お掃除完了
今日はあの連中との模擬戦の日だ。
若干緊張気味のアリシャ。
「闘技場には魔法がかけられていてダメージ判定により勝ち負けが決まるんだよな?」
「そうよ、あとダメージ事態も肩代わりされるから怪我はしないわ」
そんなやり方で本当に役に立つのか疑問だが、学生同士だとそんなもんか。
闘技場のスペースに行くとギャラリーが賑わいを見せていた。
「いつもこんなに多いのか?」
「そんなことない、多分アルフォンスが集めたんだと思う」
「ふーん、そんなに公衆の面前で赤っ恥かきたいのかね」
「アリシャさん」
「アリシャ!」
「ファイ! オー!」
二人は戦いには参加しないのはずだが三人で円陣を組んでいる、中がいいのは良い事だ。
メリベルの話によるとあれから噂話が進化(?)していて、魔人を召喚したが逆に操られた愚かな器用貧乏をお優しい貴族であるアルフォンス様が救うという話になっているらしい。アリシャは救われた礼として下僕になるんだそうだ。
「面白い話になっているな、試合後の奴らにとっては本当に魔人に見えているかもしれんが」
「アンタは余裕そうね?」
「まあな、申し訳ないがいくら優秀で数がいたとしても学生レベルでは俺の相手にはならない」
「さすがエリートは言う事が違うわね」
「当然だ」
闘技場には先に連中が待ち構えていた。話をしたときより人数が増えているがまあどうでもいい。
「逃げずによく来たな悪の魔人よ! お前の暴虐もここまでだ!」
「何が魔人よ! それより人数がおかしいじゃないあの時より増えてるわ!」
「何人という取り決めをしていた覚えはないが? 魔人によって記憶の改竄までされているのかな」
「くっ…」
「さてルールについてだが、当然いつも通り学園の生徒は魔法での防壁効果が得られる。防壁効果が切れて闘技場から排出されたら敗北。あるいは何かしらの理由で気絶など戦闘不能と判定された場合も敗北だ」
「…? そうね、知っているわ」
「そこの魔人は学園の生徒ではないから防壁効果の適用外となる」
「そんなの無茶苦茶よ! 認められないわ!」
アリシャも模擬戦での防壁効果というのがピンポイントで設定できるとは知らなかったらしい。
「嫌ならそちらの試合放棄で負けという事になるが?」
「それなら―ムグッ」
余計な事を言い出す前にアリシャの口を塞ぐ。
「俺は一向に構わんッッッ!」
少し気合を乗せた声を響かせると、露骨に敵の士気が下がったのが見て取れた。やはりこんな程度か…威圧を使うまでも無い。
「ほ、本当にいいんだな? 後悔するなよ?」
「いいからさっさと始めろ」
「むー、むむー」
おっとアリシャの口を塞いだままだった。
「はあ、はあ、試合前に死ぬかと思った」
「ははは、スマンスマン」
などと会話をしている間に開始の銅鑼が鳴らされた。
後にアウローラはこの時の出来事を聞かれてこう語っている。
「ええ? あの時の模擬戦でについてですか? そうですわね、何と表現すればよろしいのでしょうか…。一つ確実に言えるのは、あれは試合と呼んでいいレベルのものではございませんでしたわ」
「例えるなら…お掃除?」
「闘技場の上からあの醜い殿方達が一瞬で…そう、箒で掃かれたホコリかゴミのようにサッ~といなくなってしまいましたの」
「開始の銅鑼の余韻が残っている間に終了の銅鑼を聞くなんて思いもよりませんでしたわ」
「お恥ずかしながら、ぼんやりと魔人って本当にいるのですわぁ~、なんて思ってしまいましたの」
「勿論、トーマス様は魔人などではなく素敵な殿方でしてよ」
そう述懐したアウローラの顔はほんのり上気していたという。
「かんぱーい!」
模擬戦に無事勝利したということで、アウローラとメリベルが祝勝会を開いてくれていた。アリシャは何もしてないからと遠慮しようとしてが、アウローラに押し負けた形だ。
アウローラの奢りでうまい料理を沢山食べさせてくれるというので大変ありがたい。
「召喚魔法の授業、わたくしも受けてみようかしら」
「ええ?! アウローラ様が来てくれたら先生ビックリして倒れちゃうんじゃないかな?」
「アウローラ様が召喚魔法の授業を受けるかは別として、今後は人気出るかもね」
「勘違いしているのかもしれないから一応言っておくが、アリシャの魔力量は二人よりかなり多いからな? そうでなければ俺は呼ばれていない」
「ええ?」
アリシャの魔力量が少ないというは学園での常識になっていたから無理もない。判定球について説明したところ二人とも驚いた顔をしている。
「そんな事って…これは国家レベルの大問題ですわ」
「そうですね、アリシャのような人が他にも居た、あるいは今現在もいる可能性は十分あると思う」
