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僕らは3人で力を合わせ、莫大な署名を集めることにした。最初は無理かもしれないと思っていた。ただ、だんだんと協力してくれる人が増えてきて、署名場所も1ヶ所から10ヶ所まで増えた。なんだか泣きそうになってしまうのはなぜだろうか。目をつぶり、再び開けるたびに署名の数は増えていく。様々な人がこの紙に名前を書くことで想いをぶつけているのだ。もう、縛られないぞという強い想いを。
署名の数は1週間で目標を大きく超え、700人分にまで上った。およそ全校生徒の8割に当たる膨大な量だ。そんな想いを胸に僕らは今、校長室に向かっている。確かに怖い部分はある、ただこの活動は僕らにある権利であり、ある意味義務なのだ。それに、ここまで協力してくれた人たちがいるのだから、大丈夫だ。
険くんが、深呼吸してから校長室のドアを3回ノックする。どうぞという声が聞こえると、険くんを先頭に、僕らは大量の紙とともに校長室の中へと入っていく。
「こちら、嘘をついた際に退学となる校則について、皆からの署名です」
僕らは集まった署名を校長先生の机に勢いよく乗せていった。校長先生は驚いたような顔をしながらも、その署名に目を通し始めていった。一枚にかかれている名前の数は20人分。つまり、今ここには35枚分の紙があるのだ。
「確かに、要件は揃っている……。ただし、最終判断は学校側。それだけは肝に銘じておけよ。これは受け取っておく」
そう、ここまでの署名数を集めても、この校則を廃止するかどうかは結局学校の判断に委ねられるのだ。しかし、このままでは何も変わらず、無意味になってしまう。
「僕から一つ。校則は本来、生徒たちのためにあります。でも、僕は――僕らはこの嘘校則が、安全で楽しい学校生活のためにも、僕らの未来のためにも、存在すべきだとは到底思えません。私たちの青春を傷つけているだけです」
僕は言いたかった言葉を放った。校長先生は黙って耳を傾け、僕を見つめていた。
「そうです、確かに嘘をつくことは良くないかもしれません。でも、嘘で人を楽しませることもできます。それよりも、この校則があるせいで学校生活を送るうえでいつも不安を募らせています。この校則は、生徒たちの輝かしい青春を逆に奪ってるんです」
「そうです。どうか奪わないでください。一生に一度の高校生活を。こんなことで壊されたくない。縛られたくない。もっと意味のある高校生活を送りたい――それが私たち、皆の想いです」
僕が言い終わったあと、玄音と、険くんも必死に校長先生の心をめがけて言葉を投げていた。僕らは、泣きそうになりながら、最後は深くお辞儀をして校長室を後にした。校長先生の顔を見ることは僕らにはできなかった。もう、言い尽くした。あとは、信じる、ただそれだけだ。
僕らの申請から1週間ほどたった頃だろうか、僕らに新しい校則が配られた。その校則には、いわゆる嘘校則に関する部分は見当たらず、服装に関する規定も停学ではなく注意に改訂され、授業中の居眠りに関しても草むしりから真摯な取り組みをすることに変更されていた。すべての箇所を確認するうちに、僕たちが望む校則になっていることに気づいたのだ。
先生に尋ねると、あの日の放課後、校則の意義について会議が開かれ、僕らの想いが変わるきっかけになったと教えてくれた。その言葉に、胸が誇らしくなった。それ以上のことは聞く必要はないと思い聞かなかった。
もう校則に縛られず、安心して過ごせるからか、昼休みになると多くの生徒がまるで小学生かのように太陽の下で元気に駆け回っていた。空は宇宙のように壮大で、僕たちの高校生活もその空に広がっているようだった。
「なんかさ、君のこと、嫌いじゃなくなったかも」
僕に対し、そんなことを言ってくる人は、険くんだ。思わず、心の扉を開く。確かに、彼との関係も変わってきた。
「僕もそうかも。険くんのこと、嫌いじゃなくなったかも」
僕もそうだ。嫌いじゃなくなった。こんな空に美しいを見せてくれたのだから。むしろ、愛したい。
「ただ君は、校則を破ったから本当は退学なんだよね。あの時はまだ校則、変わってなかったし」
確かに、僕は本当ならあの時はまだ校則が変わっていなかったので、嘘をついたことは適用範囲内だ。法律と同じような仕組みなのだから。でも、僕はここにいる。そんなことを険くんは、僕に対し脅かすみたいだとか、憎むみたいではなく、冗談めかして言ってきだ。
「まあ、嘘じゃなくしたら許してあげるけどなー」
「分かったよ」
どうして険くんがそんなことを言うのかというと、実は昨日、玄音に告白するつもりだと相談したからだった。やはり、僕には玄音が必要で、好きだと気づいたのだ。それ以外に理由はなかった。そんな玄音は係の仕事をしているけれど、もうすぐ来る予定だ。3人で昼食を取る約束をしているのだから。
「ああ、いた!」
今から心の準備をしようとしていたのに、僕の念入りに計算したシュミレーションよりも早く来てしまった。この地に吹く風よりも、音色を奏でる鳥たちのさえずりよりも、そしてはしゃぐ生徒たちの声よりも、大きく響く僕の心臓の音。ただ、今から特別なことをするわけではない。嘘を本当に変える、それだけのことだ。
「あのさ」
「ん? 墨興?」
「突然だけど、前のやつ答えが出た――僕の彼女になってくれませんか?」
「――!」
僕の目の前には大きく開かれた瞳があった。ただ、それはほんの一瞬だった。
「うん、もちろん」
これで、あのときついた嘘が嘘じゃなくなった。僕の目の前にいるのはかのじょではなく彼女である。
険くんも、納得したように、真ん中に割り込んできた。そして、3人でハイタッチをしたのだ。
――嘘をつくことができるようになったけれど、君への好きな気持ちだけは、どんな時でも嘘はつけない。
空は澄み渡り、光が差し込む中、僕らの新たな物語が始まる。そう3人のだ。可能性の広がる未来への期待が、胸をいっぱいに満たしていた。
嘘校則 友川創希 @20060629
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