漏洩電車

イタチ

捜索 探索 合作片

道のないような、場所を、もう何時間歩いただろう

GPSは、充電が切れ

標高機は、リュックの横に、ぶら下げていたが、いつの間にか、落としてちぎれた紐だけが、ぶら下がって居た

ただ、それでも、笹に、結びつけられた

白いテープだけを頼りに、歩いていた

時間はもう、六時を回ろうとしている

薄っすらと暗くなり

温度が下がったのか

それとも、雲が流れてきたせいか、足元から、霧が、上がってきていた

「早くしなければ」

そう思うが、行き先の目的地を、私は、いまだに明確にできてはいない

「でも、あるはずだ」

それは、国道から、山の中に見えた

赤い家が、発端である



家を出て、死に場所を、探していた私は、近くの県の山の中にいた

別の件へとまたぐ

その一本道は、人家などない場所を、一本ぶち抜いて、山沿いに、道が、作られている

途中に、時折、車が、すれ違う

そんな中、私は、山の中腹に、赤い屋根を見つけたのだ

そこに人が住んでいたのかは分からない

廃墟か、それ以外か

それにしても、私は、そこに行ってみたくなっていた

最後だ、それは無謀だとしか言いようがない

もしかすると、何処かから、道がつながって居たのかもしれない

国道から、直ぐ車で付いたのかもしれない

しかし、私は、車を、路肩に止めると

しばらく眺めた後、山の中に入ってみることにした

死に場所を探していたはずであるが

そのかばんの中には、今まで、山に行けなかった鬱憤か、山に入ったら必要と言われたものを

そのまま買って、こんな場所にいるのだから笑えない

急斜面を、あの家の屋根に向かうように、歩いて行くが、道がないので、それが正しいのかさえ分からない

ただ、それでも、あそこだ、途中まで見えていた、あの場所を探すために、ゆっくり確実に、坂道を、転げ落ちないように、草をつかみながら、歩いて行く

誰の声も聞こえない

それは、孤独としか言いようがない

とりと虫の声が、聞こえるが、私とは全く別の存在だ

「どこらへんであろうか」

地図を見るが、良く分からず、GPSを、取り出し見たが、なんとなく、あの赤い家の場所を、思い描くが、その場所が正しいかは、全く分からなかった

「大丈夫だろうか」

幾ら呟いてもそれは確証には、変わらない

直ぐつくと思われたそこは、まっすぐではないせいか

場所も、不確定だったせいか、分からないでいた

本当に、それは、そこに存在していたのか、今となっては分からない

GPSは、取り出すのも面倒だったうえに、先ほど電池が切れたのを確認してしまった

代わりの標高機も、無くし

私は、ぼんやりと、心細くなってきた

一応、良いジャンパーの上下を、着ているが、これで、山の中で、夜を過ごせるのであろうか

自殺を考えているくせに、何で、生きることを考えているのか

そのままで、いってしまえばいいのではなかろうか

「どこだよ」

そう思いながら、前方を見ると

木の陰に、木以外のものを見つけた

それは、のっぺりと、木の奥に、平らに、木が、張り巡らされている

壁である

きで、壁が出来ている

周りを見たが、道のようなものはなさそうである

一応、行ってみるが、見た所、それは、崖沿いに立てられており

中庭のような場所は、一歩踏み出せば、崖のような場所に早変わりだ

その家の周りを、歩いたが

小道すら見つからず

やはり、廃墟の類かとも思うが、こんな場所に家を建てることを考えると

寺院の類なのだろうか

「誰かいますか」

屋根が、落ちているわけでも、ガラスや壁が、壊れているわけには見えない

しかし、人が住んでいる雰囲気はない

それは、お堂のような、感じを、漂わせている

ただ、問題は、壁やガラス窓があるが、玄関が、見当たらなかった

どう言う事であろうか

雪深い場所では、寒さ除けに、何重にも、内部に、部屋を、こさえて、内部が温かくなり

夏は、涼しくしていると言うが

「無いな」

私はぼんやりと、三周して、考えをやめる

開ける必要性があるかも知れないぞ

そう考えを切り替える

いままでしのうと考えていた人間とは思えない

しかし、何処も、入口らしい場所はない

壁を破ることも考えたが

そんな事が許されるとも思えない

しかし、何処かに

何処かに