「出力が低くて魔力が多い方は魔法陣以外に何か道はございませんの?」
「鍛冶師が本来なら魔法使いになるより向いているはずだ、アリシャみたいな華奢な体では向いているとはいえないが」
「…鍛冶師ですか、それはどういった理由で?」
「魔法付与をしながら鍛冶仕事をする事が出来るからだ、付与に必要なのは安定した出力と長い時間消費し続けることができる魔力量だ」
「魔法付与というのは…まさか武具に魔法の効果をつけられるんですの?」
「この国には魔剣の類ないのか?」
「この国にある魔剣は3振り、いずれも国宝扱いで所持しておられるのは近衛騎士団団長など信頼厚い者だけですわ」
「そんな国宝級とまではいかない位の軽い効果の付与された剣も無いのか?」
「魔剣は遺跡やダンジョンから見つかるかもしれないくらいで、作るなんて想像もつきませんわ…。トーマス様なら可能だと?」
目つきがかわったアウローラがずいっと顔を寄せてくる。
「材料と設備さえあれば出来るぞ」
「お願いいたします! わたくしに出来る事ならなんでもいたします、わたくしに魔剣を打っていただけませんでしょうか?」
「剣を? アウローラにか?」
ちなみに呼び方に様をつけるのはやめてと懇願されたので呼び捨てにしている。
「アウローラ様は魔法も剣も使う魔法騎士なの。トーマスは知らないのも無理はないけど、実力学園トップの戦姫アウローラは有名なのよ」
「ほほう」
「そうだな…なんでも、か」
「は、はい」
「いいだろう」
「ありがとうございます!」
フッ、これは思わぬところから計画が進みそうだ。
「トーマス! ダメだよ!」
不穏な気配を感じ取ったのかアリシャが慌てだす。
「ニィ…」
ビクン!×2
うっとり×1
む? なんか一人反応が違うが…まあいいか。
「もう、ダメっていったのにー」
「計画が進みそうだと思ったらつい、な」
「つい、であんな(恐ろしい)体験するとは思わなかったわ」
「そうですわね、あんな(素晴らしい)体験をするとは思いませんでしたわ」
青ざめた表情のメリベルと頬を赤らめたアウローラ、リアクションは違えど感想は同じか…。俺のスマイルはどうもこの世界では刺激が強すぎるらしい。
「それで条件なんだが、アリシャにも装備品を作りたいのでその分の材料を用意してほしい」
「私にも?」
「効果については完成してからのお楽しみだ」
「私には何もないわけ?」
「メリベルは何も関与してない…いや、まてよ」
いずれ行くダンジョン攻略のパーティに入って貰えればアリシャにとっても心強い仲間になるのでは?
「メリベルは何が得意なんだ?」
「水の魔法を使うわ、上級魔法もほぼ全種類使いこなせるわよ」
ふふん、と胸をそらせるメリベル。
「アリシャはいずれダンジョン攻略に行く予定なんだが、その時一緒に潜ってもらえるなら、メリベルにも何か作ってやるぞ」
「ダンジョン攻略ね、いいわよ」
「即答だな」
「だってもうダンジョン攻略には参加しているし」
「それなら組んでいる人に許可は取らなくていいのか?」
「はーい、わたくしですわ」
そういうことか。
「それならアウローラも一緒に潜ってくれるのか?」
「わたくしだけ仲間外れは寂しいですわ~」
そう言ってアリシャにギューッと抱き着くアウローラ。
これでダンジョン攻略にも目途が立ったな。
「それで必要な材料は―」
必要な素材について書いたメモを渡す。
「承りました。勿論用意させていただきますけれど、意外と手に入りやすい物ばかりですのね?」
「狙っている効果に向いた素材というものがある。それに高価な物を装備していると効果を知られていなくても素材が理由で狙われたりするからな」
鍛冶仕事に関しても俺はエリートなのだ、実質よりも金満な仕上がりならなんでも満足するような俗物とは違うのである。
「それでアウローラ剣の性能とメリベルはどんなものが欲しいんだ?」
「火に関連した魔法が付与された片手剣をお願いいたしますわ。炎の魔剣…ロマンですわぁ」
「私は魔法の効果を増大させる杖のようなもの出来るなら欲しいわ」
「わかった、それなら材料はこれらを用意してくれ」
「ありがとうございます! 材料の方はお任せくださいまし、1週間以内に全て準備いたしますわ!」
「では材料はアウローラ様にお任せするので、設備の手配は私がしておくわ」
「二人ともありがとうございます」
「それでは改めまして、新パーティー結成にかんぱーい!」
こうして祝勝会はパーティー結成会へと変わり、夜は更けていくのであった。
俺は被召喚世界のエリートである。 ニンゾウ @modorou
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