第10話 背負う罪の十字架


 私は、彼の事が好きだった。

 ずっとずっと、好きだった。

 一緒の高校に行こうとしていた時は、凄く嬉しかった。

 でも、彼は行けなかった。

 でも、でも…私は彼の隣に住んでいる。

 チャンスはある…と思っていた。

 会えない日が半年も続いた。でも、でも

 そして、本当に偶然に、帰り道の彼に会えた。

 そして、知ってしまった。

 彼の心が…別の人のところに行ってしまった事を…

 私は、その相手を探した。

 それはVTuberという架空の存在だった。

 誰かが綺麗な外見を演じるだけのファンタジーな存在に彼の心は…。


 私は、そのVTuberを憎んだ。


 私は、父親が投資の勉強として、決まった額のお金が動かせる投資の通帳を持っていた。

 投資会社に預けて増やすもよし、自分で増やすもよし。

 私は、そのお金を増やした。

 最近の投資の景気の良さのお陰で、元の数十倍にもなった。


 だから、私は…ネットで色々と自分を隠せるようにして、情報を売ってくれる人達を探した。

 サンダーボルトというハッカーで、前金で…そのVTuberの住所を買った。

 でも、ウソだった。

 偽物だった。


 私は騙された…と。


 だが、父親の職場へ行くと…父親が経営する会社が…そのVTuberを管理運営する事務所とタイアップする話が進んでいた。

 私は、それに興味がある…として隣に付く。


 そして、見つけた。

 最初は、私はVTuberのファンではない、友達の話で聞いている風に接触した。

 彼女もガードが甘かった。

 大きな存在でないという自覚のお陰で、私は…彼女の懐に入る事が出来た。

 だって、私は大口のスポンサー企業を経営する父親の娘だから。

 無下にできなったから。


 何度か接触して、彼女の住所を手に入れた。

 そして、サンダーボルトが関わったVTuberの情報漏洩によって、住所を何度も変えていた事も…知った。


 そして、そして…セキュリティがしっかりしたマンションに彼女が入り、当面の間…マネージャーのお守りと共に事務所へ行く事も知った。


 私は、探した。

 私の復讐を代行してくれる最高の人を…そして、見つけた。

 彼女のメンバーシップもブロックされて、SNSもブロックされて、彼女の恨みをSNSで吐き続けている彼に…。

 そして、送った。


 でも、それが、それが…

 私は、ヒドい女だ。

 ヒドい人間だ。

 私は一番、大好きだった彼を地獄に落としたのだ。

 一生、許されない。いえ、許して欲しくない。

 でも、それを言えずに…



 ◇◇◇◇◇


 正之が夜中に家に帰ってくると、リビングに正之の両親とオジさんの孝一、かな恵とその両親がいた。

 凄く重い空気がまとわりつき、沈黙している。


 正之が

「どうしたの? かな恵ちゃんも…なんで?」


 孝一が鋭い顔で

「正之、話がある」


 孝一が全てを話した。

 正之が…事件を起こす結果となった住所を送ったのは…かな恵だった。


 かな恵が無言で涙を零していた。


 かな恵の父親が正之の前に土下座して

「申し訳ありませんでした!!!!!!!!」


 かな恵の隣にいるかな恵の母親が号泣していた。


 正之が、かな恵の隣に来て

「君だったんだ」


 かな恵が震えて声が出ない。

 何かを言うべきなのだろう。でも、怖くて…


 正之は

「いいよ。君が悪い訳じゃあない」


 孝一が鋭く

「正之…どういう事だ?」


 正之が

「彼女が原因じゃない。彼女は、ただ…データをくれただけで、これは…ボクの罪なんだ。だから、彼女のセイじゃあない」


 かな恵が

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」


 正之が悲しい笑みで

「ボクの罪は、ボクだけのモノなんだ。君の罪じゃあない」


 かな恵が正之の手を握り

「アナタの罪は、私の罪です。だから、だから…」


 この日、一つの罪ともう一つの罪が二人に背負わされた。

 少年と少女には、重すぎる罪。

 少年は、大切な人を傷つけた罪

 少女は、大切な人に罪を犯させた罪


 少年と少女は、共に自分達の罪の十字架を背負い続けると誓った。

 この若い二人の罪の十字架を、裁く事ができる程、孝一は偉くない。


 ◇◇◇◇◇


 次の日、正之がバイトに向かおうとする時間に、かな恵も一緒に学校へ向かう。

 二人が手を繋いで歩み道、それは…重く深く何処までも険しいだろう。

 だが、二人してそれを歩み続けると誓った。

 

 それを孝一は、見守ろうと…。



 ◇◇◇◇◇


 孝一のスマホにDDDから


 DDD

”やあ、元気かい?”


 孝一が

”ボチボチだ”


 DDD

”早速、君に頼みたい事がある。ネットで”


 孝一は、今日もネットにアクセスする。

 正之とかな恵のような悲劇を防ぐ為に

「AWS起動。各アカウントのパスワードと認証を開始」



 今日も、何処かでユニコーンという悪夢が誕生しているかも…しれない…


 VTuberのユニコーンは地獄へ落ちるバットエンド物語「完」

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VTuberのユニコーンは地獄へ落ちるバットエンド物語 赤地 鎌 @akatikama

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