第7話 ぐうたらJK、お泊まり

 ──ブゥウウン……。(車のエンジン音)


里子「んこぁ!? またタイヤがパンクしちゃった!

  もー、なんで里子にアイテム投げてくるのー?」


信治「ほら、そろそろ追い抜くぞ」


里子「えーダメダメ! せっかく信ちゃんより

  前に付けてたのに……(悲痛な叫びで)

  ああー待って! 行っちゃやだー!

  里子を置いてかないでよ、信ちゃーん!」




 テッテレー!(レースの勝利音)


里子「あ……! んぐあー! また負けたー!」


信治「はっはっはー! ゲーマー歴10年の

  この俺に勝とうなんて、1世紀早いわー!」


里子「そこは普通に100年と言えー! ううー……、

  なんで全然勝てないの? カードも格闘もレースも……、

  人生ゲームまで! あんなの、ただの運ゲーだよね!?」


信治「そ、そうだな……里子、お前ってひょっとして、

  ゲームあんまり向いてないのかもな……」


里子「むうー……信ちゃんのいじわる!」


 ボフッ。(枕を投げつける音)


信治「おい、俺の枕を粗末に扱うな」


里子「いじわる、いじわる、信ちゃんのいじわるー!

  (ボフッ、バフッ、と何度も枕を叩きつけて)

  ちょっとくらい手加減してくれたって、

  バチは当たらないと思いまーす!」


信治「悪いな、里子。俺にとってゲームは遊びじゃ

  ねえんだ。相手が素人だろうが女子高生だろうが、

  仕事で手ェ抜くわけにはいかないんでな」


里子「うっわー……仕事だってさ。

  (小声で)やっぱり信ちゃん、プロゲーマーとか

  VTuberとかになるつもりじゃん」




 ボスン。(ベッドへ飛び込む音)


里子「ふんだ。別にいいもん。

  ゲームで勝てなくたって、リアルではお勉強も運動も、

  友だちの多さでも信ちゃんには絶対負けないもん」


信治「お、おい……友だちが少ないとか、

  俺のこと勝手に決めつけるなよ」


里子「見栄を張らなくたっていーんだよ? 信ちゃんに

  お友だちがいなくても大丈夫。これからはもっともっと、

  里子が一緒に遊んであげるもん」


信治「え? これからは、って……」


里子「んー……でも、なんだか眠たくなってきちゃった。

  もう10時かあ。明日も信ちゃんといっぱい遊びたいし、

  そろそろ寝ちゃおっかなー。

  今日は信ちゃんのお家に泊まっていいんでしょ?」


信治「あ……ああ、まあ、そう、だな。

  (しどろもどろに)外はもう真っ暗だし……女子高生がひとりで

  帰って寝るのは危ないから、面倒見るついでに

  泊めてけって……母さんに言いつけられてるんでな」


里子「へっへー。信ちゃん家でお泊まりなんて小学生ぶり〜。

  着替えとか、歯ブラシとか、お泊まりセットなら

  ばっちり持ってきてるよー」


信治「お、おう……そうか」




 里子のやつ、俺との今日の約束は聞かされてないって

 言ってたのに……そういう準備は抜かりなくやってたんだな。

 起きてもしばらくの間は、あんなにぐでーってしてたのに、

 いつのまに……。結局、キツネの格好のままだし。


 もしかして最初から、今日は泊まっていくつもりだったのか?




里子「うー、疲れたー。でも、楽しかったなあ。

  ね、信ちゃん。信ちゃんは、里子と一緒にいて楽しかった?」


信治「……ふん。まあな」


里子「ふっふーん。照れちゃってー。

  コサックも、信ちゃんと遊べて楽しかったって

  喜んでるよ。明日は何しよっかなー。またゲームかな?

  それともドラマとかマンガとか……あ、そっか。

  昼に撮った動画の編集もやりたいよねー。

  明日も楽しいこと……いっぱい……ふぁあ……(あくび)」


信治「ん? お、おい。まだ寝るなよ?

  風呂にまだ入ってな……っていうか、それ

  俺のベッドだぞ! お前がそこで寝るのかよ?」


里子「んー、お風呂は……明日でいーや」


信治「いいのかよ! お泊まりセット持ってきたんだろ?」


里子「今日はもう、エネルギー切れです……ベッドはー、

  ベッドはねー……んー……ふふ」




 ──ギシ。(ベッドが軋む音)


信治「り……里子?」


里子「(大人ぶって落ち着いた声で)信ちゃん?

  里子とコサック、一緒のベッドでぐうたら……しよう?」

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