第31話 返り血のミルフィ

 「そ、そんな……」


 クレアは目を疑う。


「だって、その属性は──」


 ミルフィが出した黒いオーラ。

 それが信じたくない光景だったからだ。


「“黒”」


 黒属性は、魔族だけが持つ特別な属性。

 つまり、ミルフィが魔族であると証明しているようなものだった。

 また、驚いたのは相手も同じだ。


「やはり“返り血のミルフィ”か!」

「なんでこんな大物が……!」


 “返り血のミルフィ”。

 ミルフィが魔界で呼ばれていた異名である。

 それも、魔族が聞けば震えてしまうほどの。


 黒いオーラに身を包んだミルフィは、反撃を開始する。


「おいたが過ぎましたね」

「──がっは……!」

 

 瞬時に懐に入り、拳一発。

 カロスの部下は血を吐き出し、そのまま意識を失う。


「羽虫はそこで寝ててください」

「くそっ、本当にそうなのかよ!」


 対して、カロスもとっさに距離を取る。

 

 今のミルフィはやばい。

 そう直感したのだ。


(傷も治ってやがる……!)


 また、脇腹に出血は止まっていた。

 魔法による毒は、ミルフィが“黒”で無理やり消失させたようだ。


 人間が使える“白属性”。

 それは、全ての属性を高める効果を持つ。

 

 反対に、魔族だけが使える“黒属性”。

 それは、全ての属性を低める・・・効果を持つのだ。


 すると、どうなるのか。


「私に魔法は効きませんよ」

「……ッ!」


 効果を限りなくゼロに低められた魔法は、意味をなさない。

 強い“黒”の持ち主には、魔法は一切効かないのだ。

 それには、クレアはピンと来る。


(だから、わたし達の魔法も……!)


 思い出したのは、三人でミルフィと模擬戦をした時のこと。


 最後に放った【蒼焔嵐舞トリニティ・フォース】は、消失したようにも見えた。

 あの時、一瞬ミルフィは“黒”を使っていたのだ。

 “黒”で魔法の効果を瞬間的に低め、斬り裂いたというわけである。


 クレアが使わされたのは、“黒”のことだったのだ。


「では、いくつか答えていただきます」

「ぐっ……!」


 力の差を認識させたところで、ミルフィは攻撃を再開する。

 

「あなた達は“外れの魔族”ですね?」

「誰が答えるか──」

「言葉は『はい』か『いいえ』だけです」

「ぐああっ!」


 反抗しようとすれば、痛みを加える。

 だが、簡単に気絶させはしない。


「言いなさい」

「……ああ、そうだよ。我らは“外れの魔族”だ」

「やはりですか」


 ──外れの魔族。

 それは、魔王領に属さない地に住む魔族のことだ。


 魔界の大半を領地にする魔王。

 だが、広大な土地のあまり、全てを治めているわけではない。

 外れの魔族は、魔王の手が届かない場所に住んでいるのだ。


「何をするつもりですか」

「……反逆だよ」


 引き続き痛めつけられながら、カロスは目的を口にする。


「あの腰抜け魔王は、わざと人間との戦いを長引かせてやがる」

「……」

「だから我らが魔界の天下を取り、代わりに戦争を終わらせてやるのさ!」


 ミルフィも魔王の意図は知っている。

 人間が好きなため、被害をなるべく少なくする方向で戦っていることも。

 だが、外れの魔族からすれば、魔王が弱いと見えるようだ。


「では、魔界の天下を取るための“白”ですね?」

「ああ、そうだよ!」


 とはいえ、正面から魔王軍とやっても勝てないのは、外れの魔族も分かっている。

 そこで、人間のみが宿す“白”を利用しようとした。

 属性を高める効果を持つ”白”ならば、魔王軍への突破口となると考えたのだろう。


 しかし、ミルフィは首を横に振った。


「あなた達が出しゃばる必要はありません」

「なんだと?」


 そうして、ミルフィは宣言した。

 先の未来を確信しているように。


「人間界と魔界は坊ちゃまが平定します」

「坊ちゃま? って、まさか……!」


 カロスは風の噂で聞いたことがあったのだ。

 魔王には“隠し子”がいると。

 その魔王の隠し子は、人間であると。


「待て! その坊ちゃまというのは──」

「話は終わりです」

「ぐあああああああっ!」


 だが、ミルフィは最後まで語りはしない。


 “黒”のオーラでカロスを包んだのだ。

 “黒”を相手の身体に使えば、身体機能を低下させる。

 それを極めれば、生命力を限りなくゼロにすることもできる。


「消し炭になりなさい」


 カロスは部下と共に、文字通り消失させられた・・・・・・・

 これが“黒”を極めたミルフィの力だ。

 友達をおそった彼らに、すでに容赦ようしゃはない。


 だが、戦いを終えると、辺りにはせいじゃくが広がった。


「「……」」


 クレアとミルフィが、どちらも顔を合わせないのだ。

 しかし、やがてクレアから口を開く。


「……後で詳しく話してくれるんだよね」

「ええ、約束しましょう」

「……わかった」


 戸惑いは残るクレアだが、今は気持ちを切り替える。

 パンっと頬を叩くと、すぐに立ち上がった。


「じゃあ今はやるべきことがある!」

「……!」

「周りでも戦っているかもしれない。みんなを助けに行かなきゃ!」


 クレアはミルフィに手を差し出す。


「ほら行くよ!」

「……ですが、私は魔族で──」

「そんなの関係ない!」

「……!」


 だが、気まずそうにするミルフィに、クレアは強く訴えかける。


「人だろうと、魔族だろうと、私たちは友達でしょ!」

「……っ!」

「正直、わたしも戸惑ってる。でも──」


 そうして、真剣な表情でミルフィを見つめた。


「ミルフィはミルフィでしょ!」

「あなた……」

「それだけは信じてるから。行こう!」

「……ええ」


 対して、ミルフィもふっと口元を緩める。

 

(坊ちゃま、やはり人間も捨てたものではありませんね)


 どう説明しようかはまだ考えている

 それでも、クレア達との関係は変わらない。

 そう確信したミルフィだった。


「早くしなさい。置いて行きますよ」

「ちょっ、急に!? てかわたしはセルナさんを運んでるだからー!」


 クレア・ミルフィ組、魔族の制圧完了。





 その頃、クルミ・ゼルアがいる場所。


「こいつの相手は僕だ」


 クルミがピンチの中、姿を見せたのはゼルアだった。

 だが、すぐに顔をしかめる。


見たことない・・・・・・魔族だ……)


 魔王軍の顔は大体分かるゼルアだが、ルスにはピンと来ない。

 おそらく“外れの魔族”なのだろう。

 対して、顔をしかめたのはルスも同じだ。


(なんだこいつは……!?)


 人間ごときに、自分の魔法を打ち消せる者がいると思えないからだ。

 すると、途端に視線を鋭くしたルスがたずねる。


「お前の名はなんだ?」

「ゼルアだ」

「……!」


 その名前には聞き覚えがある。

 カロス同様、要注意人物として共有されたいたのだ。

 いわく、“魔王の隠し子”の可能性があると。


「おもしれえ……!」




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魔王の息子~魔王に育てられた少年は、人間界で無自覚に常識をぶっ壊して無双する~ むらくも航 @gekiotiwking

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