(5)

 ようやく、サービス・エリアに到着し、一〇分間の小休憩をする事になった。

「このまんまじゃ、予定、かなり押しちゃうよ」

「どうします? あの工場、土日しか使わせてもらえないんですよね?」

「いっそ、あっちに泊まるか?」

「最悪は、そうしますか……」

 監督・助監督・スクリプターなんかがジュースの自販機の前で、打ち合わせをやっている。

「ああ、そろそろ、時間だな」

「バスに戻るか」

 やがて、スタッフ・キャストはマイクロ・バスに分乗し……。

 あ……あれ?

くれないクン、居ねえぞ」

「ちょっと探して来ます。あ……誰か、男性の方、男性用トイレに居ないか見て来て下さい」

「しょ〜がねえなぁ……」

 あたしは、喫煙スペースを探す。

 やがて……。

 ああ、やっぱりだ。

 ポケ〜っとリラックスした表情で、チュ〜の奴が煙草を吸ってる。

「あれ? 兄ちゃん、どっかで見た事が……」

 チュ〜の近くに居たトラックの運ちゃんらしい中高年の男が、チュ〜に、そう話し掛けていた。

 あたしは、一番近くのジュースの自販機に猛ダッシュ。

 走りながら、財布の中身を確認。

 よし、千円札は3枚。足りる。

 あたしは缶コーヒーを何本も買う。

 あと、バス内でチュ〜が飲むであろうミネラルウォーターも。

 ギリギリだ。

 でも、間に合う筈だ。

「あ〜、すいません、その子、実は芸能人なんで、煙草吸ってたのは黙ってて下さ〜い」

 そう言いながら、あたしは、喫煙スペースに居た人達に缶コーヒーを配る。

「え……?」

「ああ、そう云う事か……。お堅い御時世だしなぁ……」

「ところで、兄ちゃん、その煙草、何て銘柄だ?」

「えっ?」

「何か、すげ〜いい匂いがすんだけど……」

「あ……あの……」

 後から考えたら……気付いておくべきだった。

 何故、チュ〜が吸ってる煙草は、のかを……。

 どうして、チュ〜が吸ってる煙草ののかを……。

 もっと早い内に……何か変だと気付いとくべきだった。

「ためしに一本分けてもらえねえか?」

 喫煙所に居たおっちゃん達の内、一番、ズ〜ズ〜しそうなのが、そう言った。

「は……はい……」

「悪いね……。うん……いいな、この煙草……」

「あ、じゃあ、俺も一本もらえるか?」

「俺も……」

「は……はい……」

「いや、兄ちゃん、いい奴だね。きっと、芸能界でも成功するよ、あははは……」

「じゃ、ちょっと、もう時間が無いんで……はい、スタッフさん達も待ってるよ」

「え……ええ……」

 あたしは、強引に、チュ〜を喫煙スペースから連れ出して……チュ〜から煙草をもらったおっちゃん達は、呑気に手を振ってる。

 ようやく、マイクロ・バスに辿り着き……。

「あ〜、監督さんから連絡が有りました。もう、現場に辿り着けるのは、昼過ぎになる可能性も出て来たんで、今日と明日はギリギリまで撮影して、向こうに泊まります。今、東京事業所経由で、撮影現場の工場との交渉と、向こうのホテルなんかを空きの確認や予約をやってもらってます」

 撮影部のスタッフがバス内で、そう説明。

「しまった……」

 バスに辿り着いたチュ〜の顔色が悪い。

「どうした?」

「煙草……残ってないです」

「後で、コンビニか何かで買ってやるから……」

「それが……その……」

「はい、じゃあ、全員、シートベルトお願いします」

 運転手さんが、そう言うと、マイクロバスは発進し……。

 サービスエリアの出口を抜け……。

 そして……衝撃。

 ……って、何でだよッ?

 更に衝撃。

 おい、どうなってる?

 何だ?

 横を走ってたトラックが……あたしらが乗ってるマイクロバスに激突。

 更に、後ろを走ってたトラックも激突。

 特撮番組のキャスト・スタッフが乗ってるマイクロバスに起きたのは……まるで特撮そのまんまの事態。

「な……何だ……何が起きてんだ?」

 その時は……すっかり気が動転して訳が判らないままだった。

 でも……繰り返すが……後から考えると、もっと早い内に気付いとくべきだった。

 けどさ……。

 いくら何でも、こんな無茶苦茶な出来の悪いギャグみたいな事が起きるなんて……。

 

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正偽の味方 @HasumiChouji

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