第8話 陽太と颯の試合: 第三セット


颯と陽太の試合はついに最終セット、第三セットに突入した。両者ともに疲れが見え始めていたが、コートにはまだ緊張感と集中力が漂っていた。観客席も試合の行方に釘付けで、誰もが息を呑んで二人の戦いを見守っていた。


颯は自分の中に湧き上がる決意と、ここまで来た達成感を感じながら、ラケットを握り直した。一方、陽太もまた、颯の成長に驚きつつも、最後まで諦めるつもりはなかった。


第三セット: 第一ゲーム


颯のサービスから第三セットが始まった。彼は陽太の動きをよく見て、冷静にボールを打ち込んだ。サービスエースを狙ったサーブは、見事に決まり、颯が最初のポイントを取った。


「15-0」


「おお、またあの鋭いサーブだ!」翔が興奮して言った。「颯、完全に戻ってきてるな!」


「このままリズムを崩さずにいけば、勝てるかもしれないぞ」と拓海が応援しながら言った。


陽太は颯のサーブを受けながら、静かに彼を見つめていた。彼はすでに颯が完全に感覚を取り戻したことを理解していたが、それでも最後まで戦い抜く覚悟があった。


次のポイント、颯は少し緩やかなサーブを打ち、陽太にリターンさせた。陽太はそのリターンを深く打ち込んだが、颯はそれを読んで逆クロスに打ち返した。ボールはライン際に落ち、陽太がそれに追いつくことができなかった。


「30-0」


「いいぞ、颯!」と翔が叫んだ。「その調子で行け!」


「このセットも、颯が取るんじゃないか?」と他の男子テニス部員が期待を込めて呟いた。


陽太はその声を聞き流し、再び集中し直した。彼は颯の次のサーブに全力でリターンし、ラリーが続いた。颯は相手の弱点を突くように、サイドへのショットを繰り返し、陽太を追い詰めた。そして、最後は強烈なフォアハンドでボールを打ち抜き、ポイントを取った。


「40-0」


「颯、完全に試合の流れを掴んでるな」と拓海が感心しながら言った。「陽太も必死に食らいついてるけど、今は颯の勢いが上回ってる。」


真奈美は静かに見守りながら、微笑んだ。「一ノ瀬くん、やっと本来の力を発揮できてる。彼がここまで強くなったことが本当に嬉しい。」


颯は最後のポイントを取り、第一ゲームを勝ち取った。彼の表情には自信がみなぎっていたが、まだ油断はしていなかった。


「ゲーム、颯。1-0」


第三ゲーム:


続いて、陽太のサービスゲームが始まる。彼もまた、自分の強みを活かすために攻撃的なプレーを展開した。陽太のサーブは鋭く、颯はそれに対応するのに一瞬遅れた。リターンが浅くなり、陽太はそれを利用して強烈なフォアハンドでポイントを取った。


「15-0」


「陽太もまだまだだな」と翔が言った。「このまま引き下がるわけがない。」


「ここからはお互いの精神力が試される」と拓海が冷静に分析した。「どっちが先に心を折られるかだ。」


次のポイントでも、陽太は力強いプレーを続け、颯にプレッシャーをかけた。彼のショットは鋭く、颯の守備を切り崩すようにコートの隅を狙ってきた。颯は何とかリターンしようとしたが、ボールはわずかにアウトしてしまった。


「30-0」


観客席からは陽太への応援も聞こえ始めた。「陽太も頑張れ!ここで折れるな!」


真奈美は心配そうに試合を見つめながら、内心で祈っていた。「一ノ瀬くん、負けないで…」


陽太はそのまま勢いを維持し、次のポイントでも颯を攻め続けた。颯は何とかラリーを続けようとしたが、陽太の強烈なバックハンドに対応しきれず、ポイントを失った。


「40-0」


「これは、陽太が取るな…」と翔がつぶやいた。「でも、颯はまだ諦めてない。」


そして、次のポイントで陽太は冷静にサーブを打ち込み、颯のリターンを巧みに切り返してポイントを取り、ゲームを勝ち取った。


「ゲーム、陽太。1-1」


タイブレークに向けた激戦:


第三セットは、その後も互いにゲームを取り合う展開が続いた。颯は自分のペースを維持しながらも、陽太の強烈な攻撃に何度も苦しめられた。一方、陽太もまた、颯の冷静なプレーに対抗し続け、簡単にポイントを譲らなかった。


「ここまで互角とは…どっちが勝つか本当にわからなくなってきたな」と翔が緊張した声で言った。


「そうだな。二人とも本気でぶつかってる。最後はどちらが精神的に強いかが勝負を決めるだろう」と拓海が答えた。


ついに、第三セットはタイブレークに突入することとなった。両者ともに疲労が見え始めていたが、最後の力を振り絞って戦い続ける覚悟があった。


「タイブレークです」と審判が告げ、観客席からはさらに大きな声援が飛んだ。


タイブレーク:


