相模の獅子VS砂漠の狐

船越麻央

北条氏康VSロンメル将軍

「おい、あれは何だ⁉」

「どうした? ん、あれは……キュ、キューベルワーゲンだっ!」

「まさか! ロ、ロンメル! ロンメルが来たぞ!」

「殿にお伝えしろ! 急げ!」


「殿、ロンメルめが要塞前に姿を見せたようですな」

「三国峠を越えたばかりと聞いておったが。さすが『砂漠の狐』だ」

 小田原要塞の主、北条氏康は苦笑を浮かべ呆れたように言う。

「おそらく本隊の機甲師団は置いてきぼりだろう。慌てることはない。ゆるりと防御を固めろ」

「ははっ、わが小田原要塞は難攻不落。『砂漠の狐』め尻尾を巻いて逃げ出すことでしょう」

「油断は禁物だぞ。あのオンナ何をするか分からん」

 北条氏康は自分に言い聞かせているようだった。


「ふーんあれが有名な小田原要塞なの。さすがに大きいわね。ちょっと、もう少し前で見たいんだけど」

「か、閣下! ム、ムチャです! いくら何でも近すぎます!」

「大丈夫よ。それより機甲師団はまだ? 遅いんじゃないの?」

「閣下! ど、どこに行かれるのですか! ア、アブナイです! えー、機甲師団はですね……」

 金髪碧眼のオンナ将軍は相変わらずの神出鬼没ぶりであった。美しい金髪をなびかせてキューベルワーゲンを駆使する。今は関東の小田原要塞の目の前にいた。

「えーと何だっけ。そうそう『相模の獅子』ね。要塞にこもって出てこないつもりかしら。フン、北条氏康……男のくせに」

 ロンメルは平然と言い放った。


 小田原要塞。関東の覇者北条氏の拠点である。この難攻不落の無敵要塞を本拠地として北条早雲は関東制覇に乗り出した。そして現在の当主は三代目、不敗の名将北条氏康。『相模の獅子』と恐れられている。

 一方の『砂漠の狐』ロンメル将軍。彼女は最強ドイツ機甲師団を引き連れて三国峠を越え関東に乱入して来た。

 目指すは小田原要塞。ティーガーやパンターといった自慢の優秀な戦車が続々と小田原を目指して進む。ロンメル指揮下のドイツ機甲師団は当時最強と恐れられていた。目標は難攻不落を誇る小田原要塞攻略。不敗の名将『相模の獅子』に金髪碧眼のオンナ将軍『砂漠の狐』が挑む。


 最強ドイツ機甲師団VS難攻不落小田原要塞。戦いの幕が上がった。


「敵の機甲師団が到着した模様です。ティーガー、パンターを主力としているようですな。明日にでも攻撃を仕掛けて来るかもしれません」

「いや、そう簡単には攻めて来ないだろうよ。さてどう出てくるかな」


「閣下、全軍攻撃準備完了致しました。ご命令を」

「あらそう。慌てなくても大丈夫よ。まずは自走砲で砲撃して。ただしあいさつ程度でいいわ。どうせとどかないし」


 ドイツ機甲師団の攻撃が始まった。しかし小田原要塞はビクともしない。自走砲の砲撃程度では堅牢な外壁に跳ね返されるだけだ。戦車隊を投入しようにも三重の対戦車壕が待ち構えている。南側は海であり残念ながらロンメルは海軍力を持っていなかった。ろくな戦闘も行われないまま、ほぼ一か月が経過した。


「ハハハ、さすがのロンメルも我が小田原要塞には手も足も出ないようですな」

「……うーむ、おかしい。いったいあの『砂漠の狐』め何を考えているのか。このまま引き下がるとは思えんのだが……」

 北条氏康はじっと考え込んでいた。

 

