ネチョネチョグットリ
「わあっ、」
驚いて段差で躓く。誰だ、今の声。
「おう、俺や俺。カタツムリのヴィン君やで」
おちゃらけた声でヴィン君が喋りかける。
「とりあえず風呂はいってき。話はそれからや」
「…えっ?」
___________
「俺の飯はろくに用意せんで自分だけええもん食うなんて…あんさん、いい性格しておりますなぁ?」
ふぅ、と煙草をふかすような仕草をしてヴィン君…もといネゴエルス・カルイスさんは僕を正座させたまま人間用の飯を食している。
カタツムリの姿からはとても連想できないような渋い声が僕の脳内を這う
「その節は…本当に申し訳ありませんでした」
どうやらカルイスさんは僕の知っているカタツムリでは無いらしい。隠していた秘蔵のエロ本を読みながら好みのページに付箋を付けている。何故バレた、この生物マジで何者なんだよ。
「そいで?誰と、何処で、ナニをしてきたんや」
ナニはしてません。
「はっ、せやなぁ。俺の主人にそんなフェロモン一ミリも感じひんわ。」
がーっはっは、と大袈裟に笑って僕のズタボロメンタルを蹴飛ばすカルイスさん。あぁ、こういうタイプ本当に苦手だ。身内ノリで死ぬほど笑うんだよな、酒くせぇし白髭も中途半端に生えてて女性の尻をなんの悪びれもせずに撫でるタイプ。嫌いだ、死んで詫びろ。なんてTwitterにも呟けないから心に留めてる訳だけど。
「おい、聞いとんのか」
ふと目を上げると短髪刈り上げで日焼けした肉体美が綺麗なツラのいい同年代の人間がいた。驚いて少し漏らしたがそれどころでは無い。
「ソ、ソース顔…!」
「なぁお前さん、すぐ妄想するのやめーや。何考えてんのかちっとも分からんくなる」
「えぇっと…もしかしてヴィ、カルイスさん?」
おう、と目の前のボディービルダーはキラキラ笑う。
「主人が変な妄想しとったからそれに似つかわしくない風貌に変身してみた。どう?似合っとる?」
「ハイ、とっても似合ってます。」
ゲロ吐きそうだ。こういうスポーツできるチャラチャラした人間が学校で1番モテるんだよな、特に野球部とサッカー部。
「なぁ、ソース顔ってなんや」
あと同じ運動部なのに格差が生まれるのが酷すぎる、もっとテニス部やらにいいイメージ持たせてくれよ。なんだよヤリサーって
「な、ソース顔ってどういう意味なん」
あとチャラいのに無駄に頭いいのも嫌いだ。授業中バカでかい声で喋ってる癖に席次にはちゃっかり乗ってるヤツがいちばん嫌いだ。神様が与えてくるレベルが違いすぎる。
「あ、これか。塩顔とかあるやつ」
あぁ、あと意見出さないくせに勝手に決められた〜とか何とか言ってくる人間も大嫌いだ。何もかもが自分の思い通りに行くと思うな死ね!
「主人どこにも当てはまらんやんけ。モブ顔ちゃう?」
「あーもう、うるさい!何なんですかあなた!勝手に僕のスマホいじって、フリック入力もままならないのにパスワードを解くな!」
「はっ、よく言うわ。そっちこそバカみたいな被害妄想に浸かってる癖にぃ〜」
ピコン
途端に僕のスマホが鳴る。通知?なんの?LINE?誰から?
「@#→♡×∪&……とっ、とあさん?!」
「『飯橋航太様、先日は楽しい飲み会をありがとうございました。貴之様から連絡先をいただき、思い切ってメールを送らせていただきました。今度の土曜日、お時間があれば二人で飲みに行きませんか?
敬具』なんや、やけに堅苦しい姉ちゃんやな」
「黙ってヴィン君。えー、えっと、土曜日、土曜日?土曜日は空いてるし…こ、こういう時ってどう返すのが正解?!」
「……」
「喋ってヴィン君!」
「……」
「喋ってくださいカルイスさん!」
「こういう時はな、相手に合わせるのが正解や。相手が敬語なら自分も敬語にしたらええ。それが駆け引きっちゅうことや。」
「ありがとう、じゃなくてありがとうございます!」
『拝啓 横田桃兎様
承知いたしました。』
やばい、ドキドキの高鳴りが止まらない。女の子にメール送るなんて初めてだ。カルイスさんの指示で敬語にしたけど、ドン引きされてないだろうか。それにしても土曜日、土曜日!あぁ、土曜日か!なんていい響きなんだ、今すぐ政府に言って土曜日を横田桃兎デーにしてしまおう!生まれてきてよかった、愛してる世界!
「…」
「な、なんだよ。」
「いや、何も。なぁ、それ俺着いてってええか?」
「……」
「……沈黙は肯定ってことやんな?あんがと〜」
クソッ、目線で訴えるのはこの人には通用しなかったのか。ならば他の作戦だ
「はぁ、いいですよ。その代わりマジで隠れてくださいね。話聞いてる限り変身できるっぽそうだし、適当に通行人に紛れといてください」
「おう、わかった」
あぁ、土曜日が待ち遠しすぎるぜ
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