第2話

尾行というのはバレるかもしれないというスリルがあるから楽しいのだろうか。


よく小学生の頃にムカつく担任教師を尾行して、バレないようにイタズラをしていた。今思えば尾行というのはスリルと目的があるから楽しいのだろう。


僕は真剣に悩んでいた。というのも今まさに僕が尾行(ストーカー)の最中であるからだつた。


尾行対象はもちろん愛と優。


下校中の二人は、おちょくり合いながらゆっくり歩いている。


「もうっ、優はいっつも私のことからかうんだから!」

「だって愛、からかいがいがあるんだもん。てへっ!」

「あんまり、てへって自分で言う人いないよ優」

「じゃあ私が最初ってことで! 最初って良くない!? なんかキラキラしてるよね!」


アホっぽさ丸出しである。しかしほんわかと心温まるのが彼女の良いところだろう。


ただ追いかけるのもつまらないな……


ふわりふわりと宙に浮き、四方八方で滑稽なポーズを取ってみる。


結果はただ虚しくなるだけだった。頭を振って何やってんだと我に帰る。ポージングに夢中で気づかなかったが、どうやら今日は寄り道をするようだ。


「久しぶりだね、あの神社に行くの」


優が儚さを感じさせる顔でそう呟いた。愛はこくりと頷くだけで返事はない。黙々と一際静寂に包まれる神社へ至る階段を登る。コツンコツンと乾いた足音が反響していた。


神社に着くと、まず目につくのはやはりあの御神木だった。立派な杉の木が微風に揺られ葉を靡かせる。


それを見つめていると、いつのまにか二人は賽銭箱の前でそれぞれお金を入れていた。


「ねえこのガラガラなる鈴の名前ってなんて言うんだろ」

「うーん、気になったこともなかったなぁ。シンプルに鈴! じゃないだろうし……」


ふと今まで気にならなかったものが気になることがある。今まさに彼女たちはそれのようだ。


「この鈴は本坪鈴って言うんだぜ」


飄々とした端麗な顔立ちのその男は、まるで微風に乗ったかのように現れた。


ひとつ遅れて愛と優も振り向き、声の主を確認する。


「うわっ、すっごいイケメンだよ愛。ここまでイケメンだとなんか気持ち悪いね」

「こらっ! 優はまたしれっと失礼なことを! ごめんなさい、えっと……」

「ははっ、気にしてないぞ。俺、繋、"神崎 繋"って言うんだ」


爽やかに笑ってそう神崎は言った。


「あーっ!」


その直後に優が何か思い出したかのように手のひらをパンっと叩いた。


「も、もしかして神崎繋ってこの前テレビに出てたあの……?」


その言葉を聞いて俺もピンと来た。


「そうだ、私も思い出した。たしか、霊感があるって噂だよね」

「んま、誰も信じてくれないけどな」


蔑むようにそう笑って神崎は愛と優から視線を外す。


「けど、お前は信じてくれるかな?」


神崎は確かに俺を見た。誰かと視線が合ったのは一年振りのことで、なぜか恐怖心を煽られる。


見透かされているような、そんな感じだ。


しかし、これが僕のターニングポイントと呼べる瞬間になるのだった。

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