第27詩 【秋のホタル】
この晩夏と秋の始まりの
混沌の中に
曼珠沙華は一重に咲いている
隣町へ抜ける裏山の林道を
ひとり歩いて
多吉はばあちゃんに会いにゆく
こないな夜遅くになってから
こなくて いいから
ばあちゃんは多吉を気遣った
多吉は聞かなかった
栗のいっぱい入った荷物を片手にさげて
夜も更けた林の道を
急ぎ足に歩いた
(かごめかごめ……)
風の音は わらんべたちのお唄
なんと まあ
林道の茂みの中からは
不思議とほのかな灯りが見える
歩いても 歩いても
弱々しい芥子粒ほどの光が見える
(かごめかごめ……)
風の音は わらんべたちのお唄
笹の葉についた光のつぶを
そおっと手のひらに包んで
多吉は茂みを飛び出した
かわゆらしい蓮のつぼみのように
閉じた手を
そっと 胸にたくして開いてみれば
虫は動けど動けど光らない
(かごめかごめ……)
風の音は わらんべたちのお唄
多吉は十月に出会ったこの虫を
白鳥のように
何としてでも飛び立たせたかった
こみあげる祈りがおきて
胸の前の小さな蓮のつぼみは開花した
多吉の手のひらを滑って
虫がころげた拍子に
少年の手のひらの一番星が光った
(かごめかごめ……)
風の音は わらんべたちのお唄
それはふいと舞い上がりかけて
足下のいが栗の抜け殻の中に
よれよれと落ちていった
少年は地より
ホタルの入ったいがを拾い上げ
手のひらに力を込めて
この虫の最後の
渾身の旅立ちを祈った
(かごめかごめ……)
風の音は わらんべたちのお唄
詩集 わらんべたちの夢唄 夢ノ命 @yumenoto
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