まさか江崎邸?!

心地よい疲労感を感じながら阿須那の横で揺られながらボーっとしていたら、こないだ途中から大きさに驚かされたお屋敷に差し掛かった。

こないだはあんまりはっきりと見えなかったけど、ここの正門てどんなんやろう‥‥

――――今日は見てやろう。


それはすぐだった。そりゃあこないだみたいに後から気が付いて「何処?」ってなったら分からないぐらい、この道からすれば最初の方だった。より電車の駅に近い方に向いて玄関が作られたのかなあ。


意外とそこまで大きな『ここでございます!』的な玄関ではなく、今時にしては地味な、そして昔の風情を残す玄関だった。


石造りの階段を数段登ったところに武家屋敷を思わせるような佇まいの玄関。瓦葺の屋根に両開きの木製の大戸口。脇にはまったく対照的で、和モダンを思わせるような茶色の木製の引き戸に小窓の部分にエトワールがあしらわれている。指でタッチできるところが存在するのでスマートキーで開閉できるのだろう。オートロックのドアかな。ここのお屋敷は古き良き雰囲気や趣を残しつつ、今風の和モダンなタッチに変換して行くセンスに優れた家だなあと、この玄関辺りを見ただけで感じる‥‥



「‥‥?!阿須那!!ちょっと止まって!!」



私の声に驚いて、ブレーキを踏む。車内から急ブレーキの警告音が鳴る。

「どうしたの?」

おかまいなしに私は車から飛び出して、あの家の玄関に走り寄る。



今見えたのは、、、表札。



私の見間違い?

それとも??



前に立った。両開きの木製の大戸口‥‥向かって右上に古典的だが汚れがない木製の縦書き表札。

そこには――――




『江崎』と書かれている。




「は‥‥」

思わず声が口から漏れ出る。

――――まさか、そんなこと‥‥たまたまだよね?

たまたま同名なだけだよね。降りた駅も‥‥ここの最寄り駅だけど。。。

この辺住宅街だから、江崎なんて名前、他にも居てるよね‥‥?

勿論家だけで人を判断するつもりなんて、全くないが、もし江崎君がここの御子息様だったら‥‥



――――ホンマものの王子様やんかあ。



そんな人に私が釣り合うわけ、ますますないやんかあ。

私みたいな普通の庶民的な家で住んでいて、そのくせ悪い方にばっかり流されて結局勉強もできずにアホになって、不要な経験ばっかり増えて、最後は半グレに追われる身になってしまった私となんて。。。

確認したい‥‥いや、してどうする?

自分の中で意見が対立する。既に不釣り合い確定の、少女漫画から飛び出してきたような王子様キャラやのに。今更もうひとつ差をつけられても大したことじゃあ‥‥ないとも言えないかあ。

「お姉ちゃん?」

阿須那が車から降りて私の横に来た。

「急に大きな声出して、ここの財閥の家がどうかしたん?」

「あ、いや‥‥何でもない」



――――財閥‥‥財閥の息子?そんなことないやろう‥‥確かにええとこの子、という雰囲気は凄く感じたけどさあ。だからと言ってこんなお家の息子さんだとかはさすがに‥‥ところで、財閥って何?


―――――――――――――

第一巻 完結 第二巻へ続く。

ただいま連載中です。

よろしくお願いいたします。

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貸借一致のカタルシス~あなたといつまでも一緒にいるために~ 第一巻 木村サイダー @cider_k

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