颯が最初にサーブを打つ。彼は慎重にサーブを打ち込み、陽太のリターンを待った。陽太は力強くリターンしたが、颯はそれを冷静に返し、ラリーが続いた。最終的に、陽太がネットにかけてしまい、颯が最初のポイントを取った。


「1-0」


「よし、颯がリードを取った!」翔が叫んだ。


「でも、まだ始まったばかりだ。このまま集中を切らすな」と拓海が応援した。


陽太は次のポイントでも攻め続けた。彼は颯のサーブを鋭く返し、リズムを崩そうと試みた。ラリーが続く中、陽太が強力なフォアハンドを打ち込み、颯が返球をミスしてポイントを失った。


「1-1」


「さすが陽太も強いな…ここからが本当の勝負だ」と翔が呟いた。


「互いに一歩も譲らないな」と他のテニス部員も感心していた。


次のポイントでは、颯が再びサーブを打ち、陽太がリターンを返す。ラリーが続く中、颯は陽太のミスを誘うように巧みにショットを繰り出し、最終的に陽太がアウトしてポイントを取った。


「2-1」


「いいぞ、颯!」と翔が叫んだ。


「このリードを保てれば、勝機が見える」と拓海が続けた。


しかし、陽太も簡単には引き下がらない。彼は再び攻撃的にプレーし、次のポイントで颯を追い詰め、彼のリターンをミスさせた。


「2-2」


「陽太も本気だな…ここでどちらがリードを取るかが大事だ」と翔が緊張した声で言った。


タイブレークは一進一退の攻防が続き、互いにポイントを取り合いながら進んでいった。観客席は静まり返り、全員が二人のプレーに集中していた。


そして、タイブレークの終盤に差し掛かった。スコアは「6-6」で、まさにどちらが先に2ポイント差をつけるかが勝負を決める状況だった。


颯はラケットを握り直し、深呼吸をした。これが最後の勝負だと感じていた。


「ここで決める…」颯は自分に言い聞かせ、サーブを打ち込んだ。


陽太はそのサーブを冷静に返し、ラリーが始まった。二人は互いに全力を尽くし、コートを左右に走り回った。観客席からは静かな期待と緊張が感じられた。


颯はチャンスを見逃さず、突然のドロップショットを放った。陽太はそれに反応し、全力で前に出てきたが、ボールに追いつくことができなかった。


「7-6」


「よし、颯がセットポイントを取った!」と翔が叫んだ。


「次のポイントで決められるかどうかだ…」と拓海が静かに言った。


颯は自分のリズムを維持し、最後のポイントに集中した。彼は再びサーブを打ち込み、陽太のリターンを冷静に返した。ラリーが続く中、颯は陽太のリズムを崩すために巧みにショットを繰り出した。


そして、最後の瞬間、颯は陽太のショットを逆クロスに切り返し、ボールはラインギリギリに決まった。陽太はそのボールに追いつくことができず、試合は決まった。


「ゲーム、セット、そしてマッチ、颯。8-6」


颯がタイブレークを制し、試合に勝利した瞬間、観客席からは大歓声が上がった。翔や拓海、そして他の男子テニス部員たちは立ち上がり、颯に向かって大声で拍手を送った。


「やったぞ、颯!」翔が声を張り上げて叫んだ。「お前が勝ったんだ!」


拓海も笑顔で言った。「すごい試合だった、颯。まさにお前の実力が戻ってきたな。」


真奈美は静かに微笑みながら拍手を送り、その姿を見守っていた。「一ノ瀬くん、本当におめでとう…」


颯は深呼吸をし、静かにガッツポーズを見せた。彼の中で、何かが大きく変わったことを感じていた。過去のトラウマを乗り越え、再び自分を取り戻すことができたのだ。


陽太も試合後にコートに立ち尽くし、颯に向かって歩み寄った。「お前、やっぱり強いな…。でも、今回の試合でお前がどれだけ本気かがわかったよ。」


颯は少し笑みを浮かべ、陽太の手をしっかりと握った。「ありがとう、陽太。お前のおかげで、俺はまた立ち上がることができた。」


二人はそのまま握手を交わし、観客席からの歓声が二人を包んでいた。これで、颯は新たな自分と向き合うことができるようになった。試合は終わったが、彼にとってはこれが新たなスタートであり、これからの道を切り開いていく決意が固まった瞬間だった。

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ONE SERVE 虎野離人 @KONO_rihito

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