも完全廃棄及び所持するだけで逮捕できるようにしようとした。
そして多くの住民をその事を発進する情報担当として精神治安管理社の職員として雇わせ、世界中に自分たちの澄み切った世界を振りまこうとしたのだ。
なんとも性質が悪い事に、表向きには第三次産業と言う名の貧民救済法案を盾に政権を取りに行きながら、過半数にこそ届かないが第一党となると一挙にそれらの本性を現したのだ。過半数ですらないのにやったのかよと思えるかもしれないが、どうも女性党を当てにしていたらしい。
民権党が慎重派、女性党が拡大派と言うのが女性だけの町におけるわかりやすい立ち位置であり、女性党は自分たちの味方になってくれると踏んだJF党党首兼町長はこれらの政策を次々と発表した。
しかし民権党員はおろか女性党員も次々と反対票を投じ、それらの法案は一つも通らなかった。幾たびも立法しては反対多数で否決されるのがその時期の議会の恒例となっており、当然予算など他の法案の審議は滞った。
その結果第一党であるはずのJF党が牛歩戦術を行い法案を強引に通そうとする事態が勃発し、JF党は支持を失った。そしてその事にも気づかぬまま強引に解散総選挙を行い、JF党は第一党はおろか第二党の地位すら失い、そしてテロに走ってしまったのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます