第6話 初恋の相手をお世話する今日この頃

「和泉くん?!なんでここにいるの?!」

「なんでって、生物部だからだよ」

俺は神里先輩から新入部員が来ると聞き、楽しみにしていた。その新入部員はまさかの水野さんだった。

「2人は確か、同じクラスだったよね?だったら、仲良くなれない心配は要らないね!僕はこの後用事があるから先に帰るね。じゃあうーちゃんのことをよろしくね。」

そう言って神里先輩は俺と水野さんを置いて帰って行った。

気まずい雰囲気で、水野さんは黙ったまま下を向いていた。俺は勇気を絞って水野さんに話しかけた。

「ねぇ、水野さん」

彼女は黙り込んだまま、顔をくもらせていた。

「あの時、水野さんのこと傷つけちゃってごめん」

「いいよもう。」

「水野さんの事情も知らずにあんなこと言っちゃって」

「俺さ、鈴鹿さんに聞いたんだ。」

水野さんは驚いた表情をしてこちらを見たあとに再び下を向いた。

「鈴鹿さん、水野さんのこと本当によく考えてて、友達思いだなって思う」

「彩はさ、転校して初めて出来た友達なの」

水野さんが口を開けた。

「彩はね、ダメダメな私を変えてくれたの。ちょっとお茶目だけどね笑。」

水野さんは楽しそうに話したあと、こちらを向いた。

「水野さんってそんなふうに笑うんだね」

一瞬、頭の中で昔の水野さんの姿が今の水野さんに重なった。

ガチャ

ドアの開く音がして、誰かの足音が近づいてきた。

「おつかれ!湊音!って水野さん?!」

足音の正体は川崎だった。

「川崎さんもこの部活だったんだね」

「そうだけど、もしかして生物部に入ってくれるの?!やったー!私ずっと水野さんと話してみたかったんだー!水野さん、中学の時からめっちゃ変わったよねー。ビックリしちゃったよ」

「その話はやめろって」

「大丈夫だよ、和泉くん」

川崎は頭の上に?を思い浮かべた後、何かを察したかのように慌てた表情をした。

「ごめん!水野さん!許してくれる??」

「大丈夫。許す許す笑」

「仲良くしてくれる?」

「うん」

「よっしゃー!!!」

「川崎さん、元気だね」

「ねえねえ?雫ちゃんって呼んでいい?」

「うん、別にいいけど、、」

「じゃあ私のことは桜って呼んでね!雫ちゃん!」

川崎は、水野さんに対して馴れ馴れしく、楽しそうに話した。この2人は仲良くやって行けそうで安心だ。

「えっと、桜ちゃんこれからよろしくね。で、この部活ってうさぎのお世話をするっていう解釈であってる?」

「うん!あってるよ!」

「お世話の仕方とか分からないんだけど」

「それなら私が、と言いたいところだけど、ここは1番うーちゃんに懐いてる湊音に聞いてね!」

「名前呼び出来るの羨ましい...」

水野さんさ何かボソッと呟いた。

「ん?なんか言った?」

「なんでも」

「じゃあ和泉くんよろしくねー、私は今日溜まってるドラマ見るのに忙しいから...」

「桜ちゃん、それは忙しくないってことだよね?」

「まあとりあえずお二人さん頑張ってー」

川崎はそう言って去っていった。

「水野さん、飼育について分からないことはある?」

「うーん、分からないことはあるんだけど、何が分からないか分からない。」

「つまり分からないけど分からないことが分からないってこと?」

「そう、分からないところが分からなくて分からないの」

「だれも突っ込んでくれないからやめ時がないね...」

「ふふふ笑」

水野さんはまた笑った。笑った水野さんは昔のような魅力がある。つまり、素が出てるってことなのかな?再開してから少しずつ俺に対して表情が柔らかくなったというか、自然体な水野さんが見えているように感じた。

「じゃあ一から説明するね。この可愛いうさぎはうーちゃん。このうーちゃんの目の前にある2枚のお皿の片方に水、もう片方にご飯を入れる。仕事はこれだけ」

「結構簡単だね」

「殆ど動物に触れ合うだけの部活だからね。」

水野さんはうーちゃんに近づいて、しゃがんだ。

「この子がうーちゃんかー、とってもかわいい。この部活の動物はこの子だけなの?」

「うん。今はね。昔にもう1匹いたらしいんだけどね。」

「なんだかこの部活、楽しみになってきた!」

「撫でてみて」

「うん!じゃあ、失礼します、、、」

なでなでなでなで

「結構懐いてるね、まぁ俺ほどではないけど。」

「じゃあ和泉くん、その自信の証拠を見せてもらおう」

俺はしゃがんだ。

「うーちゃん、コッチおいで!」

すたすたすた、ぴと、キラキラキラキラ

「うわっ、眩しい!」

俺の時だけ何故かウーちゃんの目の輝きが凄い。

「ほんとになついてるなんて、、まいりました。」

水野さんはそういって頭を下げた。

「他に分からないことがあったらなんてをも聞いてね。」


※※※


「なんか、和泉くん喋ってる時の雰囲気も変わった」

私は今日あった出来事を彩に電話で話していた。

「和泉くんと喋ったの?」

「うん。わたし、生物部に入った。」

「え!?せ、生物、部?」

彩は焦ったように私に問いかけた。

「うん、そんなに私が生物部に入ったのが変?」

「いや、そんな事ないよ、うん、なんでも、ない」

「彩どうしたの?」

「なんでもないよ」

「彩はなんの部活に入ったの?」

「私はバスケだよ、中学の時もやってたしね」

「たしか私と違ってスポーツ推薦だったよね?」

「うん。というかさ、和泉くんの喋ってる雰囲気どんな感じだったの?」

「なんか、余裕があった。中学の時らキョドりまくってたのに」

「あの人昔キョドってたんだね笑」

「やっぱり自分の容姿が良かったら自信がつくものなのかな?」

「雫、わたし気づいてしまったかもしれない。」

「何に?」

「雫、今あなたは脈ナシです。」

「はい?」

「でもね、昔の雫に和泉くんは惚れたのかも。昔は雫のこと好きだったから喋る時に緊張してキョドってたかもしれないけど、今は冷めてるから何も考えずに喋ってるのかもね」

「てことは、、私終わった?」

「いや、雫が昔の自分をできる限りで再現すればいいんだよ。」

「でも、私、、、」

「大丈夫、少しずつでいいからさ、和泉の前だけでもいいんだよ。」

「そっか、私、頑張ってみる!」

「うん、応援してるよ」


こうして再び、和泉くんを振り向かせるために水野雫は頑張るのであった。


次回、初恋の相手を思い出す今日この頃(回想回)



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初恋の相手がイメチェンしていた今日この頃 御背中カイカイ @quu1111

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