笑8

 

 思いの外、大げさな音をたてて校門の扉が開き切ると、金、銀、赤、青、緑、紫、橙の鮮やかな髪色をした旧生徒会の7名が奥に立ち並んでいた。

 今春、彼らは既に卒業しているが、腕には生徒会と書かれた白い腕章が有り、そして詰襟に八重桜形の白い生徒会記章が付いた制服を着用している。生徒会を滞りなく引継ぎ終える迄は着ておかなければならないようだが、全員、上着のボタンが全て無く、中に着たシャツが見えていた。多分、卒業式で下級生達に奪われたのだろう。

 

 金色の髪の旧生徒会長がこちらへ歩き出した。近づくと髪は派手な金色だが、瞳はファウストより薄い水色だと判別出来た。ファウストと旧生徒会長は、校門を挟んで黙って見つめ合った。

 二人の沈黙を破ったのはラビネだ。

「ファウスト、緊急救急班が着いたよ。」

 いつの間にか白衣の男性医師3名と看護師の女性2名が、担架を携えてラビネの横で待機していた。二人は彼らを待っていたのだ。

 

「救急班が来るなんて、もしかして彼は生粋の平民かしら。」

「まさか、それはないよ。『不実の世代』の血縁者じゃないか?」

 イコリスと俺はささやき合う。

 

 『不実の世代』とは二代前の王オウラ4世を中心とした、同年代の貴族男性達のことだ。

 彼らは十代の後半から、婚約者の有無に関係なく、街へ繰り出して平民女性を食い散らかし、庶子を作りまくった。オウラ4世と同年代の好色仲間のせいで、宰相家を除いた王侯貴族の人口が増えたと言われている。


 旧生徒会長は王族ではないので、庶子の子孫だと予想していたが、違うのならかなり危険だ。

 フラーグ学院の生徒会は、王族・宰相家・五大貴族から各1名の7名で構成されるのだが、恐ろしい事に欠員が許されない。

 学院は16歳になる年齢で入学し、3年間在籍して主に魔石に関する専門的知識を得る学び場なのだが、稀に当該年齢の者が王侯貴族にいない時期がある。

 その際には欠員の王侯貴族の特徴へ平民が無理矢理書き換えられ、生徒会に入れられてしまうのだ。色や姿を変質させられた平民の負担は大きく、身体に後遺症が現れ、ひどい時は寿命が短くなり早死にしたりするようだ。


「彼・・・ハル・エボニーは、王族の血を持たないのだが、入学した時、オウラ4世の庶子の孫が在学中にもかかわらず、強制的に生徒会長にされたんだ。」

 ラビネが俺達の疑問に答えた。

「そんな・・・王族の血は全くないのか?」

「ああ、7代遡っても王族との隠し子はいなかった。密通の末に産まれたとかだと戸籍で追えないが・・・どちらにしてもハル・エボニーの書き換え率は72%だ。」

 リヴェール一族は水道の供給・管理に伴い戸籍の総括を担っている。

 ラビネの話からすると、ハル・エボニーは入学してから3年間、校外に出ていないだろう。


 学院の校門を始めてくぐる時、強制力で変質した割合を測定しており、測定値は書き換え率として単位を%で表している。

 そして、測定された書き換え率が40%を超えると、学院内の寮に入らなければならない。入寮せずに通学だと、校門を出入りする度に身体へ負担が掛かってしまう。

 書き換え率が72%だと、校門を出ると重い後遺症が出るのは確実だ。

 俺達貴族は、強制力が課される事を分かっているので、あらかじめ髪を伸ばしたり服飾品を用意したりして書き換え率を上げないように出来るが、ハル・エボニーの場合は対策のしようがない。

 

 ついに、ファウストが校門の中へと前進した。

「あ、ファウスト、髪留めは・・・。」

 ジェネラスが呼びかけたがファウストは止まらない。


「・・・!!イコリスっ。」

「分かってるっ。」

 俺が呼びかけて注意を促すと、イコリスは即座に応答した。

「飛ぶぞっ。」

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笑ってはいけない悪役令嬢 三川コタ @kota-og715

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