愚か者と愛と蝶と
服装ヨシ、髪型ヨシ、その他諸々ヨシ。大丈夫、初対面じゃないんだ。安心して死んでこい僕!ドアを開けると爽快な風が入り込む。あぁ、世界は色づくとこんなに美しいんだと感銘を受けて少し泣きそうになる。悲しさよりも嬉しさで泣く事が多いのは昔からの癖だった。待ち合わせの場所につき、緊張しないように手のひらに胸を3回書いて飲み込む。視界の端で何かが蠢いていると思い目を向けると美しい模様をしたサトキマダラヒカゲだった。こんなにも可愛いとさすがに興奮するな。
「航太くん、お待たせ。待ったかな?」
可愛げな声がしてぱっと振り向く。桃兎さん…いや天使、天使が今ここに舞い降りている!巻き茶髪はもちろん可愛いのだがそれに合わせたトレンチコートがあざと可愛い!というかカラコン入れているのか?色味が少し変わっている気がするな。メイクも変えたのだろうか、ブラウンリップも似合っていて素敵だ!
「全然待ってない。大丈夫だよ」
こんなお決まりの台詞も今なら言える。なんなら手も差しのべて……
「じゃあいひょ…行こうか。」
無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理!緊張で噛んだ!死ね僕!桃兎さんに絶対変な目で見られてる!
「うん、いひょうね」
そんな心配も無用で、にこにこと朗らかな笑顔で笑っている。天使だ!わざと噛んだ桃兎さんも可愛くて頬が緩んでしまう。それからとりあえず喫茶店に入って、とりあえず飲めもしないブラックコーヒーとか頼んで、とりあえず当たり障りのない話をして、とりあえずお腹が痛いからトイレ行って、とりあえず─────────────あれ?
ふと気がついたら家だった。外が暗い。え、え?あの後は?僕は桃兎さんと何をした?喫茶店、コーヒー、桃兎さんの笑顔、笑顔、笑顔。そこから先が何も思い出せない。なにか、何をしたか、記憶が無い。思い出せない。お酒は飲んでないし、変な事もしてないし。証人、そう証人。今すぐ僕が桃兎さんと何をしたか証明する人が必要だ。ならば呼び出そう。
「カルイスさん、来てもらってもいいですか。」
「何か用か?主人」
どこからともなくふわっと現れる。本当に今までどこにいたんだ。
「あの、カルイスさんは一部始終見ていたんですよね?」
「おう」
「僕と桃兎さんがどうなっていたか、教えてください。」
「…あのな主人、これだけは言うとくで。あいつは人間なんかじゃない」
「………………は?」
「俺は見たで、もちろんな。くっきりはっきりしっかりむっつり見たで、洗脳されてる主人を。」
「くっ、詳しく聞かせてください。」
「お前さんコーヒー届いた後トイレ行ったやろ?そん時な、女が主人のコーヒーに変な粉入れとってん。飲んだ時の主人、とんでもなかったで。もうほんま、「僕は貴方にメロメロです〜」って顔しとった。その後ホテルも何も行かんかったけどな、あの女人間じゃないオーラしとるで。多分あれは化けてる、俺ら妖精とかはガワだけ変えられるんやけどな、たま〜におんねん。魔力がバカ強い妖精が。」
カルイスさんの説明が耳に入ってこない。桃兎さんが妖精?たしかにあの可愛さは妖精級だが。なぁ、僕の前であんなに笑っていたのはなんだったんだよ、あんなにおめかししてくれたのはなんだったんだよ、ていうか粉入れるならホテル行けよ僕の細身が勿体ないだろう!……いいや。
「明日話をつけてきます。」
梅雨、ダンボール箱の中に居たのはイヌでもネコでもペガサスでもなくカタツムリだった。 おニャンコぽんち @wooooooaini831
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