第12話 ヒョウサクダンジョン攻略4

2076年9月 ヒョウサクダンジョン


「………せいっ!!」


 赤黒い刀身が気に抜けた掛け声で振り下ろされる。

 ハーレイの胸元目掛けて飛び込んできた、角の生えた白いウサギは硬そうな角ごと真っ二つになっていた。


「………おぉー!いい剣だねぇ、スノーラビットが綺麗に真っ二つ!」

「だろぉー?什造さんのとこで鍛えてもらった業物だ。」

「俺も欲しいわぁ、それ。」


 ハーレイの持つオリハルコン製の剣にフォールは興味をもったようだ。

 その剣はオリハルコンの独特な光沢ある黒に、稲妻のような赤い線が入っている。まるで生きているかのように脈打ちながら赤く発光しているのはどこか不気味。

 だがその斬れ味、頑丈さ、使い勝手、どれをとっても一級品だ。


「………ハーレイさん。4時の方向にゴーレムです。」


 フォールとハーレイが談笑しながら襲いかかってくる魔物を斬り刻んでいると、肩まで伸ばした銀髪にキリッとした顔つきが特徴的な真面目系美少女のフブキが敵の接近を知らせてきた。

 彼女の役割は基本的にヒーラー、回復役だが何故か索敵の技術も持っているため斥候も兼任している。生存能力の高い珍しいヒーラーとして有名だ。ついでに美少女。


「ゴーレムか………種類は?スノー?」

「はい…………そこまでレベルも高くないかと………」

「じゃあアンカーと紗名しゃなに任せて、俺たちはそのまま前進な。」

「わかりました……!」


 少し離れた距離に現れたゴーレムはこのヒョウサクダンジョンのような極寒の地で出没する無機物系魔物のスノーゴーレムだ。

 スノーゴーレムは体が雪でできており多少の攻撃では周囲の雪で回復してしまう。それでいて並のゴーレムと同じくらいの硬さを誇る。通常の冒険者からすると相手にしても硬いしすぐに回復してしまうためあまり戦いたくない魔物の1つだ。

 だがそんなスノーゴーレムを少人数で難なく倒してしまうのが今回の攻略者たち。


 リーダーのハーレイはフブキからの報告を受けると素早く指示を出した。炎系の魔法を操る強力な魔法士アンカーとドM変態タンク紗名しゃなならば余裕だろうとの判断だ。

 指示を受け取った2人はすぐに動きスノーゴーレムに接近する。


紗名しゃな……!しっかり抑えてろよ!!」

「わ、わかってますよ……!そ、それより私ごと燃やしてくれるんですよね!?」

「なんでだよ!?」


 昭和のヤンキーみたいな赤髪のリーゼントの男、アンカーが、すでに極寒にも関わらず薄着で盾を持った見た目は完璧美女、紗名にスノーゴーレムの動きを止めるように叫ぶ。

 彼らのことを何も知らない人がこの光景を見ると、ヤンキーが美女相手に外道なことをしているようにしか見えないが実際はドM過ぎて味方からもぞんざいに扱われている彼女をアンカーが正しく使っているだけである。

 EPOで感じる痛みに快感を覚えてしまったがゆえに生み出された怪物の最近のトレンドは火で焼べられることらしい。意味わからん。


”ドガッ…!!”


「……ッ!んぁっ!?……はぁ……はぁ……効くわね……!」

「なんで殴られて興奮してんだ!?さっさと退けよ!!」


 紗名はスノーゴーレムからの豪快なパンチをまともに食らったというのに顔を恍惚とさせはぁはぁさせている。

 すでに魔法の準備を完了させ後は放つだけなのに痛みに興奮してる紗名にツッコまなきゃいけないアンカー。


「………チッ!ちゃんと避けろよな!”豪炎球”」


 律儀にもそう言って紗名の頭上を通り越すようにして巨大な火の球を放った。

 豪炎球とは火属性の魔法の1つで、扱うには高度な魔法に対する理解と精密な魔力の操作が求められる。

 現地人NPCに扱える者はほんの一握りとまで言われているその魔法をアンカーは素早い構築で発動させる。


”ドォォン!!”


「うわっひゃぁー!!あちっ!あちっ!うへ、うへへ、でも気持ちぃ………」

「………キモいな。」


 放たれた豪炎球はスノーゴーレムに直撃し塵一つ残さず燃やし尽くした。周囲にはクレーターができ、発生した熱で雪を溶かしている。

 ついでに紗名しゃなにも余波で火が燃え移っているが何故か興奮している。純粋にやばい。アンカーもポロッとキモいという一言が漏れ出ているくらいだ。


 アンカーと紗名しゃなの2人はスノーゴーレム討伐後、と言っても1分くらいしか時間をかけていないのだが、すぐにハーレイたちの下へ戻った。

 追いついた時には中層への入口付近まで来ておりかなりの速さで進行していることがわかる。


「おー、お疲れ様……!なんで紗名しゃな燃えてんの?」

「俺の魔法を避けねぇからっす。」

「だ、だってー………」


 紗名しゃなは体をくねらせて芋虫みたいな動きをしている。やはりキモい。見た目は良いのに。


「……………そうか。取り敢えず中層に行こうか。」

「はい。」


 ハーレイは紗名しゃなを無視することにした。

 そのままメンバーの点呼を取って中層へ向かう大きな洞穴へ足を進めるのだった。


――――――――――


「ぬおおぉぉぉおおお!!!寒ッッ!!」

「ジャバちゃんうるさい!!魔物が寄ってくるじゃん!!」

「き、貴様もうるさいだろうがッ!!それに大声出さないと風で聞こえんッ!!」


 中層へ入っておよそ10分。猛烈な吹雪とマイナス40度はありそうな気温にジャバウォックと俺は我慢の限界を迎えそうだった。

 上層がぬるく感じるくらいに中層の寒さは酷かった。魔法瓶に入れてきた飲水はとっくに凍っているし、ジャバウォックが連れてきたワイバーンも寒さで動きが固いし、本格的にやばい。

 一緒に来ているハーレイたちが何にも言わないのが異常なのだ。俺達はおかしくない。いやよく見たら鼻水垂らしてるし、手とか震えてるわ。痩せ我慢してんのかも。


 と、今の状況だけど、俺達はジャバウォックの連れてきたワイバーンにはまだ乗らず下層へ向かうために、もはや雪山と言うべき地形を歩いている。

 当然魔物は襲ってくるし吹雪でろくに視界を確保できない。だがまだそこまで体力を消耗しているわけじゃないし、まだ進行には問題ないはず。


「ハーレイ君ッ!中層はそのまま突き進むんだよね!?」

「ああッ!下層からは採掘ポイントまでワイバーンで行く!!それまではワイバーンに負担をかけたくないからなッ!」


 当初の予定では中層もワイバーンで移動だったがワイバーンの体力的に下層からということになった。

 ハーレイたち、クランの目的は下層の一部ポイントで入手できる鉱石がメインだ。たしか白茈玉鋼鉱だったっけ?少しだけ見せてもらったけど淡い紫色の鉱石でパッと見た感じだと光沢のせいか宝石のように見えた。

 そしてあわよくば氷竜の討伐と竜種の素材が出来ればいいなぁって感じだったはず。


 そんなことより…………寒いなぁ。

 これでもだいぶ着込んでるし装備もかなり高性能なやつだから暖かいはずなのに。不思議だなぁ。

 俺達は寒さに震えながら下層目指して歩いていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Endless Possibilities Online〜悪役系主人公頑張ります〜 烏鷺瓏 @uroron

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