沸騰する祭×去らない熱
ちかえ
お祭りを楽しむ長老陛下
「アリッツ様、お祭りも巡るのですか?」
「もちろん。何のために来たと思っている?」
戸惑うようにおずおずと尋ねてくる側近に、アイハ王国の元国王、ハシント・アリッツ・ド・アイハは平然と返す。
わざわざ国境を越えてお忍びでこの国に来たのだ。楽しむべきものは全力で楽しむべきだろう。側近は呆れたようにため息をついているが。
とりあえず、屋台の工芸品を覗く。
ここはハシント・アリッツの住むリスティア大陸と東の大陸の間にある島なので、どちらの影響も受けていて、面白いデザインになっている。こういうのを見ているのは楽しい。気に入った置物も一つ買ってみた。
今日はヴェーアル王国という魔族の国の王妃の懐妊発表の祝いの場に来ている。先ほどまで馬車のパレードを見物していた。それも終わったので、王都の祭りを本格的に楽しむ事にしたのだ。とはいえ、昨日も楽しんだが。
ハシント・アリッツも曽祖父の婚姻で魔族を引いているので、ここに来るのはなんら不思議ではない。でも、人間では一番の長寿で、おまけに『大陸一の権力者』という大層な扱いをされているので、こんな風に気を使われてしまうのだ。
それにしても王都は大賑わいだ。
十数年前に訪れた時はこんなに賑やかではなかった。先の王が病に倒れていたからだ。国民には詳しくは知らされていなかったそうなので、表向きには普通に見えたが、どこか国内の雰囲気が暗かった。
それが、今はこんなに明るい空気が漂っている。新しい王の元で気分も一新したに違いない。
他国から人間の商人も来ているようだ。東の大陸の出身であろう人間の姿も見える。この国の隣国とは仲が悪いので閉じているが、その他の国とは交易をしているようだ。いいことだ。
お忍びという事でこっそりだが、この国の国王夫妻とも会った。魔王も、王太子だった頃はとても張り詰めた雰囲気を持っていた。だが、少し、丸くなったような気がする。
それは彼の横にいた妃の影響なのだろう。親戚としては『ありがとう』と言いたいが、そこまで近しくはないし、かなり影響力のある自分がそんな事を言ったら事が大きくなりそうなので言わなかった。
でもだからこそ、全力で祭りは楽しむべきだ。これはその魔王妃の懐妊のお祝いなのだ。自分にも祝う気持ちがあるのだからそうするのは当たり前だ。
普段より二つ多く刺さっていると宣伝している店の串焼きを買って食べる。もちろん、魔術で毒見はした。側近もしてくれている事だろう。毒などひとかけらも疑ってはいないが。
「美味しい」
「ど、どうもありがとうございます」
店主が恐縮したようにそう言う。お忍びなのに、自分が誰だかは知られてしまっているようだ。
楽しそうな雰囲気を全力で味わいながら、ハシント・アリッツは次の店に向かった。
沸騰する祭×去らない熱 ちかえ @ChikaeK
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