この木の壁の何処かを、取り外したりできないのであろうか

しかし、そんな場所は、相変わらず、見当たらない

これは、何なのだろうか

木打ち付けている何処か下に、玄関が、隠されていると言うのであろうか

それが、分からない以上

どうしようもない

私は、その中で、ぼんやりと、立ち止まる

「扉は、何処だ」

しかし、それに対して、家の扉が出てくるようなことはなかった

辺りはすっかり暗くなり

山向こうに日は見えない

鞄から出したヘッドライトを、照らしながら

私は、寒さと、無防備な自分を、考える

霧が、辺りを包み、靴が濡れ始めているのを感じる

最悪だ

どうにかならないものであろうか

私は、疲れの中で、草ではなく、乾いた地面に、寝転がる場所を探したが

そんなところはない

壁に背中をついて眠る音も自分はできないと感じてしまう

その時、家の下を、見て、軒下に、空間があるのを、発見してしまった

ここは、入れないのだろうか

昼間なら、気色悪くて、入らなかっただろうが

しかし、こう暗いと、そんな事は、気にならない

柱が、横に見える中、頭を、内部に入れる

すえた冷たい匂いが、その中には、漂ってはいるが

外寄りは、幾分温かく感じる

しばらく、内部に入り込み

私は、ようやく、移動をやめることにする縦四十センチくらいか

向こうには、柱が見える

もしここに誰かの姿が見えたら、発狂しかねないだろうか

ここで私は、夕食のクッキーをリュックを、開いて、探る

何処だ

頭が、痛くなってきた

狭いせいか、疲れているせいか

こんな場所にいるという恐怖か

私は、ようやく、黄色い箱を、見つけて、封を切って、中身を、口に運ぶ

すぐ横に、土が見えるこの状況は、非常に、奇怪である

食べ終えても、胃がむかむかし、吐き気を催している

気持ちが悪い

高山病でもあるのであろうか

トイレに、表に行くのも、めんどくさい

一度出た後に、また戻るのか

そんな事を考えながら

箱を、リュックに、戻したとき、頭を、つい、上げてしまい

上に、打ち付けた

それは、木かと思ったが

「パリン」と、乾いた音を立てる

何だろうか

私が、見上げたそこには、木の区切りに埋め込めるように

ガラス戸と、その下に鈍い光を放つドアノブが見えた

私は、やめておこう、こんな場所は、そう思ったが

自暴自棄も手伝って、その銀色の黒ずむノブに手をかけていたのである


それは、内側に、開いた

内部は、もちろん明かりもなく、暗い

ただ、頭のライトが、その先を照らす

天井、辺りは、お勝手であろうか

這い上がると、直ぐに、床板の上に出た

横には、食器棚があり、中には、揃いの食器や、空の醤油の器

どれも、使われていないことを、示す存在に思われた

それ以外は、だれも居ない畳のひかれた空間が広がって居た

何もない、こたつが、置かれているが、それ以外は

誰が、暮らしているのであろうか

私は、この場所が、酷く怖くて仕方がない

窓から洩れる明かりも、曇りガラスなのか見えない

密封された、この空間は、空気さえ、薄くなってしまっているのではなかろうか

私は、直ぐにでも、表にお出てしまいたかったが

私と言う存在の無意味さは、ここを出た所で、更に薄くなるような気がして、ぼんやりと突っ立っていた

「どうにかしないと」

何がどうなのだろうか

私は、壁でも、殴ろうかと考えていた

息苦しい

人の建物を、壊すことが、良いとは思えない

これは、自暴自棄なのだろうか

木の壁に、手を当てようとしてきが付いた

ガラス窓に、ライトが向けられると

妙なものが映って居る

それは、曇りガラスのせいかと思って居たが

硝子は、どう見ても、透明だ

その向こうに、白い顔が、押し込めたように、張り付いている

ライトを何度も、照らして、いよいよそれが、危ういくらいに、現実めいて見えた

何かがいる

私はすぐに、あの扉の外に転がり出た

何とか、表にはい出ようかと考えて、足を止める

表に出たら、あれを見てしまうのではないだろうか

私は、這うのをやめて、動きを止める

ぼんやりと、ライトの光を見る

大丈夫だ

そう思いたいが、照らされれば照らされるほど、吐き気が這い上ってくる気がする

今自分は何処にいるのだろう

輪郭は、ハッキリと、土を照らしているが、それ以外の場所からは、暗闇が、這い上がるように

