第8話 ぐうたらJK、おかえり

 ──ピチュン、ピチュン……。(小鳥のさえずり)


里子「(はきはきと)……うん、うん。

  来週のスケジュールはそんな感じで大丈夫。

  副部長、いつも表作ってくれてありがとね」




 ん……あれ? 俺、いつのまに寝ちゃってて……。

 なんか、頭が柔らかいような硬いような……。




里子「地区大会、超キンチョーするねー。3年生はこれが終わったら

  引退だし。……ね、みんなでひとつでも多く勝とうね。

  ひとつでも上の大会にみんなを連れていって、

  うちの学校の取り柄は勉強だけじゃねーぞ! ってところを

  他の学校にも、うちの先生たちにも見せつけてやろーよ」



 ……この声は……里子、先に起きたのか?

 はきはきして、いかにも学級委員ですって感じで喋ってて……。

 なんか、懐かしい感じだな……。



里子「わざわざありがとうねー、電話かけてくれて。

 明日は学校来たら、すぐにそれ印刷しちゃってオッケーだから。

 うん、ありがとう。じゃ、また明日ね。ばいばーい」


 ──ピッ。(着信を切る音)






信治「里子……?」


里子「(ぼけっとした調子に戻して)あ、信ちゃん。おはよー」


信治「お、おう……おはよ……え、これ……、

  もしかして、膝枕……か?」


里子「今日は信ちゃんの方がお寝坊さんだね? えへへ。

  はいっ、あーん。朝ごはんですよー」


信治「え? あ、おー……んむ、ぐ……(果物のシャクシャク音)

  なんだこれ。リンゴ?」


里子「うん。昨日のお中元の残り。美味しい?」


信治「あー……うん。美味しい、けど……」


里子「ね、みてみてーこれ。初めてウサギさんに

  切ってみたんだよねー」


信治「お、おー……本当だ。ウサギさんだ」


里子「コサックの新しいお友だち、ホーランドちゃんでーす。

  なんちって。どうかな? ちょっとお耳が不細工に

  なっちゃったかもだけど……かわいい?」


信治「……ああ。かわいいな」


里子「(嬉しそうに声を弾ませて)へへっ。へへへっ。

  そうでしょー。かわいいでしょー(シャクシャク)」




 ──ギシ。(信治がベッドを起き上がる音)


信治「その様子だと、昨日めいっぱいぐうたらしたおかげで、

  今日はいつものしっかりさんに戻ったって感じか?」


里子「(素っ頓狂に)……へっ?」


信治「なあ、昨晩ちょっと考えたんだけどさ。夕方に母さんたちが

  帰ってくる前に、どっか外へ遊びに行かないか?

  動物園とか、水族館とか……とにかく、里子が行きたい

  ところなら俺はどこでも」


里子「(きっぱりと)いーやっ」


信治「そうだよな。小学校は委員長、中学は生徒会長、

  高校は部活でエースな優等生のお前が、せっかくの日曜日まで

  ずっと家でごろごろなんてつまらな……って……え?」


里子「いーや。家からは出ません。(だんだん元の調子に戻って)

  今日の里子はリンゴをウサギちゃんに切るの、

  超がんばりました。だから今日はもうエネルギー切れです。

  今日も一日、がんばりません。信ちゃんと一緒に

  ぐうたら……するもんっ!」


信治「え……ええ? いいのかよ、2日連続でそんな」


里子「ていうか、里子が優等生って何? 知らなーい。

  学校でも家でも、しっかりなんかしてないもーんだ」


信治「え? う……嘘つけ! だって、いまお前、誰かと電話して」


 ドタドタッ!(床を踏み鳴らす音)


信治「ちょ……里子! いきなり抱きついてくるなって!」


里子「やだやだー! お外暑いよー! コサックだって、

  日本の夏に連れてってたらすぐカピカピになっちゃうよー!

  夏はエアコンの部屋で永久冬眠するのが

  キツネとキツネ見習いの習性だもーん!」


信治「なんだよその習性!? ……わ、分かった、分かったから!

  じゃ、じゃあせめて、その寝間着は着替えよう! な?

  昨日昼に着てた服だって、まだ洗濯してないだろ?」


里子「やだー! お洗濯めんどっちー! 明日でいいー!

  それかコインランドリーでいいー!

  信ちゃんと一緒の日くらい……じゃなかった、休みの日くらい、

  お家でめいっぱいだらだらしたいよー!」


信治「り……里子……」


里子「もっと里子と遊んでー! もっとお世話してー!

  里子とコサックの保護者になって、アイドルのリツキちゃん

  みたいに、キツネ見習いの里子をもっといっぱい

  お世話して育てて、娯楽と堕落の限りを尽くさせてよー!」




 ペチ! ペチ!(コサックの手で信治を叩く音)


里子「んこー! んこー!」


信治「はあ……ったく。なんなんだ、いったい?

  しばらく面倒見てなかった間に、

  なんでそんな甘えん坊になっちまったんだか……」

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ご近所さんのぐうたらJKと過ごす、インドアな休日 仲野ゆらぎ @na_kano

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