22 争いなんて無かった


砂の鱗が剥がれる前の夜明け、

風は記憶を運ぶのを忘れ、

海の底では無色の魚が、

互いの影を撫であう。


折りたたまれた虹の切れ端、

溶けた時間は滴となって降り、

その音さえ誰も知らない。


石畳の隙間に眠る夢は、

一度も目覚めたことがない。

太陽と月がすれ違いながら、

「昨日」という言葉を

落とさずに握っていた。


噛み合わない歯車もなく、

凍りつく瞳もない。

ただ、光と闇の境界は、

あいまいな霧のように溶け、

輪郭さえ浮かばないまま、

世界は音もなく巡った。


争いという名の鳥は

羽ばたくこともなく、

誰も知らない空を

通り過ぎた――

まるで最初から、

飛ぶ必要などなかったかのように。

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❇️謎の抽象詩❇️ ポエムニスト光 (ノアキ光) @noakira

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