降り注ぐ銃弾を全てはじき返したり、避けたりしながら待機所に逃げ込んだ。

 どれだけ今の事態が下らない嘘だったとしても民間人を思いっきり巻き込んだ挙句、戦闘を続行する敵に対して私は誇りという観念からほんの少しばかりの憤慨を感じざるを得なかった。

 例え昨今の戦場がどれだけ丸腰の人間を手にかけていても、だ。


 【全解除】


「クソ、奴らは一体……こんな僻地でドンパチしても金にはならねえ筈だ‼」

 私が先程まで殺すべきだった対象『偉大なる兵器ドイル・マッカネン』が狼狽した声を出す。


 「ドンパチすると金になるアテがあるんだろ、お前の知らないところでな。」

 通信魔法が私に届く。


 『ナスカ、パルテスク治安局をモニターしていたら偉い騒ぎになっていたから様子を聞こうと思ったんだけど。』

 『アノンか、取り込み中だ。用なら後にしてくれ。』

 

 『愛想のない子供だね、君は。状況を整理しよう、さっき君に奇襲を仕掛けてきたのはオルゲダ軍に雇われた零細PMCグラインズ・オブ・サンド社。以前僕はオルゲダ正規軍が到着すると予測していたが外れた様だ。彼らは大金に目がくらみヴァラド基地から最新鋭のイグジスを盗み出した君の捕縛を請け負った。今はこの蛮行に気付いた治安局とも戦っている、戦局は……G.O.S社の優勢だ。治安局はぬるま湯に浸かった組織、戦線も持たないだろう。彼らを支援しても見返りは見込めない、いつもの様に君単独で行動してくれ。邪魔なら民間人治安局PMCいくらでも殺すといい。』

 

 銃弾に幾らかやられ、血を流している大男を片目に通信内容を咀嚼する。


 『私がラシアスを……完全な濡れ衣だ。』

 『フフフッ、共犯者じゃないか君は。ヴァラド基地を調べれば重症患者リストに載っていた君だけベッドの上で死体になっていなかった。それに上層部は君とラシアスのパイロットに縁があった事に気が付いているだろう。君がルカを騙すなり殺すなりしてラシアスを奪った。』


『捕縛対象者にライフルやマシンガンをぶっ放すなんて連中も何を考えているんだ?』


『デッドオアアライブだと思うよ。生きていればボーナスがあるし、死んでも金になるんだろうな。と、いう事は……連中ラシアスの在りかに目星をつけている可能性が高い。』


 「さっきからテメェ誰と話してやがる……うォ……結構やられたな……グッ。」

 呻きながらそれでも行動を起こそうと壁にもたれながら立ち上がり歩き出そうとしながら私に文句を垂れる。


 「命が惜しいなら傷の手当てをして大人しくしている事だ。今出て行ったら民間人ごとお前もハチの巣だ。」


 『君のこれからの目的を仮定してあげよう。ナスカ、君はルカと合流し、彼をラシアスに乗せてやれ。こっちはブルメントの軍にコンタクトを取って亡命的な某が出来る様に計らうつもりだ。プロヴィデンスも巻き込んでやればうまく行くだろう。』


『命令じゃないのか。』

『まさか、好きにすればいいさ。僕は今ブルメント寄りになっているロイターの利益を鑑みて思いついたことを言った。それに従うかあるいはまったく別の目的を持ってもいい、そもそも君は今任務中じゃない。プライベートの過ごし方は人に指図されるべきじゃないからね。』


『……私は阿呆だ。そう言う事柄に疎い、今はお前の言う通りに動く。何かあったら連絡する、その時は手を貸してくれ。』


『了解だ。必要が有れば妖精も出すといい、全ては君次第だ。グッドラック。』


 通信が切られた。

 あの大男は私の言う通りにしたのだろう、壁に血が這った跡が見受けられる。


 今、私が持つ武器はこの銃剣だけだ。

 ロッカーに[ハイパワー]を取りに行く、あるいは救護室で備えを貰っておくのもいい。

 あるいはもっと別の行動をとって、ルカを引き寄せてもいいな。

 妖精の件はナシだ。近距離戦闘で妖精なんぞ出していたら撒かれた銃弾で何体消滅させられるか分かったものではない。

 

 ルカと合流しつつ彼の生存確率を高めるには、彼らを出来るだけ排除していく必要が有る。

 ……銃声が鳴り響く。

 強襲が失敗した事もあって銃声に気を使わなくなったのだろう。


 聞こえるのはそれだけでなく、悲鳴、叫び声……。

 ふと私は急に目の前が色づき始めた様に思った。

 だがそれも一瞬の事、声が聞こえる。

 

