第4話
バレンタインデー当日、部活の子とか仲のいい子たちにチョコレートをあげて、野乃花に急かされながら違うクラスの一真にも渡しに行った。平常心、平常心って心の中で何回も何回も唱えながら。
「これ、バレンタインだから」
「ありがとー」
「ううん。手作りだから、早めに食べてね」
「りょー。サンキュ」
気のない受け取り方だったけど、私は満足だ。ようやく、いっぱい人がいるところ以外で渡せた。ちゃんと、個人的に。これで、一昨年の後悔もちょっとだけ小さくなった気がした。
そして今日はホワイトデー。あれから、一か月。テストも終わって、早くも高校生活の三分の一が終わろうとしている。
どこかで期待してる。でも、諦めてもいる。だって、小五で私が思い始めてから五年間、一真だって気づくなら気づいているはずだから。ううん。気づいてないはずがない。野乃花には即バレしたし、私は何回もサインを送ってきた。でも、ホワイトデーにお返しが来ることはない。一昨年だってそう。頑張って作った本命へのお返しは、なかった。
まあ、つまりはそういうことだ。考えてみれば、私は一度も向こうから何かをもらったことなんてない。小五のクリスマスの、あのお返しだけ。ただただずっと、私が一人でから回っていただけなんだ。
はぁ……。思わずため息が漏れた。とうとう気づいてしまった。悟ってしまった。もしかすると、そろそろ長い長い片思いに終止符を打つときなのかもしれない。
意外にも、悲しさとか苦しさは込み上げてこなかった。すーっと心の中の何かが冷めていくようで、むしろ落ち着いている。なんか、呆気ないな。五年もあったのに。ずっとずっと、あんなに考えてたのに。
「芽衣ー」
一人で感慨にふけっていると、野乃花がリュックを背負って近づいてきた。帰る支度ばっちり、って感じだ。
「帰ろ。それともなんか待つ?」
「ううん。帰ろ」
私が立ち上がると、からかうような笑みを浮かべていた野乃花はびっくりした顔をした。
「え、いいの?」
「いいよ。もらう子からはもらったし」
「そっか」
野乃花はなんとも言えない顔をした。そんな顔しないでよ。私はなんとも思ってないんだからさ。ほんとに。そう思いながら私もリュックを背負った。
「失礼します。芽衣いる?」
「へ?」
突然名前を呼ばれた。驚いて教室の扉を見ると、中学から一緒の男子が紙袋を持って立っていた。同じクラスになったのは中二の一回で、そこまで親しくはないけど、なんだろ。
「どうしたの?」
「どうしたのって、バレンタインデーのお返しだよ。今日ホワイトデーでしょ」
「うそ!」
びっくりした。これっぽっちも期待してなかった分すっごく嬉しい。たしかにバレンタインにはチョコを渡したけど、それは友チョコ以下の義理チョコ。しかも買ったやつだったし。
「ありがとう!」
「いや、ただのお返しだから」
彼が声が聞こえないところまで行くのを待って、いつの間にかすぐ後ろに立っていた野乃花が口を開いた。
「芽衣。これは、あれだよ」
「は?」
「脈アリですよ」
「まっさかー」
私は思わず笑ってしまった。あれだけ私の片思いを応援してくれてた野乃花が、全然違う人からのプレゼントをそんな風に言う? でも、野乃花なりの気遣いなのかな。私が、もう待たないって決めたから。
「だって、わざわざ持ってきてくれたんだよ!?」
「もう。野乃花はすぐそういうこと言うんだから」
「だって!」
結局、一真は来ない。でも、いい。私は吹っ切る。引きずったりしない。
ふと思った。故郷に帰ったあとのことは何も伝わっていない笠女郎だけど、故郷に帰ってから、彼女にも新しい恋に向き合うきっかけとか、新しい出会いが待っていたのならいいなって。
古今恋愛リンク 駒月紗璃 @pinesmall
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