第21話 あにまるVTuber~ず!
てんこちゃんの『歌ってみた動画』。
ライブ配信サイトのカウントダウンと共に、てんこちゃんの歌声とまつりちゃんのイラスト、そして、かなでちゃんとわたしの努力の結晶が、全世界に公開されます。
リアルタイムで流れるMV(ミュージックビデオ)。
コラボ配信から移動してきたリスナーさんが、たくさんコメントをしてくれます。
【歌ってみた動画公開中のコメント】
:てんこちゃんの歌声いいね
:すごく気合い入ってない?
:いつもの歌声もいいけど、今回はとくにやばいね!
てんこちゃんは、【妖狐術】で防音結界まで張って、プロ顔負けの収録をしていたからね。当然だよ!
もちろん、まつりちゃんに関するコメントもあります。
:イラストの枚数やばくない!?
:歌ってみた動画の範囲を超えているよ
:こんな枚数のイラスト、いつ描く時間があったの
まつりちゃんは【古狸術】で分身をして、短時間で何枚もイラストを描いていたからね。本当にすごいよね!
そして、あっという間の、『歌ってみた動画』の三分間は終わり。
もちろんこれは、動画公開中のライブでの話。
ライブ終了後も、リスナーさんがMVを、何回もリピートしてくれています。
「すごい、どんどん再生数が回っていくよ!」
『歌ってみた動画』を公開してから、一時間も経っていないのに、もう10万再生もされていました。
「初めての『歌ってみた動画』なのに、もうこんなに再生されているコン」
「気合いを入れてイラストを描いて、本当に良かったポコ」
てんこちゃんとまつりちゃんも、予想以上の反応に、とても驚いていました。
でも、一番驚いていたのは……。
「す、すごい」
楽曲を編集した、かなでちゃんでした!
初仕事だったのに、大絶賛。かなり戸惑っているみたい。
書き込まれたコメントでも。
【歌ってみた動画に書き込まれたコメント】
@▼▼▼▼さん
楽曲編集をした、かなでちゃんって何者?
@●●●●さん
楽曲編集プロじゃん
@■■■■さん
実はプロのすごい人とか
九条プロデューサーっぽい編曲だね
「あ、パパの名前」
「かなでちゃん、お父さんと比べられているよ!」
気付いた人すごい! その九条プロデューサーの娘が作っているんだよっ!
「パパに少しアドバイスをもらったから、そこが似ていたんだと思う」
「そうなの?」
「本当は一人で頑張りたかったけど、無理だった。もっと勉強頑張らないと」
かなでちゃんは、本当にすごいよ。今でも十分にすごいと思うんだけど、向上心が高すぎるよ。わたしも、見習わないと……。
さらに、かなでちゃんの想いを後押しするように、まつりちゃんが声をかけてきます。
「かなちゃん! アタシの【ポコPad】を、いつでも使っていいポコよ!」
「いいの?」
「もちろんだポコよ! かなちゃんの素晴らしい楽曲を、これからもたくさん作ってほしいポコよ!」
まつりちゃんの言葉に、かなでちゃんはうつむいてしまいました。
そして、小声で、「やった」と呟いているのを、わたしは見逃しませんでした。
よかったね、かなでちゃん。
「ちなみに、ゆいちゃんみたいに配信もできるポコよ! これを見るポコね」
まつりちゃんは、【ポコPad】の画面を、かなでちゃんの方に向けます。
【ポコPad】のカメラに浮かび上がった、小さなタヌキの顔は、かなでちゃんを見つめていました。ということは……。
「あ、タヌキの私」
タヌキバージョンのかなでちゃんが、【ポコPad】の画面には映っていました。
もちろん、かなでちゃんが瞬きをすると、タヌキのかなでちゃんも瞬きをします。
「最近は、クリエイターさんも配信をしていたりするポコ。かなちゃんも必要なときは、アタシの【ポコPad】で配信するポコよ!」
「あ、でも、それは恥ずかしいかも」
「慣れるとそうでもないポコよ!」
かなでちゃんの配信、ちょっと観てみたいかも。
もし、ライブ配信するんだったら、リアルタイムで観に行くよ。
そして、配信者のかなでちゃんのファン第一号に、わたしがなるんだ!
まつりちゃんの言葉に、かなでちゃんは、照れつつ答えます。
「ゆいかとのコラボだったら、考えてもいいかも」
「ええっ、わたしとのコラボ限定なの?」
わたしなんかより、てんこちゃんやまつりちゃんとのコラボでもいいんだよ!
いや、いっそのこと、四人でコラボでもしちゃう?