 その頃。ロンメルはすこぶる上機嫌であった。

「さーて、いよいよね。アレの準備ができたし。これからが本番なんだから!」

「……閣下……閣下はこれをお待ちになっていたのですね」

「そうよ。新兵器で『相模の獅子』にプレゼントを贈りましょう!」


 ついにロンメルの新兵器が姿を現した。


 ハイパー列車砲『重グスタフ』がベールを脱いだのだ。その80センチ砲が火を噴いたのである。巨体から発射される砲弾の最大射程距離40キロ。全長約47メートル、全高約12メートル。砲操作に約1400人、支援要員4000人以上。世界最大のハイパー列車砲『重グスタフ』の登場である。


 ロンメルは今回の関東遠征にこの新兵器を持ち込んだのだ。小田原要塞を包囲中に周到に準備を進めてきた。要塞側からは無為無策に見えていたのだが……。さすがの北条氏康もロンメルが『重グスタフ』を投入してくることは想定外であった。


 ハイパー列車砲の砲撃が開始された。ただしその巨大さゆえ発射できるのは1時間に3~4発、1日最大14発が限度であった。だがその80センチ砲の破壊力はすさまじく小田原要塞は恐慌をきたした。


「おのれ! いったい、どっから撃ってきてるんだ! 被害状況を報告しろ!」

「落ち着け。これはおそらくロンメルの新兵器だ。あの金髪オンナとんでもないシロモノを持ち込んでくれたようだ」

 北条氏康は苦虫を食い潰したような顔であった。しかしさすがは『相模の獅子』、あの新兵器の弱点は見抜いていたのである。


「そろそろ戦車隊の出番ね。いったん『重グスタフ』の砲撃を休止してティーガー、パンターを出撃させて。ただし対戦車壕までよ。後は戦車砲と装甲歩兵で攻撃すること。いいわね」

「はっ! か、かしこまりました!」


 最強ドイツ機甲師団が難攻不落小田原要塞に殺到した。


 満を持してティーガー、パンター戦車隊と装甲歩兵部隊が要塞に突進する。要塞側からも使用可能な対戦車砲で応戦。初めて戦闘らしい戦闘になった。

 しかし攻撃側は無理をせず頃合いを見て後退する。そして再び『重グスタフ』の巨砲が炸裂。恐るべきロンメルの戦術であった。


 だが残念ながら小田原要塞は陥落しなかった。さすがは不敗の名将『相模の獅子』北条氏康、ドイツ機甲師団の猛攻に耐え抜いたのである。

 なぜならばハイパー列車砲『重グスタフ』が限界を迎えてしまったのだ。結局50発ほど砲弾を発射したところで砲身のメンテナンスが追い付かなくなったのである。


「そろそろ潮時ね。『重グスタフ』は解体するしかないわね。戦車隊と装甲歩兵部隊で時間稼ぎをして。工兵隊には作業を急がせるわ」

「……閣下は……まさか……まさかあのハイパー列車砲を試したくて今回の小田原攻めを……」

「あら、バレちゃった? やっぱり新兵器は実戦で試すのが一番でしょ! アハハハ!」

 『砂漠の狐』ロンメルはあっけらかんと言い放った。彼女は本気で小田原要塞を攻略出来るとは考えていなかったのである。


「ロンメルめ、我が小田原要塞を実験台にしおって。しかしとんでもないオモチャを手に入れたものよのう」

 『相模の獅子』北条氏康は憮然として要塞外のロンメル軍を見ていた。


 こうしてロンメルの小田原要塞攻略作戦は終了した。『重グスタフ』は解体され運搬されていき、ドイツ機甲師団は悠然と撤退を開始した。

 北条軍はロンメルの策略を恐れ追撃することが出来なかった。


「さーて、次は北よ、北にいくわよ! 『北の独眼竜』とやら調子に乗っているらしいのよね~」


 金髪碧眼の美女、『砂漠の狐』ロンメル将軍。まったく懲りないオンナである。








 


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相模の獅子VS砂漠の狐 船越麻央 @funakoshimao

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