 「こっちだ!選手が出場前に待機させられる場所がある!」

 「さっきの大男にも苦戦させられた!奴もどれだけ強いか未知数だ、舐めてかかるなよ!ゴーゴー‼」


 【A.P.AⅣ】

 【ハンチα】


 長方形の通路の先に二手に分かれる丁字路の左端から、[フラッシュバングレネード]がこちらに向かって投げ込まれる。

 端からその物体がソレであると捉える前に投擲用のナイフを投げた。

 凄まじいスピードで投擲されたナイフは予定された放物線を無理やり捻じ曲げ、丁字路の壁に突きさり、予定通り発動する。


 「フラッシュバン!まともに食らった!」

 「伏せろ!」

 叫び声が聞こえている内に私は、一直線に走り丁字路の真正面の壁に足を付け壁を走り奴らの背後を取る。

 零細企業とは言えバカではないらしくきちんと背後をカバーする兵士が居た。

 そいつの前に躍り出る。


 「は?グフォッ――」

 首と胴体を切り離す。

 そのまま近くで列をなしていた兵を撫で斬りにしていく。

 激しく噴出する鮮血が場を染めていくが、誰もが私に気付きさえすれど反応することは出来ない。

 5つ6つ……。

 ある者は持つライフルを発射さえできたがその銃口を下から移動させる前に手と首が胴体から分離した。

 ある者はナイフに持ち替えようとしたが――。


 「ひ、ヒイッ‼なんなんだ……お前、サイボーグか何か、なんで、こんな!」

 そいつの首に彼自身に見える様に銃剣の刃を首元に押し付ける。


 「目的を言え。」

 「お、お前を殺すか、連れて、オルゲダに引き渡す!」

 「あと何人いる。」

 「今何人かは知らない!治安局も出ている!出撃時は30人だった!」

 「装備、熟練度は。全員この程度か。」


 辺りは血の海とは言えないが、下水管が破裂して赤いペンキが廊下中に広がった、と形容できそうだ。

 私も銃剣も、それを突き付けられている彼自身も真っ赤に染まっている。

 

 「そ、そうだ。な、なあ何でも答える、命だけは!」

 「この辺で金になるイグジスの話を聞いたか。」

 「そ、それもあんたに聞くつもりだった。それに、別動隊……そうだ!彼らは俺達とは違う場所に向かった!あいッ――」

 「さっきの話と違う!」

 押し付けた銃剣の刃は彼の首に食い込み、血が流れ始める。


 「あああっ‼やめてくれぇッ‼そうなんだ!たった3人でジープに乗って砂漠の中に――カヒュッ」

 そのまま彼の首と胴体を切り離す。


 ルカとの合流は後回しだ。

 さっさとすべてにカタを付けないとマズイ。


 その廊下を通って再び左折する。

 すると、控室や処置室、焼却場、倉庫などがあるエリアにたどり着く。

 特に後者の施設は区切りがなされてなく、大部屋に施設が雑に建造されていた為フロアに仕切りや扉があまり見受けられない。


 「なぁ、俺等ココに残ってていいのか?」

 「物事なんだって後詰めが必要なんだよ、表で治安局の連中と持久戦してる間に奴らが一工夫して俺達を後ろから……なんてされたら困るだろ?そのた――」


 ペラペラと明後日の方向を向いて喋るヤツの腕を切り落として、首を刎ねる。

 血の噴き出る音や死体、装備の倒れる音がした。


 「おい!大丈夫か!」

 私はそこから離れ、もう一人の背後を完全に捉える。


 「な、なんなん――ゴフッ……血――」

 彼の胸部を銃剣で貫通させる。

 「剣?な、なんで……」

 胸部から剣を生やした世にも珍しい男の首を1080度捻じ曲げる。

 また音が鳴ったがそれを聞くものはその場に私以外いなかった。


 奴のホルスターに仕舞ってあった[N92]を取り出し、ポーチからマガジンを2つ拝借しパンツのポケットにしまう。

 [N92]からマガジンを取り出し、チャンバーをチェックし再装填し左手に持つ。

 豚に真珠、死人に銃火器だ。


 選手用の薄汚いフロアを抜け階段を上がり、一般客が立ち入る層に上がる。

 「くそ!通信がつながらない、なに手間取ってんだ。」

 「それにしちゃ静かじゃねぇか?ドンパチも外だ。」


 観客は逃げたか死んだかのどちらかなのだろう。

 もうこの建物には傭兵しかおらず、外には傭兵にプラスして治安局まで待ち構えている。

 私は階段を登り切らず、壁に身を寄せてそこからそっとフロアの様子を探った。

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2024年9月26日 20:00
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虚心尖兵ナスカ おほ派 @oho-ha

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