闇を濃くしている

大丈夫だろうか

襲われるのだろうか

私は、上に何かいるような気がして、ライトを、上に向ける

「・・・」

布が、敷き詰めてある

その間に、何か、白い物が見えた

「何だ」

もう、分かり切って居る、それが、どうしようもない物だと

それは、上に敷き詰められている

一つではない

何体かの遺骨・・いや、ミイラのようなものが、そこには、竹で支えられるように

上に、置かれている

何だそう思っても仕方がない

私は、何とか、地面を這い

表に出る

白い霧が包み

辺りは何も見えない

私は、その場所を、離れるために、走る

笹に、白いテープが、揺らいでいた



「それで、その場所は、見つからなかったのですか」

依頼主を、前に、女は、お茶が湯気を立てているのを見ていた

「いいえ」

首を振って、男は、眼鏡の奥から、女を見ていた

「私は、あのあと、何度か、あの道を走ってみましたが

あの家を、見つけることが、出来なかったんです

あれは、何だったのでしょうか」

女は、それを聞いた

依頼を受けたときの文章をもとに、あの場所を、調べてみたが

江戸時代までさかのぼったところで

その場所に、何か言われも、地図に、目だったものなどなかった

しかし

「ひじりって、ご存じですか」

相手は、顔を上げて

「何ですかそれは」

と聞いてくる

「いえ、実は、その地方には、木食行と言うものがありまして

この世の平安を、願うために、みずから五穀をたち

草木を、食べ、最後には、断食し、自然に木乃伊になろうと言うものです

ただ、この場所を、通った可能性はありますが

そう言う記録は・・・ただ」

相手は、こちらを見る

「ただ何なんですか、何かわかると言うんですか」

相手の血走った眼は、こちらをいらんとするようである

「ただ、この地方には、もっと昔に、独自の宗教が合ったんですが

帰らずの家と言いまして

その家に立ち寄った遭難者を、死んだものとして、生贄に、使ったという話なんです

正直、擦り合わせのできない

一冊の本が、記録として、あるだけで、信憑性は、わかないんです

本当に、一冊の中の数行でしかありませんので

それで、その家が、もしあるのであれば、行者ではないものを、聖ひじりとして、使ったのではなかろうかと」

相手の男は、立ち上がって中腰で

「それじゃあ、おかしいじゃないですか、私は、台所や、食器棚を見たんですよ

あれは、そんな、そんな江戸時代のような古い物ではなかった」

女が、男を見る

「もう、行かない方が良いんじゃないですか

何があるか分からないんで」

男は、俯きがちに、口を動かした

「まだ、それは」

ぼんやりとついていた、部屋の明かりが、消えかける

外の夕暮れは、暗闇を、引き付れていた

「あなたは、あの場所に行くのが、お望みの様ですが、やめておいた方が良いですよ」

相手は無言で、そこにいる

「あなたが、あの場所に、呼ばれているのではなく

あなたが、あの場所を、呼んだんですよ、それでも、帰ってきたんだ

終わらすのは、あなた以外にいないんですよ」

女は、相手に行った後、電気をつける

いつの間にか、目の前に、男はおらず、ただぼんやりと、電灯の明かりの下

代金と書かれた茶封筒と乾物ちぎれた座標機が、机の上に置かれていた



「おい大丈夫か」

服装を整えたまま

山の中を歩いて行く

「ああ、まだ大丈夫だよ」

道には、僅かに、足痕があるが、それは、あるところで途切れていた

「なにもねえな、やっぱり」

少し平らなその先は、崖が、断崖絶壁の底を示していた

「もうそろそろ、帰った方が良い」

時刻は十二時を示していた

案内人の後ろを、歩いて行く

本当に、彼は何かを見たと言うのであろうか

道は、止められた一台の車の前まで続いていた

警察に、依頼されたが、失踪者は、無事帰れたのであろうか

「あの大丈夫ですか、こんなことを、頼んでしまって」

地元の山菜を、取って居る人間にお願いして

道を案内してもらった

相手は、タオルで、首を、拭きながら

「いえ、いいえ」

と、車道から、山の谷間を、覗くのであった

もうすぐ、五時になろうとしていた


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