死んでしまったけど君に好きと伝えたい。

@screamblood

第1話

よく死人に口無しと言うけれど、今思えば少し違った風に思うなぁ。生きているうちにもっともっと君と……話せばよかった。


もう遅い、遅すぎるけど、そう思うんだ。


死んでしまったあの日から、あの蛍月の夜から。僕は君を眺めることしか許されない。


……それでも僕は。僕は、君に好きと伝えたい。


***


時の流れは無慈悲だ。嫌でも時間は過ぎ、朝を迎えていく。どうやらそれは死んでも同じようで、僕を置いて時は過ぎていく。


高校ニ年生の僕は、同い年の幼馴染……いや同い年だった幼馴染"桜木 愛"が、高校三年生となって学校へ向かっているのを眺めていた。


「おっはよー、愛! 今日も愛ちゃんはかっわいいねぇ」

「ふふっ、ちょっとおじさんみたいだよ。優」

「がーん、おじさんって言われてちょっちショック……」


がびーんとしょんぼりした様子を見せるのは、愛の小学校からの友人である"竹一 優"ショートカットに褐色肌で見た目通りスポーツが得意な女の子だ。


ロングヘアーで、雪のような白い肌の愛とは対照的である。しかし相性は抜群そのもので、今なお仲良いのがその証拠である。


朝から元気なふたりを見るのが近頃の日課である。


横断歩道を渡る前、きちんと両側を覗き見る愛の横顔はどことなく儚さを感じさせる。


 ──愛は僕の最初で最後の想い人だった。


***


瞬く間に場面は学校へ。賑やかな教室は一年前となんら変わらない。


誰も僕の話も、僕を気にするそぶりもなくて、心地がよかった。


しかし思い知らされる。


愛が楽しそうに笑うそこに、僕は存在していないのだと。僕はあの世にも行けない半端者なのだと。


何を思い今存在しているのか。


そう考えてみるが生前から僕はなんら変わりなかった。今の僕となんら変わらない。


ただ、生きて生きて生きるだけ。死ぬために生きていた。


そして死んだ今、僕はなんのために"死に生きれ"ばよいのだろうか。


その答えは誰も教えてくれない。


そんななか、一つだけ世界は律儀に嫌というほど教えてくれることがある。お前は存在しないのだと、世界が世間が人間が言葉にせずとも僕を縛り付ける。


この先もずっとずっとこのまま死に生きていくのだと思っていた。


そう、あの青年と出会うまでは──

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る