第一章 落第から始まる新たな物語 2
セリオス学園を退学したルミナは、再入学試験を目指しながらも、まずは生活費を稼ぐ必要に迫られていた。学園にいた頃は寮費が無料で、仕事も紹介してもらえる恵まれた環境にいたが、今は自分で住む場所と仕事を見つけなければならない。そんな中、彼女が選んだのは、学園からそう遠くないリスティアの街だった。
リスティアは大陸屈指の商業都市であり、港と市場が盛んに発展している。多くの商人や旅人が行き交い、様々な仕事が溢れている街だ。再試験を受けるために学園へ戻るのも比較的簡単で、ルミナにとっては理想的な場所だった。
「ここで仕事を見つけて、なんとか生活を立て直さなきゃ…」
そんな決意を胸に、ルミナはリスティアの街へと足を踏み入れた。港から運ばれてくる商品が所狭しと並べられ、商人たちが活気に満ちた声で客を呼び込んでいる。大きな船や賑やかな露天、異国の商人たちが街に独特の色を添えていた。
「すごい…まるでお祭りみたい。」
リスティアの喧騒と活気に圧倒されながらも、ルミナは興味津々に街を見回す。学園での静かな生活とは違い、ここでは自分で道を切り開く必要がある。それを思い知らされ、少しだけ不安を感じつつも、ルミナは強い意志で前を見据えた。
「まずは、仕事を見つけないと…」
彼女は自分に言い聞かせるように、リスティア商人ギルドへ向かって歩き出した。商業都市であるこの街なら、様々な仕事が見つかるはずだ。ギルドで求人情報を見て、仕事を得ることが最優先。再試験に向けて生活の基盤を作るためにも、ここで何とかしなければならない。
やがて、目の前に巨大な石造りの建物が現れる。それがリスティア商人ギルドだった。
リスティア商人ギルドの重厚な扉を開けると、賑やかな外の喧騒とは一転して、内部は落ち着いた雰囲気が広がっていた。木製の受付カウンターには、いくつかの窓口が設けられており、忙しそうに働く職員たちが見える。ギルドの壁には求人掲示板があり、様々な仕事の情報がびっしりと貼られていた。
「こんなにたくさんの求人があるんだ…」
ルミナは驚きと期待を胸に、掲示板に近づき、じっくりと掲示された求人票を見始めた。魔法使いとしての仕事もいくつか見つけることができた。
「魔法使い関連の仕事がある…!これなら私にもできるかも。」
ルミナは掲示板からいくつかの求人をチェックし、仕事内容や条件を読み込んでいく。商船の護衛や、魔法の材料を使った工芸品の製作補助、さらには街の治安維持のための巡回業務など、多種多様な仕事が並んでいた。
「まずは問い合わせてみよう。」
彼女は掲示されていた連絡先に足を運び、まずは護衛の仕事を尋ねてみることにした。職場は港近くの商会だった。到着すると、ギルドの受付嬢に案内され、担当者と面談することになった。
「申し訳ありませんが、護衛の仕事はもう少し経験豊富な魔法使いを求めています。」
担当者は冷静に断った。ルミナはまだ経験が少ないことは自覚していたが、心のどこかで自信を持っていたため、思いの外ショックを受けた。
「…そうですか、ありがとうございました。」
気を取り直し、次は工芸品の製作補助の仕事を尋ねることにした。ルミナは再びギルドに戻り、今度は魔法工房を訪ねた。工房の入口は職人の手で飾られた繊細な装飾が施され、魔法の気配が漂っている。
「こちらのお仕事に興味がありまして…」
しかし、工房の責任者は年齢や実績が不足していることを理由に、再びルミナを断った。
「申し訳ないけど、もう少し魔法の実績を積んでから来てもらった方がいいね。」
その言葉に、ルミナの肩はすっかり落ちてしまった。
「やっぱり簡単には仕事は見つからないか…」
街は賑やかで、たくさんの仕事があるかと思っていたが、魔法の実力や経験が不足している自分には、なかなか扉が開かれない現実が突きつけられる。それでも、彼女は諦めるわけにはいかない。学園に戻るためには、まず生活を安定させる必要があるのだ。
「もう少し、他の仕事を探してみよう…」
ルミナは再び掲示板の前に立ち戻り、次の候補を探し始めた。
掲示板にはさまざまな仕事が張り出されているが、魔法使いとしての経験を持つ彼女にとって魅力的な仕事は多くない。あるいは、経験や実績が求められすぎていて、今の彼女には手が届かないものばかりだ。
「どうしよう…」
ため息をつきながら、ルミナは何度も掲示板を見直す。いくつかの魔法使い関連の仕事は問い合わせたものの、年齢や実績の少なさから断られ、気持ちは次第に重くなっていった。
「もう少し簡単な仕事でもいいから、生活費を稼がなきゃ…」
思案しながら、掲示板の隅に目をやると、小さな紙切れに「酒場スタッフ募集」と書かれた求人が目に入った。仕事内容の詳細はあまり書かれていないが、「住み込み可」「未経験者歓迎」の文字がルミナの心に響いた。
(住み込みができて、生活費もカバーできるなら…)
魔法に関係ない仕事だが、まずは生活を安定させる必要がある。ルミナはその求人をじっと見つめ、思わずつぶやいた。
「これなら…私でもできるかも…」
ちょうどその時、ギルドの受付嬢がルミナの様子に気づき、声をかけてきた。
「その求人に興味があるんですか?」
ルミナは少し驚きつつも、頷いて答えた。
「ええ、少し興味があって…。この酒場スタッフの仕事について何か知っていますか?」
受付嬢はにこやかに微笑みながら、求人について説明を始めた。
「ああ、その求人はリアムさんの酒場ですね。リスティアの港湾地区にある小さな酒場で、最近人手不足らしくて。リアムさんは気さくでいい人ですよ。住み込みもできるので、生活が不安な方にはちょうどいいかもしれません。」
ルミナはその言葉を聞いて、少し安心した。住む場所と生活費の問題が解決できれば、再入学を目指すまでの時間をうまく過ごせるはずだ。
「港湾地区にあるんですね。ありがとうございます、早速行ってみます。」
受付嬢に礼を言い、ルミナはギルドを後にして港湾地区へと向かうことにした。
落第少女のキッチン戦記 @saikayuto
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。落第少女のキッチン戦記の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
近況ノート
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます