第二十一話 帰路の戦闘
「……よし。異常は無いかな……?」
モグラ型の絶命を確認した僕は、即座に自らの身体を確認して、異常がないかどうかを確認する。
感覚から骨が折れていないのだけは確かだが、それ以外の行動に支障の出る怪我をしていたら、場合によっては戻って日を改める事も視野に入れている。
まあ、どうやら軽い打撲程度で、これといった問題は無かったようだ。
これなら、先に進む方が良いね。というか、この程度で戻ってたら、いつになっても家に帰れないよ。
タッ!
「大丈夫? 奏太君!」
すると、瓦礫を上手い事飛び越える感じで、陽菜が俺の下に駆け寄ってきた。
そして、心配そうにそんな言葉を口にする。
「大丈夫。自分から跳んだから、軽い打撲程度」
傍から見れば、派手に吹っ飛ばされた僕であるが、実際は先に自分から跳んでいる故、想像より怪我は少ない。
僕はその事実を淡々と告げると、土埃を手で払いながら立ち上がった。
そして、視界確保の為にさっさとゴーグルを上げると、状況確認を行う。
「……崩れたけど、それでルートが塞がれた訳では無い……か。なら、このまま進めそうだ」
もし予定してたルートが、さっきの崩落で塞がってたら面倒な事になっていたと思いながら、僕は安堵の息を吐いた。
「おーう。……ねーおにーちゃん。奏太君、すっごい冷静だね」
「まあ、吹っ飛ぶとこ見てたから、大丈夫ってのは分かっていたが……ともかく、ちゃんと”運び屋”なんだよ、奏太も。よく侮られるとか言う癖に、自分が
「ひっどい言い方だなー! おにーちゃんは!」
そう言って、翔に抗議する陽菜。
見たところ、2人にこれといった怪我は見られない。所々にさっきまでは無かった土汚れやほつれがあるのを見るに、滑り落ちながら位置をずらしたのだろう。
モグラ型の筋力とある程度やり合えるのなら、僕みたいに移動するより、そっちの方がよっぽど確実な対処法だ。
「……もたもたしてたら、音に釣られた寄生獣に襲われる。急ぐよ」
「ぐうの音も出ない正論……っ! これには返す言葉も無い」
「はいはい……んじゃ、行きますか」
そして僕たちは、また何事も無かったかのように進み始めた。
ふざける陽菜も、それに乗る翔も、一定以上の経験を積んだ”運び屋”だ。
ひとたび進行を始めれば、直ぐに隙の無い動きへと変わる。
切り替えが上手い。僕には出来ない芸当だ。
そうして、その後も進み続けること数十分。
「……よし、外だ」
多少の遠回りになりながらも、僕たちは無事地上へと出ることが出来たのだ。
「さてと。近くに
当然の事だけど、地上はゴールでは無く、言うなれば地獄の始まり。
数多くの寄生獣が跳梁跋扈するここは、地下の道よりも遥かに危険だ。
「……行けそうかな」
幸いな事に、今は近くに寄生獣の姿気配が確認出来なかった。
なら、今の内に進むのみ。
「後ろは任せた。向かいの建物まで一気に進んで隠れるよ」
「了解了解、任せてよっ!」
「ああ。だから、頼んだ」
タッ
僕は瓦礫の陰から飛び出すと、身を屈めながらボロボロの大きな道路を横断する。
道路上に散乱する瓦礫の山や、小さめの陥没穴を上手く利用する事で、なるべく姿を晒さない様に気を付けて進んだ僕は、難なく反対側の建物の陰に身を潜めた。
そして、すぐさま周囲を見回して安全確認を行う。
「ふうっ 大丈夫そうだねっ!」
「ああ。順調……ってな」
その直後、僕と同じく建物の陰に辿り着いた2人は、背後の確認を主に行いながら、そんな言葉を口にした。
「だ、が。そっちは――」
「うん。
翔の言葉を引き継ぐように、僕はそう言って頷く。
刹那。
「「「グルルゥアア!!!」」」
「「「ヂュウゥゥゥー!!!!」」」
建物内部の廊下を、犬型と鼠型の寄生獣が群れを成して攻めてきたのだ。
別種の寄生獣――互いに喰らい合う事もある関係ではあるけど、寄生されていない生物という
「やろう――」
相変わらず面倒な習性だと思いながら、僕は右手にリボルバーを、左手にダガーナイフを構える。
「前を任せた」
パパン!
そして、そう言うと同時に発砲音を鳴らした。
「1発外したか……」
だが、裏を返せば1発は脳天を貫いて殺った。
なら、最低限やれる事は出来たと思いながら、僕は銃の反動を利用して横っ飛びをする。
「どうもっ!」
先頭に居た俺が居なくなった事で、必然的に先頭へと出る事が出来た翔は、そのまま地面を勢いよく蹴ると、寄生獣どもの所へ一気に突撃する。
「はあああああああっ!!!!!」
「ギャインッ!!!」
そして繰り出される回し蹴りは、先頭に居た犬型を地面へゴロリと転がした。
「グルァ!?」
「ヂュウゥゥー!!!?」
そのまま転がった犬型は、見事に後続の寄生獣どものストッパーになる。
「よし――」
「ナイスっ! おにーちゃんっ!!!!」
それを
「はっ! はっ!!!」
僕が行うのは、リボルバーを即座に仕舞っての投げナイフ。
銃弾と見紛うような軌道で放たれたそれらは、寄生獣どもの額を正確に穿っていく。
「おりゃああああっっっっ!!!!!」
そして、それと同時に寄生獣どもの居場所まで接近した陽菜は、いつの間にか構えていた手斧を勢いよくフルスイングした。
「ヂュンッ!!!!」
「ギャッッ!!!!」
それは、寄生獣どもの喉を纏めて掻き斬り、易々と撃破してしまう。
後隙こそ課題だが……そこは僕
「グルアアァァ!!!!!」
「近づくんじゃねぇっ!」
「ギャイン!!??」
案の定、隙を見せる陽菜に遅いかかる犬型――だが、すぐさま反応した翔が、ドアを蹴破るかの如く、鉄板の入った靴底を犬型の横っ腹に蹴り出した。
それにより、ずりながら地面に転がる犬型。
刹那、その頸椎を翔は躊躇なく足で踏み抜いて、粉々に砕く。
血をなるべく出させない――寄生獣討伐の最適解とも言える行動をその力と技量で成す翔に僕は下を巻きつつも、すぐさま地面に転がっていた手ごろな石を拾い上げると、投擲して援護を行う。
そして、それから程なくして。
襲い掛かって来た寄生獣どもは――全滅した。
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