救世主発見器
古橋レオン
救世主発見器
「よし、これで完成だ」
魔法使いは誇らしげに呟いた。彼の視線の先には、七つの美しい剣が、七つの岩に突き立った格好で、工廠の天窓から差し込む暖かな陽の光の中に輝いていた。
「この剣たちが必ず「真の王」を見つけ出してくれる... これでようやくこの国にも平和が訪れよう」
立派な白髭を擦りながら満足気に頷くと、魔法使いは剣と岩を一組ずつ馬車の荷台に積み込み、山をゆっくりと下っていった。
これはただの剣と岩が七つずつ、ではもちろんない。この魔法使いがその一生涯を捧げてはじめて創り出すことができた世紀の発明品だ。七本の剣は全て彼の手によって一から鍛えられ、七つの岩は全て彼の手によって名だたる山々から切り出されたものだ。そしてこの剣と岩には双方に魔法が幾重にもかけられ、この岩から剣を抜くことができるのは、この乱れた国を平和へと導くだけの器を持つ者、つまり魔法使いが「真の王」と呼ぶ人物唯一人なのである。剣が突き刺さっている岩は魔法使い本人を除けば誰にも破壊することも、その場から動かすことさえもできない。「真の王」の証である剣を手にするには、自らの手で剣を岩から抜くほかない。まさに欺きようのない、究極の救世主発見器なのだ。
魔法使いが国の七ヶ所に散りばめた剣たちの噂は瞬く間に国中に広がり、自分こそが新しい時代を創る者であることを証明するべく、日々多くの者たちが剣を抜こうとやってきた。だが「真の王」がすぐに現れるはずもなく、いつまで経っても七本の剣が岩から抜かれることはなかった。しかし、その間も魔法使いはひたすら待ち続けた、来たるべき「真の王」との対面に思いを馳せながら...
そして幾月か経ったある日の早朝。魔法使いは蹄の音で目を覚ました。どうやら麓のほうからから騎馬の一団が山道を彼の工廠のある方へ向かってきているようだった。
「まさか、遂に「真の王」が現れなさったのか?」
魔法使いの胸が高鳴る。
ここは人里離れた山の頂上。魔法使いに用がなければまず近くすら通りかからないような場所だ。
彼の脳裏に、従者を引き連れた「真の王」が馬に跨り、あの剣を片手に勇ましく山道を一直線に駆け上がってくる様子がありありと浮かび上がった。
蹄の音が工廠の眼の前で止まった。魔法使いは急いで寝巻きから着替えると、興奮で震える両手で工廠の扉を開け放った。
「真の王」はそこに佇んでいた。
眩しいほどに美しい白馬に跨り、磨き上げられた鎧に身を包んだ青年。登り始めた太陽にも勝るほどの輝きを湛えたその両目は、遠くしかし明るい未来を見据え、全身からは、彼よりも何倍も多く歳を重ねてきた魔法使いさえも軽く圧倒されてしまうほどの威厳を漂わせている。そしてその手にはあの剣が力強く握られていた。
だがただ一つ、問題が有った。この哀れな魔法使いの前にはそんな理想的な若者が、七人も並んでいたのである。
初めの数秒間、彼は想定外の事態に、ただ呆然とその場に立ち尽くしていた。しかし、太陽が地平線を離れ、辺りがもう少しばかり明るくなったとき、彼はようやく何が起きてしまったのかを悟った。すなわち、七つの剣がそれぞれ別々の「真の王」を見つけてきてしまっていたのだ。
「まさか、七人も「真の王」の器を持った者がいたとは...」
そこまで言うと魔法使いは白髪頭を抱えた。
「困ったな。私がこの剣を七つではなく気まぐれで八つ創っていたら、今私の眼の前には八人の若者がいることになっていたかもしれない、いや、きっとそうなっていたに違いない。こうも「真の王」がたくさんいたのでは収拾がつかない。かと言って新たに剣を鍛え、岩を切り出し、これよりも更に強力な魔法を何重にも施し、ここにいる「真の王」たちの内でも一人にしか抜くことのできない剣を創ることなど、私に残された時間では到底無理な話だ。遂に魔法の極致に達することができたと思っていたというのに、これから私は一体どうすれば良いのだ?」
技術の探究に果てはない。
救世主発見器 古橋レオン @ACE008-N
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