実った恋は、偽だった

比嘉太市

EPISODE 1: 突然の出来事

僕は最近、人生のどん底に落ちた気がする。いや、常にどん底にいた。いわゆる「挫折」みたいな感じ。人間関係も上手くいかない、大好きなサッカーもまともにできない。おまけに大怪我をしたばっかだ。不幸続きで、1つでも幸が訪れればどれだけ喜べることか。それだけ今、神様は僕にいじわるだ。


どこでも見れる窓越しの空が世界一の晴天に見えるほど退屈な授業が過ぎた後、僕は屋上でいつも通り昼飯を口にする。明日は文化祭だっけ。うちの学校には男子が持つリボンを女子に受け取ってもらえたらカップルが成立し、カップル専用のイベント等に参加できると言う伝統的なアクティビティーがある。どうせ、俺にはろくなことないんだから。ぼっちはぼっちで、1人にしとけばいいのに。いちいち馬鹿にして広める必要あるかな。まぁ全部僕の体験談なんだけど。そんなことを考えながら、僕の唯一のリラックスできる時間が過ぎていった。5、6限目は文化祭の準備。皆んな劇やイベント、屋台などを準備するんだろうな。僕は校内ミスコンの照明係だ。照明とか機械が得意かって?そんなこと全然ない。ただ端の席でいつも同じ空を眺めていたせいで、係が勝手に決められてしまっていた。でも照明係は満更でもない。演出や順番を覚えるには面倒だけど、裏方だから少しくらい手抜いてもバレないし、休憩だってできる。他の人たちと比べると、楽な方だ。そんな係を担当し、文化祭当日を迎えた。


イベントはいよいよ最後の校内ミスコンに。出場者が一人一人ランウェイを歩く姿を、大きな照明を向け、追いかける。僕の仕事は終わった。いよいよ優勝者発表だ。「今年の校内ミスコン優勝者は、、、堀内結依さんです、おめでとうございます!」場内には大きな拍手と歓声が上がった。「2年連続おめでと〜!」そう、堀内結依は去年に続き、2回目の優勝らしい。すごいなと思った矢先、彼女が大人気モデルだったことを思い出した。グッシ、プラガ、ゼラにレイ・ヴィトン。17歳とは思えない人気があり、スケジュールが詰まった女性だ。それでよく学校なんかに通えるな、と思った。そう思えたのは、今この優勝が決まった瞬間、僕は彼女に一目惚れしたからだ。透明感があり雪のように白い肌、ぷるんっとした紅い唇、彼女以外では手に入らないであろう美しいスタイル、光に照らされ艶々しているショートの黒髪。人間関係上手くいってない僕が、人の魅力をこんなにも語れたのには、僕もビックリした。まぁ、そんなこと考えたところで僕に幸が訪れる訳がないんだから。


文化祭が終わり、皆んなクラスに戻った。先生からの連絡事項と、ホームルームをした後、ガラガラと椅子を引く音が教室内に響き、帰って行く。僕も帰るか、そう思った時、肩を柔らかくツンツンされた。振り向くとそこにはかつてさっきまで僕が語っていた女性、堀内さんがいた。驚いたのち、僕は困った反応を見せた。そりゃそうだ。校内一の美女に肩をツンツンされる、人生のどれくらいの運を使ったんだろうか。でもまだ疑問なのは、なぜ僕は堀内さんに肩をツンツンされたのか。いつも教室の隅にいる僕に何か用でも?いやそんなことないはずだ。僕と堀内さんに接点はない。喋ったことすらなかった。「屋上で待ってるから、できれば早く来て」どう言うことだ?もしかして、知らぬ間に僕は堀内さんに何か悪いことをした?照明の動きが悪かったとか、、、ありえる。大人気モデルだもの。そのくらいこだわって当然だ。でもわざわざ屋上に行ってまで話すことか?僕は疑問に疑問を積み重ね、屋上へ向かった。ドアを開けると、いつも僕が窓越しに見ている方向を見て待っている堀内さんがいた。「遅くなってごめん」と伝えたつもりだが、彼女は何かを今すぐにでも言いたそうな顔をして僕が言った言葉を聞き逃したようだ。「あの、私と付き合ってくれない?い、1ヶ月とかでいいから、ね?お願い」僕の頭にはハテナしか思い浮かばなかった。どう言うことだ?もしかして僕、今一目惚れした相手に告白されてる?「最近ラブレターとかプレゼントとか無意味な男子のアピールとか、多すぎて正直もう限界なの。だから土橋くんが私の彼氏のフリをして欲しいの。そしたら私に集る男子も減るだろうし、、、」さっき告白された時は、理解不能だったが、今はなぜかちゃんと理解できている。僕、土橋恭平(どばし きょうへい)は校内一の美女、大人気モデルの

堀内結依(ほりうち ゆい)に「偽」の恋を持ちかけられた。正直に言えば、僕は堀内さんのことが好きだ。でもこの一言を聞いて、僕が堀内さんを思った時間は頭から消えていった。「1番下心無さそうなの、話したことある人で土橋くんしかいなかったの。だから、お願いできないかな?」どうやら、校内一の美女にも僕が「ぼっち」であることが認められたらしい。その上、「下心がない」と言う珍しい男子みたいになっている。僕と堀内さんは一度話したことがあったらしい。が、僕は覚えていなかった。当然、校内一の美女のお願いなんて、断りきれるわけがない。そんなこんなで、今日から僕たちの「偽」な恋が始まった。

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