なんだか、これからの配信が、もっと楽しくなりそうな気がしてきたよ。
次の配信のことを考えているわたしに、てんこちゃんが話しかけてきます。
「ゆいかちゃん、MV作りは大成功だコン!」
「三人の技術がすごかったから、当然だよ!」
「それは違うコン! ゆいかちゃんの動画編集もすごかったコン! コメントでも褒められていたコン!」
てんこちゃんの言葉に、まつりちゃんも、かなでちゃんも頷いています。
ううっ、ちょっと照れるんだけど。
それは、わたしも頑張ったけど、かっこつけて言わないでいたんだよ……。
心の中で飛び跳ねていたわたしに対して、てんこちゃんは真面目な顔をして、さらに話を続けます。
「それに、ボクたちはゆいかちゃんを見て、とある【言い伝え】を思い出したんだコン」
さらにまつりちゃんが、会話に加わります。
「アタシたち〈獣人〉、そしてゆいちゃんや、かなちゃんみたいな、【識の神】の力を持つ〈人間〉の間には、【言い伝え】があるんだポコね!」
てんこちゃんやまつりちゃん、〈獣人〉。
かなでちゃんとわたし、〈人間〉・
当事者でもある、かなでちゃんも、そばで真剣に話を聞いていました。
「大昔の飛鳥時代に、ボクたち動物は、山の土地を巡って争っていたんだコン。戦争だコン。そのとき、多くの動物が死んでいったんだコン」
「でも、【識の神】の力を持つ〈人間〉が、動物たちをまとめ上げて、それを止めたんだポコ! そこから〈獣人〉が生まれて、【識の神】の力を持つ〈人間〉との交流が始まったんだポコね!」
「えっ、そうだったの?」
衝撃の歴史、発覚。
なんか大昔に、とんでもないことが起きていたみたいです。
スケールの大きさに、ついて行くことができない、わたし。
一方でかなでちゃんは、少し考え込んだあと、「なるほど」とうなずいています。
あ、あれ……。
もしかして、二人の話す、【言い伝え】を理解できていないのは、わたしだけ?
なんでかなでちゃんは、すぐに理解できているの!?
さらにてんこちゃんたちは、衝撃の事実を追加してきます。
「ゆいかちゃんはもしかしたら、そのときの〈人間〉の、生まれ変わりかもしれないコン!」
「ええーっ!?!?」
「だって、仲が悪かったアタシたちをまとめ上げたんポコ! 他の動物たちも信じてくれるポコよ」
【識の神】の力をもっていて、こうして、てんこちゃんたちと話ができているだけでもすごいのに、わたしが、【言い伝え】に出てくる人物の生まれ変わり!?
にわかに信じられないよ。
「わたしはただ、二人が協力したら、もっとすごいものができると思っただけだよ! 生まれ変わりなんかじゃないよ!」
でも……、てんこちゃんたちが言っている、【言い伝え】に出てくる人物の気持ち、少し分かるかも。
やっぱり、みんな仲良くした方がいいと思うから。
だから、動物たちをまとめ上げるために、その人物は頑張ったんだと思う。
そこは、わたしと同じだと、なんとなく分かるよ。
「ゆいかちゃんの、〈獣人〉や〈人間〉同士を結びつける力はとても重要だコン!」
「配信活動でも大事だから、これからも大切にしてほしいポコね!」
「うん、分かったよ! わたし、これからも頑張る!」
わたしが立派なVTuberになったら、たくさんの人とコラボしたいと思っているもん。
だって、大勢でなにかをする配信が楽しいのは、分かっているから。
「あっ、そうだっ!」
わたし、今、良いことを思いついたよ。
わたしたちがさらに仲良くなって、配信者としての人気も高めていく、一石二鳥の作戦。
「わたしたち四人のグループを立ち上げようよ!」
「ゆいか、いきなり何言い出すの?」
「だって、バラバラに活動しているよりも、一緒に活動している方が楽しいよ」
わたしの提案に、かなでちゃんは目をぱちくりさせています。
一方で、てんこちゃんとまつりちゃんは、それに賛同してくれました。
「〈まつり〉と一緒は、少し不本意だけど、グループとして活動するのは悪くないコン」
「〈てんこ〉と一緒は、少ししゃくだけど、グループのファンを作るのは悪くないポコ」
「でしょ?」
一人で活動するよりも、グループで活動して、二人一緒に推してもらえた方が、メリットが大きいもん。
もちろんそこに、コラボ限定だけど、わたしとかなでちゃんも加えさせてもらってね!
とっさに思いついたアイデアだったけど、しっかり意見もまとまりました。
「大手にも負けない、わたしたち四人のグループ。その名も……」
わたしは、高らかに宣言します。
「あにまるVTuber~ず!」
おしまい!
あにまるVTuber~ず! 天音ななせ @amanenanase
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