ルエルの宝星
ちびまろ
第1話
ここはどこか遠い世界のお話。
光に包まれ温かい国、ルエルの国があった。この国では王家には代々双子が生まれ、金髪にルビーのような瞳をした子が朝を、漆黒の髪にブルーダイアモンドのような瞳をした子が夜を守るという言い伝えがあり、二人が一緒に国を照らすことによってこの国は守られてきた。伝説の中で、双子は国を守る光と闇の象徴であった。千年に一度、双子の目には封印された剣が眠り、その剣が災いを打ち払うと信じられていた。しかし、その剣は悲しみに飢えた女王を倒すためのものであり、その時が来るたびに国は試練にさらされる。いう言い伝えがあった。だが、実際にこの目で見たものはおらず、千年という月日は人にとっては長すぎる。いつしかそれは王家に伝わる伝説の話となっていた。
「おぎゃぁ!おぎゃぁ!」
「おぉ、生まれましたぞ!」
「ほう、金髪に赤い瞳をしたこの子をルキアと名付けよう。こっちの漆黒に青い目をした子はハーヴと名付けよう。」
こうして第一王子と第二王子が生まれた。しかし悲劇とは突然起こりうるもの。ある朝の象徴であるルキアが突然姿を消したのだ。
無論使用人全員で城中を探し回ったが見つからず、それを聞いた王妃はショックで寝込んでしまい帰らぬ人となった。王は朝を、民を、そして残された第二王子であるハーヴを守るために必死に働き文献を読み漁った。そして見つけてしまったのだ。
"朝が突如消えるとき、災いがそばまで忍び寄り、やがて国を飲み込むだろう"
王は参ってしまった。どうすればいいのだ?どうすれば国を救うことができるのか。そこで同じ文献に書いてあった。
"宝石を失った夜は朝への道しるべとなるだろう"
王は苦悩の末、ハーヴを呼び寄せた。そして、その手で彼の片目をえぐり取った。ハーヴの悲鳴が城中に響き渡り、王自身もまた、その痛みを心に刻んだ。だが、その選択がもたらすものを理解するには、あまりに無力だった。痛みに泣き叫ぶハーヴを置いて王はこれで民が救われると戯言を言っていた。
一方完全に瞳を片方失ったハーヴはひたすら剣の修業だけを行うようになり感情を完全に失った。一方王はキラキラと光る青色の瞳を見つめるばかりで何もしなくなってしまった。そのため人々は第二王子に期待を寄せて勉強を詰め込んだ。王子は無関心だが呑み込みが早く素早くそれらを学習していった。だが第二王子であるハーヴは十歳になっても言葉を発することができなかった。
人々はやがて彼がもまた壊れてしまったのではないかと不安に思っているときハーヴが初めてしゃべった。
「ここから西に三百キロ先に魔の住処あり。」
それだけ言うとハーヴはパタリと気絶してしまった。
次の日目覚めたハーヴはやけに視界がぼやけて見えた。ただ一直線に光が見えるだけ。ただそれだけしか彼の瞳には映っていなかった。
あれ……?僕、意思がある……
今の僕には何も聞こえない。何も見えない。ただ一筋の光がみえるだけだ。なぜか引き寄せられるように僕はその光に向かって走り出した。足元がふらつく感覚があったが、僕の目にはただ光しか映らなかった。その光が僕を導いているような気がした。何もわからない、何も見えない。ただ、その一筋の光を追い続けるしかない。
気が付くと、僕は冷たい岩壁に囲まれた洞窟の中にいた。闇がすべてを覆い、光一筋以外は何も見えなかった。その光は、まるで僕を導くように、まっすぐに伸びていた。
ぼくは光を追うように僕は気配を消して追いかけた昔から気配を消すのは得意だった。空気となじむかのようにそっと深呼吸をする。そのまま光のあるほうへと歩き出した。
突然、闇の中から鋭い爪が飛び出し、魔物が僕に襲いかかってきた。しかし、僕は冷静に、素早く剣を振るい、そのすべてを一瞬で薙ぎ払った。光を追う僕の歩みを止めるものは何もない。僕は、一度だけ会ったことのある兄の姿を忘れることができなかった。彼の温かい笑顔、優しい声、そのすべてが僕の心に深く刻まれている。僕はもう一度、あの温かさを感じたくて、光を追い続けた。
開けた場所に足を踏み入れた瞬間、僕の目に映ったのは、闇のように黒くうごめく何かに囚われた兄の姿だった。黄金の髪とルビーの瞳はかすかに輝いていたが、その光は今にも消えそうなほど弱々しかった。
しかしそれを覆うように黒い物体のような何かはまとわりついていた。僕は文献で読んだ伝説を思い出し僕は意を決して、自らの目をえぐり取った。鋭い痛みが頭の奥まで突き刺さり、意識が遠のきそうになる。しかし、ここで倒れるわけにはいかない。兄を救うためには、この痛みなどどうでもいい。僕はただ、兄を求めて手を伸ばした。
「ハ、ハーヴ?」
兄のような懐かしい声がした。兄の声が耳に届いた瞬間、僕の心は歓喜で満たされた。何年も抑えてきた感情が一気に溢れ出し、止めどなく涙がこぼれた。僕たちは言葉もなく、ただ強く抱き合い、再会の喜びを共有した。兄の涙僕の抉りとった瞳に落ちた次の瞬間、僕の瞳は眩い青い光を放ち、やがてその光は一筋の剣へと変わった。剣は兄と僕を守るために生まれたかのように、静かに輝いていた。
兄は僕の瞳が両方ないことに気が付くとひどく悲しんだ。一つは国と父である王によってなくなってしまったが、もう一つはここにある。僕と兄を守る剣としてここにあるのだ。
ルキアは弟の覚悟を見て自分も覚悟を決めなければと思い自分も片方の目をえぐり取った。その事実をハーヴが知ったときハーヴは守り切れなかったと涙を流した。その涙が瞳に触れると眩い赤色の光を放ち、一筋の剣へと変わった。二人はその剣を使い黒い何かを討伐することにした。
ハーヴは目が見えないながらも、周囲の気配を敏感に察知し、まるで見えているかのように敵の攻撃をかわしていった。敵が繰り出す刃が風を切る音を聞き分け、素早く体を翻す。その動きは、まるで闇の中でも確かな道を知っているかのようだった。
ルキアは冷静に、敵の位置や動きを弟に伝えた。『ハーヴ、右から来る!』その言葉に反応するように、ハーヴは一瞬の遅れもなく敵の攻撃をかわし、反撃の刃を振るった。
そうして激闘の末双子は剣となった瞳を代償に黒い何かを封印することができた。
しかしハーヴの目に光が宿ることはなかった。両目を失った彼は一生元には戻らない。それでもハーヴは幸せだった。大好きな兄の膝の上で日向ぼっこをするのが何よりの幸せだった。こうして千年越しの伝説が再び生まれたのだった。
ルエルの宝星 ちびまろ @CHIBI-mochi
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